マイクロソフトは、Teamsを単なるコミュニケーション・ツールとは考えていない。
先日オンラインで開催されたマイクロソフトの年次開発者会議「Microsoft Ignite」において、野心的な発表が行われた。メッセージングやオンライン会議に止まらず、VRやAR(拡張現実)を利用する新たな機能を備えたプラットフォーム、Microsoft Meshの発表だ。
Microsoft Meshは、複数のクラウドツールを組み合わせたアプリ開発プラットフォーム。そこで開発されたアプリによって、利用者同士はあたかもそこにいるかのように「会い」、「協働」できるようになるという。
マイクロソフトは近い将来、Microsoft Meshの機能をTeamsに搭載させる計画だ。そうなれば、異なった場所にいる利用者も、まるで同じ場所にいるかのように実体験的に会うことが可能となる。
Teamsのデイリーアクティブユーザー数は2020年10月時点で1億1500万人を突破。マイクロソフトは今後、Teamsをワークフロー・プラットフォームへと進化させていくと見られる。
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これはもはや未来の技術の話ではない。Teamsを、フル機能を搭載したプラットフォームへと進化させる——今回の発表は、同社経営トップのそうした意思の表れだと専門家は見ている。
シリコンバレーの市場調査会社クリエイティブ・ストラテジーのアナリスト、キャロリーナ・ミラネシはInsiderの取材に対し、「マイクロソフトが今後、Teamsを同社史上最大のワークフロー・協働プラットフォームとして開発しようとしていることは間違いない」と述べ、Teamsを「増強されたMicrosoft Office」のようなものと呼んだ。
2020年10月時点のマイクロソフトの発表によれば、Teamsのアクティブユーザー数は1日1億1500万人だった。これは、同年4月下旬の発表と比べると7500万人の増加だ。パンデミックによるリモートワーク化が利用者増加に拍車をかけている。
「ポートフォリオをいかに最大活用するか」
今回のMicrosoft Igniteで発表されたTeamsの新機能は、Meshだけではない。PowerPointやDynamics 365といった他のソフトウェアとの統合も進められるという。
新たな機能によって、Teamsは競合製品と肩を並べることになる。そのひとつである「コネクト」機能を使うと、Slackの「共有チャンネル」と同じように、企業は顧客や取引先をTeams上の共有チャットルームに招待することができる。
また、PowerPointとの統合も進む。Zoomの画面共有機能と同じように、これからはTeams上でも、プレゼンターが対面でプレゼンしているかのようなスライド共有が可能となる。
調査会社ヴァルワールのアナリスト、レベッカ・ウェッタマンによると、今回のマイクロソフトの発表は、究極的には「マイクロソフトのポートフォリオをいかに最大活用するか」を示しているという。この巨大IT企業が、Teamsを同社製品・サービスのポートフォリオの中核に据えようとしている意志が見て取れる。
デジタル・イノベーション調査会社フューチャラム・リサーチのアナリスト、ダニエル・ニューマンによると、マイクロソフトは、Teamsを徐々に業務用OSへと進化させており、今後は仕事に必要なソフトウェアやツールのすべてがチャット機能を備えた一つのインターフェース上から操作可能になるという。リモートワークへのシフトが加速するなか、その重要性は増している。
ニューマンはInsiderの取材に対し、次のように述べる。
「これからは、WindowsやOSを起動することなく、もちろんオフィスに行くこともなく、Teamsを開けば協働、コミュニケーション、生産性、プレゼンテーションといった仕事に必要な機能すべてに手が届く“中心”に入ることができる。
他社も同じようなプロダクトを目指しているが、マイクロソフトの優位性は、すでにあらゆる要素を自社で備えている点だ」
Meshの発表は、この発想をVRを活用して実現しようというものだ。マイクロソフトをはじめとするIT企業は、それが次のコンピュータ・プラットフォームの主役になると考えている。ウェッタマンはこう指摘する。
「マイクロソフトは、最先端の研究開発を数多く進めてきたうえに、実用的な業務用アプリケーションを実現してきた実績がある。今回の動きは、マイクロソフトの研究と実際のOfficeやTeamsのユーザー体験を合体させるものだ」
さらに、MeshとTeamsの組み合わせは、VR自体の転換点となるかもしれない。
テック系調査会社ムーア・インサイツの創業者兼アナリストであるパトリック・ムーアヘッドは、この組み合わせを「複合現実(MR)の議論を前進させるもの」と見ている。
マイクロソフトはTeamの未来に大きな期待を寄せる
マイクロソフトは2020年、Teamsユーザーの増加を同社幹部のボーナスに反映させる制度を導入した。同社にとってTeamsがいかに重要かを物語るエピソードだ。マイクロソフトでは、取締役会が経営幹部の業績連動型株式報酬を決める際、クラウドの売上や利用者数、Teamsの月間アクティブユーザー数、Xboxゲームパス利用者数、Surface PCの売上、LinkedInのセッションなどの数値を勘案する。
マイクロソフトは、その中でTeamsの優先順位を上げるために、報酬計算上のTeamsの比重を高めた。具体的には、業績連動型株式報酬の計算において、Teamsの月間アクティブユーザー数の伸びが占める比重を10%から20%へと倍増させている。
フューチャラムのニューマンによると、これらが物語るのはTeamsがもたらす永続的価値だという。特にパンデミック後も、多くの企業においてリモートワークがニューノーマルになると予想されるため、その価値はなおさら高まる。
ニューマンの見立てによれば、VRのヘッドセットがもっと軽少で使いやすいものになるまではMeshの普及は本格化しないものの、マイクロソフトはTeamsを永続的なプロダクトとして開発しているという。
「私たちは、実際にそこにいて会わなければならない。会って対話し、一緒に仕事に取り組まなければならない。Teamsは、そのためのリモートワーク用OSへと進化しつつある」
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)