稲田朋美氏が語る「わきまえていては突破できない」離れる支持層との間で抱える葛藤

撮影:今村拓馬

森喜朗・前東京五輪・パラリンピック大会組織委員会長の女性蔑視発言に対して自民党女性国会議員の中でいち早く異を唱え、党内での女性起用を党幹部に提案した稲田朋美・元防衛相。

保守中の保守、安倍前総理の「秘蔵っ子」とも言われた稲田氏は、この1、2年でクオータ制の必要を訴え、選択的夫婦別姓でも推進に回るなど政治的態度を変え、「変節した」とも言われる。一方、どこまで「本気」なのか訝しむ声も少なくない。

本当に女性の「味方」なのか。本気度を探るべく、インタビューした。


——森氏の発言以降、稲田さんがTwitterで「私は『わきまえない女』でありたい」と発言したことで、取材が殺到してますね。元総理で、所属派閥(細田派)の元会長でもあった森さんに意見することは、正直怖くなかったですか?

森元総理は私も大変親しいです。立派な大政治家で、非常に影響力がある方なので、批判していると思われてはいけないと自制が働いた人も多かったのではないでしょうか。私も、やっぱり少し躊躇するところはありました。

—— 躊躇したというのは、これを言ってしまったら干されるかなという感情ですか?

そういうのは常にあります。自民党は保守なので、女性も男性も「わきまえている」ことが求められているので。

—— それでも今回発言しようと思われたのは?

この2年ほど党内で女性政策をやってきて、そのたびに壁にぶつかってきたので。その時に感じたものと同じものを感じたんですよね。それで……躊躇よりも発言したい気持ちが勝ったんです。

ただ、私は昔から「わきまえて」来てないんです。そうは見られてないかもしれないですが。安倍前総理や森会長にもこれまでにもいろいろ言って、怒られて来ているので。

男女交互の名簿提案で、離れていった男性議員も

森喜朗

Getty Images/Takashi Aoyama

—— 稲田さんが今、政調会長や閣僚でも同じ言動をしたと思いますか。

したと思います。閣僚には官邸の考えなど縛りはあるので難しい面もありますが、多分したと思います。むしろ今政調会長だったら、もっといろんなことができたと思います。

—— むしろポジションについているからこそできることがあると。今回、稲田さんたち自民党の女性議員有志は二階俊博幹事長へ党4役への女性の起用などを盛り込んだ提言も出されました。女性議員有志はすぐに集まったのですか?

あの提言を出すときも、気持ちは同じだけどまだ怖いという人も、一緒に行ったのにテレビには映らない人もいましたが、女性議員の間では共感は得られたと思います。ただそれで自民党が変わったかと言われると変わっていないので、さらに具体的な提言が必要だと感じています。

例えば提言には自民党の立候補者の中に女性を30%、将来的には35%に、と入れました。次の衆院選での候補の立て方は注目されると思うので。

私は昨年、比例名簿の上位から女性・男性と交互にと提言したのですが、党内の男性議員からものすごく批判されて、それがきっかけで私から離れていった人もいます。自分の議席を失う人もいて、政治生命に関わることなので反対は根強い。

それで比例の下位に女性を入れるという案を出し、これには選対委員長や総務会長からは「抵抗はまだ少ないね」と言われています。ただ比例下位の現職議員もいるから反対する人もいるし、そもそも下位に並べても当選するかも分からない。

もっとメインテーブルに座らせてほしい

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撮影:今村拓馬

—— 自民党の支持率が低ければ当選はより難しく、アリバイ作りだと見られる可能性もあります。一方で先日の提言後に、自民党の会議への女性議員のオブザーバー参加が認められたものの発言権なしということが批判され、こちらは保留になりました。

ただ二階幹事長は、女性の応援をする気持ちは、党幹部では一番ある方なんです。ただオブザーバー参加は少し方向が違うなと。1年生議員の勉強にはいいのですが、私たちはもっとスピード感をもって、現在を変えたい。だから今メインテーブルに座らせてくださいと提言しました。意思決定のプロセスのコアなところに女性を入れると全然違うと思うんで。

