- デジタルアーティスト「ビープル」が制作した2つの作品の価格が合わせて1000万ドル以上になりそうだ。
- 彼の作品の価格は上昇していて、購入価格の約100倍で転売した人もいる。
- 主要なオークションハウスが「ビープル」の作品を販売するのは初めてだ。
デジタルアーティストのマイク・ウィンケルマン(Mike Winkelmann)、通称ビープル(Beeple)が、クリプトアートの記録を塗り替えている。彼の2つの作品の価格は、合わせて1000万ドル(約10億8000万円)以上になる見込みだ。
ウィンケルマンが以前Insiderに語ったところによると、彼はこれまで決して、作品を今のような価格で販売しようとしたことはないという。
「自分の作品に969ドル(約10万5000円)以上の価格をつけたことは一度もない」と彼は語った。
2021年2月には、ウィンケルマンの作品「Crossroad」が、これまでのクリプトアートで最高額となる660万ドル(約7億1400万円)で転売された。そして、もう1つの大きな作品「Everydays. The First 5000 Days(エブリデイ:最初の5000日)」のオークションが、2月25日から開催されている。
1766年に設立されたオークションハウスのクリスティーズが、「Everydays」のような純粋なデジタルアートを扱うのは初めてのことだ。このオークションは3月11日まで開催され、入札額はすでに350万ドル(約3億8000万円)に達している。この作品の取引で暗号通貨のイーサリアムが使用できるのも初めてのことになる。
ウィンケルマンの作品は、新たなタイプのデジタル資産であるNFT(Non-Fungible Token:代替不可能なトークン)だ。このようなデジタルトークンは、パンデミック下で急速に人気が高まっている。NBAやナイキ(NIKE)などもこの流行に乗り、歌手のグライムス(Grimes)はアートコレクションを販売して、20分足らずで約600万ドル(約6億5000万円)の収益を得た。
BNPパリバ傘下のラトリエ(L'Atelier BNP Paribas)とnonfungible.comの2020年度のレポートによると、ビープルの作品のほとんどは、10万ドル(約1080万円)を優に超える価格で販売され、デジタルトークンのマーケットを2億5000万ドル(約270億円)規模に押し上げたクリプトアートのブームを牽引している。
NFTはこのマーケットの未踏の領域を象徴するものだが、デジタル資産はオポチュニスティック型(ハイリスクハイリターンな資産運用)の投資家に対し、すでに数百万ドルの利益をもたらしている。
マイアミを拠点とするアートコレクターでNFTの投資家でもあるパブロ・ロドリゲス=フレイル(Pablo Rodriguez-Fraile)は、ビープルの「Crossroads」を購入して半年も経たない2021年2月に、購入時の100倍近くの価格で転売した。彼は、アートコミュニティでのビープルの評判に惹かれて同作品を購入したとCNBCに語った。
ロドリゲス=フレイルのようなNFT投資家にとって、デジタルトークンの価値とは、その唯一性あるいは本物であること、そして作家に紐づけられていることにある。
「ルーブル美術館でモナリザの写真を撮っても、それは作品の出所あるいは歴史と関係がないため、何の価値もない」とロドリゲス=フレイルはCNBCに語っている。
「作品の背後に誰がいるのかというのは、非常に価値のあることだ」
一方でアーティストも売却した作品から、その後も利益を得ることができる。「Crossroads」の販売に使用されたNifty Gatewayのような多くのNFT取引プラットフォームでは、作品が将来的に転売された際にアーティストが手数料を受け取れるようにしているからだ。ウィンケルマンがInsiderに語ったところによると、Nifty Gatewayは10%のロイヤリティを設定しており、ロドリゲス=フレイルが「Crossroads」を転売したことで、ウィンケルマンは最初の販売額よりも多くの利益を得たという。
「ニャンキャット」のGIFアニメーションを作成し、約60万ドル(約6500万円)で売却したアーティストのクリス・トーレス(Chris Torres)は、NFTによってアーティストはパワーを取り戻すことができるとInsiderに語った。
「ビープル」という名前は、以前からネット上で話題になってきた。ウィンケルマンは、物議を醸しているトピックを軽妙なタッチで表現することで知られており、クリスティーズによると、彼の作品は風刺的であるだけでなく「無礼」で「未来的」とも評されている。彼は、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)、スペースX(SpaceX)、ケイティ・ペリー(Katy Perry)、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)など、注目すべきブランドやアーティストとともに仕事をしてきた。
660万ドルで転売された「Crossroads」は、全身をタトゥーで覆われたドナルド・トランプ(Donald Trump)が、裸で公園に倒れ込んでおり、その横を、人々が素知らぬ顔で通り過ぎる様子を描いた10秒の動画だ。
ウィンケルマンのもう1つの作品「Everdays」は、彼が5000日にわたって描き続けてきた作品をコラージュしたものだ。クリスティーズのスペシャリスト、ノア・デイヴィス(Noah Davis)は、この作品はウィンケルマンのアーティストとしての成長を示しているとプレスリリースで述べ、この作品に予想価格をつけるのは難しいとも付け加えた。
「通常は査定依頼に応じているが、この作品に関しては予想価格不明としている」とデイヴィスは述べた。
「我々は、この作品で新たな分野を開拓しているところだ。おそらく、あなたの予想と我々の予想は同じくらいだろう」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)