ボルボ(Volvo)のホーカン・サミュエルソン最高経営責任者(CEO)。
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スウェーデンのボルボ(Volvo)は、2030年までに全車種を電気自動車(ピュアEV)に移行し、内燃機関からの脱却を目指す自動車メーカーの一角として名乗りをあげた。また、同社は今後市場投入するEVの販売をオンラインのみで行う体制にシフトする。
米フォードを離れて中国の浙江吉利(ギーリー)傘下に入っておよそ10年。そのほとんどの時間をトップとして率いてきたのがホーカン・サミュエルソンだ。
スウェーデン王立ストックホルム工科大学卒の70歳は、ドイツのトラック(商用車)メーカー大手マン(MAN)のトップを務め、2012年10月にボルボの最高経営責任者(CEO)に就任した。
企業トップとしての責務を負うことは「そんなに好きじゃない」と認めつつも、いつも「どうしたらより良い経営ができるのかを探り続けてきた」というサミュエルソンCEO。だからこそ彼は、サブスクリプション販売の導入やEVシフトといった従来の限界を超えた挑戦へと、ボルボを導いていく。
ボルボあるいは自動車産業全体が向き合うEVシフトという難関について、さらにサミュエルソンCEO自身がこの劇的な変化をどう感じているのか、語ってもらった。
安全性とサステナビリティを同時に追求
Insider(I):2020年12月に、ボルボが全面的にEVシフトするのは時間の問題だと発言されています。いま思えばあれは今回の発表に至るヒントだったんですね。2カ月間、何を待っていたのですか?
サミュエルソン(S):2030年までの全車種EV移行はきわめて大胆な戦略ですが、私たちは絶対正しい選択だと信じています。
当初はEVシフトを進めるにしても、ピュアEVやハイブリッドなどバリエーションを持たせる必要があると考えていました。しかし、社内での議論を深めていくなかで、私たちのブランドとして安全性と同じくらいにサステナビリティを重視すべきとの考えに至り、電気モーターがついている自動車にとどまらず、ピュアEVに全面的にシフトすべきと決断したのです。
I:EVシフトには明確に利益があるということですか。
S:自動車を購入する際に安全性を重視する顧客が、サステナビリティも重視するのはとても自然なことだと思います。安全性(という強み)がなかったら、ボルボはもっとちっぽけなブランドだったでしょう。サステナビリティもそれと同じで、価値ベースのブランドには顧客に訴える力があります。
また、資金調達や人材確保の面でも利益があります。価値を社会とシェアする企業で働きたいと考える人がどんどん増えているからです。
規制ができてからやるのでは利益は生み出せない
2022年に市場投入される新型EV「C40 Recharge」。
Volvo
I:今回の決定には、顧客側のニーズの変化はどのくらい関係しているのですか。厳しさを増す温暖化ガス排出量規制の影響は?イギリスは2030年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止する計画を最近発表しましたが、どう思いますか?
S:ボルボは1970年代にアメリカで掲出した広告で「安全な自動車の生産を義務づける法はいらない」と主張しました。法律ができる前から安全な車をつくっていたからです。
同様に、サステナブルな生産を義務づける法律も必要ありません。そうした規制がなくても、私たちはサステナブルな車をつくるからです。いずれは法律ができて、あとから(その法律に従って)サステナブルな自動車生産を始める企業もあるでしょう。しかし、優位に立とうと思ったら他より先に動くしかありません。
I:自動車産業にとって、2030年はもう目と鼻の先ですよね。ほとんどの自動車メーカーは2025年までにEVを市場投入すべく開発に取り組んでいます。これまで内燃機関中心のパワートレイン技術にかけてきた投資は、理論的にはもはや時代の遺物、無用の長物ということになります。そうした変化による財務への影響をどうお考えですか。
S:私が思うには、さほど深刻な影響はないかなと。確かに、内燃機関は過去のものになり、EVに全力を傾けることになるでしょう。
しかし、すでに2015年の時点で、私たちは(同一の生産ラインで多様な設計を可能とする)モジュラーコンセプトのプラットフォーム「スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ(SPA)」を開発。今後1年ほどの間に市場投入する新型EVは、さらにその次世代プラットフォーム「SPA2」がベースになります。
2025、26年となるとその先の話。最近(3月2日)発表した電動コンパクトSUV「C40 Recharge」には、小型車向けのプラットフォーム「コンパクト・モジュラー・アーキテクチャ(CMA)」を採用しましたが、将来的には、展開するあらゆるサイズの車種に対応するような、複数のプラットフォームを併用することになるでしょう。
親会社ギーリー(浙江吉利)との合併統合はどうなる
I:親会社のギーリーについてもお聞きします。サミュエルソンCEOはこれまでも、さらなる両社の関係強化と完全な合併を目指してこられたと思います。なぜそうではない道を選んだのでしょう?
