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【更新】5人目のセクハラ告発。「コロナ禍の英雄」クオモNY州知事が失職の危機。死亡者過少申告を契機に

(※記事公開後、現地時間の3月7日までにさらなるセクハラ告発が明らかになったため、関連情報を挿入してアップデートしました。3月8日 12:00)

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3月3日、ニューヨーク州オールバニの街頭に掲げられた「いますぐ辞めろ」の看板。オールバニは、クオモ知事が暮らす同州の州都だ。

REUTERS/Mike Segar

2020年3月、米ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ州知事(民主党)の人気は急上昇だった。

新型コロナウイルスの感染爆発地となったニューヨークを救うため、病床、医療器具、ボランティアを全米から刈り集め、連日行われた記者会見はファンから「癒し」とまで言われ、テレビ局は全国放送でその様子を流した。

あれから1年が過ぎたいま、クオモ氏には捜査当局の手がおよび、身内のニューヨーク州民主党幹部から辞任を求める声が上がっている。

捜査の対象となっているのは次のようなことがらだ。

  • ニューヨーク州は高齢者施設での新型コロナ感染による死亡者数を過少に発表していた疑いがある(→同州東部地区連邦地検が捜査に着手)
  • クオモ氏の元同僚の女性らが、セクハラ被害を受けたと告発(→ニューヨーク州司法長官が特別捜査官による独立調査を指示)

これらの事件は、ヒーローだったクオモ氏が辞任に追い込まれるか、そうでなければ州議会の弾劾を受けて罷免されるという政治的問題にまで発展する可能性がある。

いま、クオモ氏は何を問われているのか、整理してみたい。

カビの生えた食事、やせ細って変わり果てた母親の姿

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高齢者施設での療養中にコロナ感染して死亡したサリバンさんの母親のケースを、悲痛な生前の肉声とともに報じた米ニューヨーク・タイムズのポッドキャスト。

Screenshot of New York Times website

「母が高齢者施設に入ったのは単なる怪我の療養だったのに、施設側は電話でさえ話させてくれなくなりました。納得できず、自分で施設まで行って、警備をふり切って母の病室にたどり着くと、ベッドサイドに置かれた食事にはカビが生え、母は14キロも痩せていたんです」(ニューヨーク州在住のローリ・サリバンさん)

米ニューヨーク・タイムズのポッドキャスト「ザ・デイリー」を聴くと、電話取材を受けるローリ・サリバンさんの怒りがその声から伝わってくる。彼女は母親のロレインさんと二人暮らしだった。

2020年2月、サリバンさんの母親はキッチンで足をすべらせ、膝を負傷して入院。歩けるようになるまで時間がかかったため、隣接する高齢者向けの療養施設に移された。

直後の3月半ば、高齢者施設は新型コロナ対策の一環として面会が禁止に。そしてその数週間後、サリバンさんが病室に駆けつけたとき、しっかり者だった母親は施設のベッドで変わり果てた姿で横たわっていた。

翌週、サリバンさんの母親は亡くなった。新型コロナウイルスの犠牲者として。

面会禁止措置により外部からの訪問者を遮断していた施設で、なぜ母親はコロナに感染したのか。なぜ、施設側は母親の容態変化について経過をほとんど連絡してくれなかったのか。サリバンさんは問う。

コロナ治療の訴追を免除された医療施設

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ビビアン・リヴェラ−ザヤスさんとその母親アナ・マルティネスさんの悲劇を報じる米ニューズウィーク。

Screenshot of Newsweek website

サリバンさん母娘と同様のケースについて、米ニューズウィークと調査報道サイト「デイリー・ポスター」が、詳しく報じている。

犠牲者は、ニューヨーク市に住むビビアン・リヴェラ−ザヤスさんとその家族。2020年1月、母親のアナ・マルティネスさんは、膝の手術後の経過が悪く、前出のサリバンさんの母親と同じ高齢者施設での療養を医者から勧められた。

当初は数週間の療養の予定で、1月末には自宅に戻れるはずだった。健康状態も良好だと聞かされていた。

しかし、何度か療養が延長がくり返されたのち、3月末に施設から連絡があり、咳や呼吸困難などの症状が出ているけれども、呼吸補助のための酸素タンクをつけるので退院させたいという。

ところが、退院予定だった当日、母親のアナさんは隣りの病院に緊急移送された。医者によれば、肺虚脱と腎不全を併発しているという。

その2日後の4月1日、ビビアンさんは救急治療室(ICU)からの電話で、母親が新型コロナ感染症で死亡したことを知らされた。彼女はショックで床に倒れ込んだ。

ビビアンさんとその家族は、母親がどんな治療や待遇を受けたのか明らかにしようと、高齢者施設を相手どって訴訟を起こそうとした。しかし、引き受けてくれる弁護士がいっこうに見つからない。

