「真の失業率は10%」イエレン財務長官が示唆したアメリカ雇用市場の“暗部”

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2月5日、コロナ禍の経済刺激策に関するホワイトハウスでのオンライン議論に参加したイエレン米財務長官。

REUTERS/Kevin Lamarque

3月5日にアメリカの2月雇用統計が公表された。非農業部門の雇用者数は前月比37.9万人増と、市場予想の中心(=20.0万人増)を大きく上回った。失業率は前月の6.3%から0.1ポイント改善されて6.2%、平均時給もプラス0.2%と増加基調を維持した。

金融市場はこれら3つの計数を主な取引材料と見なすので、統計発表に応じてアメリカの株はやはり買われ、ニューヨーク株式市場ダウ平均株価は前日比+572.16ドルと急騰している。

娯楽・接客業に偏った雇用の改善

だが、今回の雇用者数の改善は「特定業種に傾斜している」ことを見落としてはならない。娯楽・ホスピタリティ(=接客業)の35.5万人増がほとんどを占め、うち21.6万人が飲食業、ほかは宿泊業、演劇や博物館など芸術関係という結果だった。

要するに、この市場予想を上回る雇用統計の正体は、行動制限の緩和に伴うものということだ。その程度については正確に予想するのが難しくなっている、というのが現実だろう。

例えば、ニューヨーク市では2月12日から店内での飲食が条件付きで再開されたが、それを受けてどんなペースで再雇用が進んでいくかは、事業者によってばらつきがあるはずで、それを一元的に予想するのは簡単ではない。

雇用の増加が特定業種に集中しているということは、非農業部門雇用者数という計数の改善だけをもってアメリカ経済全体の改善と解釈するのは危ういという話でもある(そもそも単月の雇用統計で情勢判断が大きく変わること自体が健全ではないと筆者は考えるが)。

2月の非農業部門雇用者数の変化を民間部門に限り、さらに財部門とサービス部門に分けてみると、前者は4.8万人減、後者は51.3万人増で、増えたのはサービス部門に偏っていることがわかる。

ただし、【図表1】に示されるように、非農業部門全体では過去12カ月で947.5万人の雇用者が失われたが、サービス部門は依然として700万人の雇用者が失われたままであり、主要業種の分類に目をやってもコロナ前の雇用水準を回復できた業種はいまだにない。

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【図表1】過去12カ月におけるアメリカ雇用統計の状況。2020年3月~21年2月を対象。

出所:Macrobond資料より筆者作成

全体的に6~7割程度という雇用の回復率はそれなりに高めに見えるが、2020年秋以降、行動制限に比例して回復ペースが落ちていることには注意しておきたい。

「失業者の減少」と「長期失業者の増加」が同時に起きている

過去の寄稿では、複数回にわたってアメリカの雇用の現状や展望を議論してきたが、非農業部門の雇用者数の変化や失業率、平均時給だけでは、雇用市場の暗部まで把握するのは難しい。

アメリカ経済の地力を中長期的に展望する上で重視すべきは、やはり「労働参加率」だ。

2月は61.4%と前月比横ばいだったが、前年同月(63.3%)に比べるとおよそ2%ポイントも低下しており、水準としては1970年代後半を彷彿とさせる【図表2】。

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【図表2】アメリカの長期失業者割合と労働参加率。「長期失業者」の定義は、失業期間が27週以上に達した者。

出所:Macrobond資料より筆者作成

さらに、失業期間が27週間以上におよぶ「長期失業者」の割合は2月に41.6%と、前月比で1.9%ポイントも増えている。これは2012年6月の42.6%以来、8年8カ月ぶりの高水準だ。

  1. 失業期間が長期におよぶ
  2. 就労意欲が低下する
  3. 就職活動をしなくなる
  4. 統計上「失業者」にカウントされなくなる
  5. 失業率は下がるが、労働参加率も下がる

上記のような動きは、深刻な不況期に懸念される雇用市場の特徴で、結果として「失業率の低下」と「長期失業者割合の上昇」という一見矛盾した動きが併存することになる。まさにいま起きていることだ【図表3】。

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【図表3】アメリカの長期失業者割合と失業率。

出所:Macrobond資料より筆者作成

アメリカの「実質的な失業率は10%」

なお、2月雇用統計の発表と同じ3月5日、米非営利公共放送PBSのニュース番組でインタビューに応じたイエレン米財務長官が、雇用統計と最近の米金利上昇について見解を述べたことが大きく報じられている。

非農業部門雇用者数の37.9万人増という結果については、「数は大きく聞こえるが、このペースでも完全雇用に達するには2年あまりかかる」と指摘。「400万人が職を失って労働力から離脱したことを踏まえれば、『実質的』な失業率はむしろ10%に近い」と述べた。

イエレン財務長官は明らかに、「雇用市場からの離脱」を念頭に現状の評価を下しており、前節で指摘した長期失業者割合の増加や労働参加率の低下といった問題を意識していると思われる。

だからこそ、米金利の上昇に関しても「市場参加者がより力強い回復を見込んでいるという理由で(長期金利が)上がったと私は考える」と断言し、インフレが急加速することを懸念した動きではないと述べたのだろう。雇用・賃金の状態が劇的に改善されるのでない限り、需要が急増して一般物価が制御不能なほどに上昇する可能性は考えられない。

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米公共放送PBS「ニュースアワー」のウェブサイトより。「『実質的』な失業率はむしろ10%に近い」と発言したイエレン米財務長官。

Screenshot of PBS Newshour website

ところで、金融関係者向けの余談になるが、こうした金利や実体経済に関する基本認識については、(金利政策や金利誘導目標を決める)米連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言が注目されるのが一般的だ。今回のように財務長官の発言が大々的に報じられ、注目される状況に、筆者としては違和感がある。

いまのところ、パウエルFRB議長を筆頭に、各地区の連邦準備銀行総裁もイエレン財務長官と同様、「金利上昇は力強い回復への期待を反映したもの」と述べ、足並みは揃っているので大きな問題は感じない。

だが、株・為替・金利といった市況関連の計数は、影響力を行使できるFRBに集約したほうが「市場との対話」が混線するリスクが小さいように感じる(もっとも、イエレン財務長官はFRBの情報発信を意図的になぞっただけなのかもしれないが)。

前FRB議長としての高い知名度も手伝って、経済・金融情勢で起きる大きな変化についてイエレン財務長官にメディアなどが意見を求める機会は、通常の財務長官よりも多くなりそうだ。

そうだとすれば、今後訪れるだろう神経質な局面で無用な混乱が起きないよう、財務省とFRBの間で意識的に情報統制する意識を持っておいたほうが良いのではないか。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文:唐鎌大輔


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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