先ほどの女性候補者の話も、ある党幹部からは3年くらいかけて比例下位に並べる女性を探しなさいと言われたのですが、3年はかけられない。しかも私たちでなく、本来は党が探し、取り組むべきだと思っていますが、まだそこまでの意識はないんですね。

防衛相時代、つらかった服装への批判

防衛大臣時代の稲田朋美氏写真右はJames Mattis

防衛大臣時代。南スーダンの日報隠蔽問題では責任を厳しく追及されたが、それ以外にも服装などが週刊誌の話題になることも多かった。

REUTERS/Edgar Su

—— 稲田さんはこれまで安倍前首相の「秘蔵っ子」と言われ、保守中の保守のイメージが強かったです。クオータ制(女性へ一定数議席を割り当てる制度)にも、選択的夫婦別姓にも消極的でした。それがこの1、2年女性政策に非常に熱心になり、「変節」とも報じられています。防衛大臣の時の経験が自分を変えた、とおっしゃっていますが。

防衛大臣をやって私はペシャンコになったので。そこで弱い立場の人、自民党ではまずメインテーマになることはないところにに関心を持つようになりました。

—— 自民党内の女性議員比率は1割程度。それまではマイノリティでつらい思いをした経験はなかったんですか。

なかったんです。今から考えるとおかしかったなと思うぐらい、行革担当大臣や政調会長、防衛大臣と順調過ぎたんです。でも、その中で1年間の防衛大臣時代は非常につらかった。自信もなくし、弱い立場の人たちの気持ちが自分のことのようになってしまったんです。

—— 防衛大臣時代は南スーダンの陸上自衛隊「日報隠蔽問題」などもあって批判されましたが、それ以外に女性の大臣ということでのつらさはありましたか。

スカート丈が短いとかイヤリングが揺れているとか服装への批判はこたえましたね。とにかく毎日週刊誌の記者が家の前に立っていて、毎週月曜日になると週刊誌からファックスが来て、何時何分から国会で寝ていたとか。

政調会長時代から安全保障政策は勉強していたつもりでしたが、知らないことも多く……反省も込めて未熟だったなと感じます。

—— 女性で政界でポジションを上げていくと、発言の一つひとつが男性以上に批判にさらされるという実感はありましたか?

あるところまでは応援されるけど、ある一線を超えると急に批判が多くなると感じました。その一線はやはり大臣なのかなと。まだ数が少ないがゆえに注目され、批判の対象にもなる。これが女性閣僚が4割ぐらいなれば、もっと違ってくると思います。

—— その後稲田さんは「女性議員飛躍の会」を立ち上げ共同代表になります。稲田さんが女性議員をまとめられることに私は正直驚きましたが、周囲の女性議員の反応はどうでしたか。

割と自然だったと思います。もちろん批判をする女性議員もいらっしゃいました。それでも私は議連(議員連盟)という形でつくってよかったと思うのは、自民党女性局などの党の組織だと男性も入っているし、そこで何かを決めるのは時間もかかる。何人か反対意見が出ると、動けなくなる。議連だと制約なく党よりも突出したことも言えて、提言することもできるので。

変わったことに私自身は後ろめたくはない

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撮影:今村拓馬

——「変節」したという声はどう受け止めてらっしゃいますか? 特に保守の支持者は相当離れていったのではないですか。

そうですね。自分としては……イメチェンとか変節という意識はないのですが、でも言っていることも見方も変わってきたのは事実です。でも私は変わるっていいことだと思っているんですね。国会議員になって16年目ですけど、16年前よりいろいろなことを見たり経験して、以前と違う意見も言うようになったことに対して、私自身は後ろめたくはないんです。自分は進歩していると思うのですが、周りからはやはりがっかりしたとか、もう応援しないとか、さまざまな批判が来ます。