なぜか。それは、クオモ州知事が新型コロナ対策の予算に盛り込んだ「緊急災害治療法」が立ちはだかったからだ。同法はニューヨーク州予算案の347ページ目に記載され、医療関係施設はパンデミックの間、民事・刑事訴追を免除されるというものだった。

「公共衛生上の緊急事態において、新型コロナウイルスに感染した個人の治療によって生じた結果の責任から、医療施設と医療スタッフを保護する法律」(ニューヨーク州議会に提出された議員メモ)により、施設の経営・運営者、スタッフまで、医療従事者はコロナ患者の治療について責任を免除されたのである。

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クオモ州知事(を支持するニューヨーク州民主党支部)への医療関連業界からの献金と「緊急災害治療法」の関係性を報じるデイリー・ポスターの記事。

Screenshot of Daily Poster website

この法的措置は(日本ではほとんど報じられていないが)献金をめぐるスキャンダルにもつながった。

デイリー・ポスターによると、クオモ政権はこの法律を、医療関係業界の強力なロビー団体から125万ドル(約1億3000万円)の献金を受けたのちに、予算案に忍び込ませた。該当する文言の存在に気がついた民主党州議員の反対もかなわず、緊急災害治療法は2020年3月に発効した。

ロビー団体の名は「Greater New York Hospital Association(GNYHA)」。同団体は「この法的措置のため、法律のドラフト(草案)を提供し、実現のために積極的にロビー活動した」ことを、会員向け記事のなかで明らかにしている。

「あなた(=医療関連施設の経営者)とあなたの英雄的な従業員は、異常に困難な状況において下した決断や行動に関する責任を心配することのほかには、ただ苦悩するしかありませんでした」

「クオモ州知事が、私たちの懸念に耳を貸してくれたことに大変感謝しております」

コロナ感染者を高齢者施設に送るという「過失」

ニューヨーク・タイムズのエイミー・ジュリア・ハリス記者(=前出のポッドキャスト「ザ・デイリー」の取材を担当)は、もう一つのクオモ政権の「過失」を指摘している。

1年前の爆発的感染のさなか、クオモ政権はコロナ患者の激増に対応するため、病床数の確保に血眼になっていた。クオモ知事は緊急命令に矢継ぎ早に署名し、ニューヨーク市最大の会議場を突貫工事で病院に改築し、連邦政府から病院船まで呼んだ。

そうした病床拡大のための緊急命令のなかに、高齢者施設の病床利用が含まれていた。なんと病院で収容しきれないコロナ患者を、感染リスクの高い高齢者や既往症患者がいる高齢者施設に送り込めるようにしたのだ。

高齢者施設には十分な医療器具やスタッフもなく、たちまち新型コロナに感染して死亡者が急増し、まもなく限界に達した。

冒頭で触れたローリ・サリバンさんの母親は、膝を負傷して高齢者施設の療養病棟に入院し、その間に他の病院から送られてきたコロナ患者が持ち込んだウイルスに感染し、死亡した可能性が高い。高齢者施設の利用者やその家族は、まさかコロナ患者が外部から移送されてくるとは思わなかっただろう。

ここまで紹介してきた経緯を踏まえると、クオモ知事が捜査対象となっている一つ目の事件、つまりニューヨーク州が高齢者施設での新型コロナ死亡者数を過少報告していた理由も、何となく見えてくる。

クオモ政権に「爆弾」を落とした民主党選出の司法長官

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1月11日、州政府で演説するクオモ州知事。

Hans Pennink/Pool via REUTERS

それにしても、なぜ死亡者過少報告の事実は発覚したのだろうか。

2021年1月、クオモ政権に「爆弾」を落としたのは、身内である民主党の選出で、人気のニューヨーク州司法長官レティシア・ジェイムズ氏だった。

彼女が公表した調査報告書は、ニューヨーク州政府が発表した高齢者施設での新型コロナ死亡者数は、8700人超よりも50%多いと指摘した。報告書の主旨は以下の2点に要約される。

  • 8700人という数字は、高齢者施設内で死亡した患者だけを数えていて、コロナに感染したあとに一般病院に移された入居者を勘定しておらず、施設からの移送後に死亡した数を合わせると、総計1万5000人にのぼる。
  • クオモ知事の緊急命令により、一般病院から高齢者施設に送られたコロナ患者は約6000人にのぼり、この措置が高齢者施設での死亡率を高めた可能性が高い

同報告書の指摘に対し、クオモ氏は記者会見でこう反論した。

「ニューヨーク州の高齢者施設での死亡者の割合は、全米平均の33%より低く、28%にとどまっている。いったい誰が気にするんだ。病院で死のうが、高齢者施設で死のうが、彼らは同じ死亡者なんだ