S:ギーリーとは、最大限の相乗効果を発揮し、会社としてより強くなるにはどのような統合の形がいいのか、膝を詰めて検討を続けてきました。基本的には2つの選択肢があり、1つは財務的統合です。ただ、いまそれをやってしまうと売り上げに勢いがなくなる。
両社ともお互いのブランドに誇りを持ち、急成長を遂げているさなかで、いま財務を一緒にするのはリスクが高く、モチベーションを下げることにもつながりかねません。
ボルボはまずスウェーデン国内の顧客を主眼にビジネスを展開する必要があるし、ギーリーにもこだわるべきアイデンティティがある。そう考えたとき、結論は両社を分離させたままにして、実利を優先したほうがいいということになります。
私たちにはそれより、コスト削減の面でいろいろやれることがまだまだあります。とくに、自動運転システムやソフトウェアの共通化、(車載)電池セルなど、新たなテクノロジーの領域において。将来的にシナジーを得られ、しかも両社が良いバランスでやれるのは、まさにそのあたりです。
I:ギーリーの展開するポールスター(Polestar)とボルボ、両ブランドの関係性は。どちらもEVですが、差別化はどう図るのでしょうか。
S:電動化という意味ではポールスターのほうが先行しています。しかし、市場が完全な電動化(ピュアEV)に向かうなかで、ブランドを確立できているかというと、そんなことはない。
ボルボは現在のところファミリーユースのブランドで、ポールスターはもうちょっと攻めた、プレミアムなブランドを目指す必要があります。安全性を第一に掲げるボルボにはない、何かしら新しい特徴がほしい。
もちろん、電動車としてのコスト削減は並行して進める必要があり、電気モーター、バッテリー、電気系統、さまざまな部分で共通化を図るなど、無駄な投資は省いていく計画です。
「オンライン販売に全面移行」が意味するもの
2022年に市場投入される新型EV「C40 Recharge」のダッシュボード。
Volvo
I:今後市場投入するEVをすべてオンライン販売に切り替えることを発表されました。うまく機能するのでしょうか。国ごとに、あるいはアメリカだと州ごとに異なるフランチャイズの(ロイヤルティなどに関する)規制法がありますが。
S:オンラインで注文した顧客が工場のゲートまで直接受け取りにくるような、小売店をまったく通さない販売方法は考えていません。それは今後もありえない。重要なのは、製品を提供する仕組みをわかりやすくして、透明性を高めることです。
顧客が事前に(細かく)好みの仕様を選び、必要あれば注文に応じてカスタマイズして提供する。ボルボはそれぞれの価格を事前にオンラインで明示するので、顧客はそこから選ぶだけでいい。そういう仕組みです。
小売店(販売代理店)は引き続き重要な役割を果たします。商品のお届け、機能や特徴などの説明…それらは今後も今日と同じように、小売店が代価を得てやる仕事です。
ご指摘のように、国ごとに最もふさわしいソリューションというのはあります。欧州だとダイレクトに請求や支払いをできるけれども、アメリカではフランチャイズ関連の法律があるので、ディーラーを通さないと新車を販売できない(=自動車メーカーはディーラーに販売し、ディーラーが消費者に販売する)。
要するに、消費者がオンラインで購入ボタンを押すと、事前に選んだディーラーに車が届くことになります。これは実際にはオンライン販売ではなく、完全にフランチャイズ法の枠内での取り引きです。顧客との関係構築において重要な役割を果たすのはあくまで小売店なのです。
試乗したければ、近所のディーラーを訪ね、助手席にはスタッフが乗り込み、あなたをサポートします。その後、店舗に戻ってすべての注文データを入力し、一緒に購入ボタンを押す。注文した車はその店舗に届く。
ボルボが今後オンライン販売を正しい形で実現するには、オンラインの透明性と現場での高品質なカスタマーケアを組み合わせる必要があると考えています。
(翻訳・編集:川村力)