—— 保守の議員の支持団体の一つである日本会議などが掲げる伝統的な家族観と、女性の社会進出は相容れない部分が多いですが、稲田さんは自身の変化と支持団体の価値観の折り合いをどうつけていらっしゃるんですか。

折り合いはついてないですね(笑)。ついてないからちょっと苦しいです。

私は虚構の部分も含めて、保守の中のジャンヌダルク的な存在を担わされていましたが、等身大の私はそういう感じはなかったんです。ある意味象徴的な存在から私がはみ出てしまったことで離れている人も多く、特に弁護士時代から応援してくれていた、コアな支持者の人たちが離れていくのは悲しいです。

では自分は本当に何を目指しているかというと、強くて優しい国なんだなと。簡単に言うと、強いというのは憲法改正や防衛、経済の面では「強いもの」を目指す一方で、人に優しい、本当に困っている人を助ける政治をやりたいと思っているので、自分の中では折り合いはついているのですが、私を見ている人は折り合いはつかないとは思います。

神道政治連盟の国会議員団体の事務局長も更迭されました。

決定的だった選択的夫婦別姓をめぐる違い

—— それは何が原因だったんですか。

決定的だったのは選択的夫婦別姓です。私はファミリーネームの存在価値も分かるので「婚前氏続称制度」を提唱しています。旧姓を「通称」という形で使うには限界はあるし、世界では通用しない。旧姓を届け出て、戸籍にも書いて、法的効果も認めてもらう。ファミリーネームの価値も残しつつ、女性が名前を変えることなく使い続けられる制度を1時間半にわたって説明したのですが、全く理解されませんでした。

この提案は保守派の議員からもそれは夫婦別氏だと言われて、家族の一体感がなくなると大反対されています。でも、これだけ女性が活躍している中で、誰かが我慢をしたり不便を強いられるでは、進歩がないと思うんです。

—— ものすごく不便です。私はそれで事実婚を選んでいるので。女性が経営者になるときには戸籍名でなければ登記できません。それまで通称で仕事してきて、社長になった途端に名前を変えざるを得ない人もいます。

政治で言えば、大臣相手の訴訟を起こされたりすると、その時は戸籍名なんです、政治家も旧姓を通称として活動している人も多いので。名前が違って、書類を戻されるケースがあったり、何かの賞を出すときの賞状の名前も戸籍名なので、通常使っている名前とは違う。そういうことを話すと、エリートの女性の話ばっかりと言われますが、一般の人でも日常のいろいろな場面で苦労しますよね。

自民党が変わらないのは危機感がまだないから

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撮影:今村拓馬

—— 女性議員の中でも選択的夫婦別姓に反対する人もいます。第2次安倍政権では女性活躍を掲げながら、活躍の土台となる名前の問題などには踏み込まなかった。そこに本音と建て前の使い分けを感じ、政策の整合性がないと感じていました。

結局労働力としては期待されるけど、女性を男性と同じ1人の人間として尊重していないのではないかと。これは女性就労数を表すM字カーブが解消したと言っても、その内実は非正規社員が増えただけ、ということにも通じると思います。

ですよね。それを考えると、やはり私もそこに何もしないというのは違うと思います。

やっぱり根本に男性が稼ぎ手で、女性はサブで家のことや育児をやるというスタイルをモデルにしているからだと思うんです。そこから変えていかないといけない。でないと女性が正当に評価されて活躍できる社会は難しいなと感じます。

—— それを自民党内でどう進めようと思っていらっしゃいますか?