この発言は、医療体制が崩壊した高齢者施設の職員や、亡くなった入居者の家族らには聞き捨てならない冷たいものだったので、筆者はよく記憶している。

3件のセクハラ・パワハラ告発

高齢者施設での死亡者数を隠ぺいした疑惑に続いて、クオモ氏の名声を失墜させたのが、相次いで浮上したセクハラ・パワハラ疑惑だ。3月4日時点で以下にあげる3件の告発があり、3月7日までにはさらに2人の女性が声をあげた

  1. クオモ知事の元経済補佐官で、現在ニューヨーク市マンハッタン区長の候補となっているリンジー・ボイランさんが、オフィス内でキスされたり、移動中の機内でストリップ・ポーカーに誘われたりなどのセクハラ被害を告発した(2月24日、ブログサイト・メディア等)。
  2. クオモ知事の秘書兼保健政策ディレクターを務めていたシャーロット・ベネットさんが、「年上の男性と関係を持ったことがあるか」などと性生活について質問されたほか、パワハラの被害にあったと語った(2月27日、ニューヨーク・タイムズ)。
  3. アナ・ルックさんが友人の結婚式に参加した際、初対面のクオモ氏に、ドレスのデザインで開いていた背中に触られ、両手を頰に当てられて「キスしてもいいか」と尋ねられたと告発した(3月1日、ニューヨーク・タイムズ)。

これらの告発に対し、クオモ氏は3月3日の記者会見でこう語った。

「深く謝罪したい。しかし、私は誰かに不適切に触れたことは一度もない。そのとき、誰かを不快にさせていたとは知らなかった。痛みを与えたり、傷つけたり、不快にさせるつもりは決してなかった」

クオモ氏は州知事を辞任しないとし、捜査当局からの報告を待つ意向を記者会見で訴えた。

しかし、3月6日にはウォール・ストリート・ジャーナルがクオモ氏の政策担当側近だったアナ・リスさんの告発を掲載。さらに、ワシントン・ポストが3月7日、別の側近カレン・ヒントンさんが受けたセクハラについて報じた。

これを受けて、ニューヨーク州議会民主党トップのアンドレア・スチュアートーカズンズ氏は声明を出し、「州のために、クオモ氏は辞任すべきだ」と要請している。

自らと政権の過ちを認めようとしない

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3月2日、ニューヨーク・マンハッタンにて。クオモ州知事の辞任を求める市民たち。

REUTERS/Shannon Stapleton

#MeToo運動でやっと灯った火を消さないためにも、セクハラ・パワハラについての処分は断固として行われるべきだ。前出のニューヨーク州のジェイムズ司法長官は、同州やニューヨーク市、連邦の法律に触れていないか、徹底的に捜査するだろう。

3人の女性が、州知事という強大な権力を持つ立場のクオモ氏に対し、どれだけの恐怖の念を抱いたかは計り知れない。

また、高齢者施設の死亡者数過少報告と、病床拡大策として高齢者施設を入院先に含めたことに対する捜査も重要だ。医療関連施設のロビー団体からの献金が、施設に対する訴追を免除する法律につながったのかが焦点だ。

さらに、クオモ氏は謝罪の言葉を口にしながらも、自らあるいは政権の過ちを認めていない。これはいずれの事件にも共通している。「私は何も悪いことはしていない」と言っているようなものだ

確かに、クオモ氏がブルドーザーのように働きかけなければ、1年前の第一波をあれほど早く切り抜けることはできなかっただろう。

PCR検査を徹底し、陽性率や病床の空き率などによって、地域ごと段階的に経済再開を進めていく「科学とファクト」(クオモ氏)に基づいた政策はいまも支持を得ている。

しかし、新型コロナの感染リスクが高いとわかっている高齢者施設に、感染者という「マッチの火」を投げ入れる命令を下し、それによって増えた死亡者の数を正確に発表しなかった。しかも、そのことについては謝罪せず、「どこで死のうが死亡者だ」と言い放った。

そうした一連の行為や発言は、いかなる功績があったにしても、理解を得られるとは思えない。

事実関係がこれほど入り組んでいるだけに、真相を理解しているクオモ支持者はきわめて少ないというのが実情だ。しかし、その責任を取るべきときがもう来ているのではないか。

(文:津山恵子


津山恵子(つやま・けいこ):ジャーナリスト、元共同通信社記者。ニューヨーク在住。2007年から独立し、主にアエラに、米社会、政治、ビジネスについて執筆。近著は『教育超格差大国アメリカ』『現代アメリカ政治とメディア』(共著)。メディアだけでなく、ご近所や友人との話を行間に、アメリカの空気を伝えるスタイルを好む。

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