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- イタリアが新型コロナウイルスのワクチンのオーストラリアへの輸出を阻止した。
- EU関係者はInsiderの取材に対し、アストラゼネカ社製のワクチン25万回分の輸出を差し止めると決めたのはイタリアだと認めた。ワクチンはイタリア国内で製造されたもの。
- EUは1月末に域外へのワクチンの輸出制限措置を導入していて、イタリア政府はこれを発動させた。
イタリアがアストラゼネカの新型コロナウイルスのワクチンについて、オーストラリア向けの輸出を阻止した。EUが1月末に域外へのワクチンの輸出制限措置を導入して以来、初めてのことだ。
EU関係者はInsiderの取材に対し、EU域内でのワクチン供給を後押しするため、イタリアが先週、国内で製造されたアストラゼネカのワクチン25万回分の輸出を差し止めると決めたと認めた。
ヨーロッパでは多くの地域でワクチンの接種が思うように進んでおらず、その接種率でイギリスやアメリカに大きく後れを取っている。
EUは1月末に域外へのワクチンの輸出制限措置を導入していて、イタリア政府はこれを発動させた。
ワクチンの普及を急ぐイタリアのマリオ・ドラギ首相は2月、EU加盟国の指導者らに対し、なぜEUはワクチンの輸出にもっと厳しい措置を取らないのかと訴えたと、フィナンシャル・タイムズは報じた。
ワクチンの供給不足をめぐって、アストラゼネカやイギリス政府と対立する中、欧州委員会は1月末にワクチンの輸出制限措置を導入した。
EU側は、イギリスに本社を置くアストラゼネカがEU域内で製造されたワクチンの一部をイギリスに優先的に回していたのではないかと疑っていたようだ(これは契約違反にあたると、EU側は述べている)。
こうした"疑惑"の中で、EU加盟国は国内で製造された他国向けのワクチンの輸出を阻止できる措置を導入した。
欧州委員会には、イタリアの判断に反対ならそれを拒否する権利もあったが、そうはしなかったとEUの関係者はInsiderに認めた。フィナンシャル・タイムズは、イタリアは先週、この判断をEU側に伝えたと報じている。
今回の動きは、新型コロナウイルスのワクチン供給をめぐって、すでに高まっている世界的な緊張をさらに高める危険がある。
国際商業会議所(ICC)は、今回のEUの動きがワクチンのサプライチェーンの問題を悪化させる恐れがあると指摘した。
「ヨーロッパ内に政治的プレッシャーがあることは理解するものの、国内のワクチン目標を達成するために輸出を阻止することは、政策立案者にとって非常に危険な選択だ」とICCのジョン・デントン(John Denton)事務局長は言う。
「EU域内でのワクチン製造は本質的にグローバルなサプライチェーンに依存していて、わたしたちが繰り返し警鐘を鳴らしてきたように、これは報復的な貿易措置の激化に弱い。ワクチンの需要がかつてないほど高まっている中、こうした世界的な生産ネットワークはすでにひずみを見せている」
「つまり、数千回分のワクチンを手に入れるために輸出を制限すれば、目の前の政治的勝利は得られるかもしれないが、もしヨーロッパの製造業者が生産を維持するのに必要な調達ができないとなれば、高い代償を払うことになりかねない」とデントン氏は言う。
「すでに発動してしまったかもしれないが、貿易制限がさらにエスカレートするのを欧州委員会がストップさせるのに遅過ぎることはない。導入した輸出制限措置を直ちに法令集から削除することが不可欠だ」
「貿易制限の発動は、自国のワクチン普及を急ぐのに持続的な手段ではない。あらゆる人々にあらゆる場所で遅れなくワクチンを接種するという課題は、製造を拡大し、流通を急ぐ国際的な協調を通じてのみ解決できる。政府が方針を転換させ、長期化するパンデミックによる甚大な経済的、社会的リスクを回避するのに遅過ぎることはない」
(翻訳、編集:山口佳美)