変わらないのは、まだ危機感がないんだと思います。安倍政権時代からもいつ調査しても、自民党の支持率は女性の方が10ポイント低いんですね。本来はなぜ女性の支持が低いのかを議論すべきだと思いますが、支持がないんだから、女性をスルーしてしまうんです。それはちょっと違うなと思っています。

—— 自民党は危機の時に女性を利用してきた感じがします。例えば小泉郵政選挙のときには女性の「刺客」を抵抗した議員の選挙に立てたりと。でもそのあと育てようとはしていない印象を持っています。

確かに自民党がスキャンダルなどで大変な時には女性を登用するけど、安定してくると元に戻る感じがあります。当選したあとフォローがないのは男女とも同じですが、そうなると地方の県連などとの関係で女性が苦労してますね。全く地元に帰って来ないなど、いろんな悪口を言われたり。それでただでさえ少ない女性議員なのに、さらに次の公認が取りにくくなる。それが(女性議員が)増えない一つの理由かなと感じます。

女性は下駄を履いていない

菅政権女性2人問題

菅政権が発足した際、女性閣僚が2人しかいないことも批判された。

Getty Images/Rodrigo Reyes Marin Pool

——例えば去年、菅政権になったときに女性閣僚が2人しかいないことが批判もされました。党幹部にその理由を聞いたところ、女性の閣僚登用に際しては能力や適性を問われると。男性は当選回数や派閥の論理で、答弁が覚束ない人でも大臣になれるのに、と思います。

それはあると思います。男性だと派閥順送りなのかな、と思うことがありますが、女性は許されないですよね。そういう意味では女性は下駄を履いていないと思います。ただ、女性閣僚が5人になった時もあるので、その時の総理の意向が大きい。だから女性を増やすには女性が総理か幹事長になれば変わると思います。

—— 稲田さんは自民党総裁選にも挑戦しようとしてますが、派閥の論理の中ではなかなか総裁選の出馬すら難しい。順番は回ってこないですよね。女性議連をバックに総裁選に出ることも考えてますか。

まず(推薦人になってくれる)20人ですよね。ついてきてくれる20人。ちょっと変わった人しかついてこないと思いますけど(笑)。そこから集めないといけないなと。派閥の中で偉くなるには、それこそわきまえていないといけないので。

—— そこの道はもう選ばないと。

選ばないですね。というよりも冷静に見て難しいと感じます。

派閥でエラくなることを考えるより、このコロナの後の日本をどうするのかにもっと向き合いたいと思います。安全保障も経済も、財政も変えていかなければいけないときに、総理の選び方が派閥単位で、政策は関係なしで、1、2日で決まる形でいいのだろうかと思います。

わきまえないで突破するしかない

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撮影:今村拓馬

—— それは正論だと思いますが、先ほどおっしゃったように保守の支持層が離れていって、「変わった」稲田さんに新しい支持層はついて来ていると感じますか。

それがまだ固まっていないのが厳しいなと。でもコアな支持者が離れていく中で、それでもふんわり程度には支持してくれる人は地元でも出てきてくれてます。

私の地元(福井)の新年会などは参加しているのは全員男性で、女性は台所でエプロンつけて働いているんです。私はずっとその状態が気にならなかったのですが、さすがに昨年は気になっちゃって。次の新年会は女性が座って私の話を聞いてくれて、男性がエプロンをつけてお雑煮作っていたら素敵だなと言ったら、キョトンとされました。まだキョトンです。でも、女性は拍手ですよ。

後援会長も私1人を除いて全員男性なんですよ。たまたま1人女性に入ってもらったんですが、そしたら出しゃばっているとかいろいろ批判が来る。そうすると女性がなりにくいですよね。後援会長が半分女性だったら誰も批判めいたことは言わないなと感じます。

—— ふんわり増えているという支持者は女性ですか?

圧倒的に女性ですね。ただこれまで支持してくれたガチッとしたコアなファンとは違いますから、今は過渡期で結構苦しい時だなと思います。今は自分がやりたいことをちゃんと言葉で表して、単発でも政策にして、どういう日本にしたいのかを示していくことかなと思っています。

日本はどこで社会変革を起こすのかが課題ですけど、変革を目標にしていたら絶対できないんです。やることは「突破」です。どんな課題でもそうです。特に抵抗の力が大きいものを突破するのは、わきまえない人でないとできないと思っています。

(取材・文、浜田敬子、撮影・今村拓馬、取材協力・丹治倫太郎)

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