2020年4月、カリフォルニア州エメリービルにあるトレーダー・ジョーズでは、買い物客がマスクを着用し、ソーシャル・ディスタンスを取っていた。
Shannon Stapleton/Reuters
- アメリカのテキサス州にあるトレーダー・ジョーズ(Trader Joe's)で、マスクを着用せずに店に入ろうとした男性が入店を断られた。
- テキサス州はマスクの着用義務を解除すると発表したが、店は独自のルールを課すことが可能だ。
- ただ、マスクの着用を求める店側のルールを受け入れない客もいて、従業員たちは反発に合っている。
アメリカの大手スーパー「トレーダー・ジョーズ」では、マスクを着用せずに店に入ろうとして、従業員に入店を拒否された客が、店側をテキサスの州法に違反していると非難した。
これは、州の新しいルールがいかに最前線で働く多くの人々を弱い立場に置いているかを示している。彼らは政府のサポートなしに企業のルールを課すことを強いられている。
テキサス州のアボット知事は3月2日、マスクの着用義務を3月10日に解除し、経済活動を100%再開させると発表した。アメリカの疾病予防管理センター(CDC)が早すぎる経済活動の再開に警鐘を鳴らしたわずか数日後のことだ。
ジョンズ・ホプキンス大学のデータによると、テキサス州ではこれまでに260万人以上が新型コロナウイルスに感染し、4万5000人以上が死亡している。
インスタグラムに投稿された動画は、マスクをしていない買い物客の男性がテキサス州マッキニーの近くにあるトレーダー・ジョーズの入口で、店員の制止を振り切って店で買い物をする様子を捉えている。店員は男性に使い捨てマスクを渡そうとし、マスクなしでの入店を断った。
男性は、店内でのマスク着用を引き続き求める店側の決断に失望したと言い、自分には秘密にしている障がいがあるのだから、マスクなしで入店させるべきだと主張した。これに対し、店の従業員は男性が連れていた2人の子どもにマスクを着用させるなら、男性はマスクなしで構わないと伝えたが、男性は従業員の制止を振り切った。
「テキサスではどこへ行っても、こんな扱いを受けたことはない」
「お前たちは法律を破っている。俺の障がいのせいで、お前たちは俺に嫌がらせをし、俺を差別している…… 俺には一般に開かれた場所で買い物をする権利がある」
トレーダー・ジョーズを非難しながら、自身の子どもたちと一緒に店に入ろうとする男性に、店員らは立ち向かった。
この男性を「男性版カレン」と呼んだこのインスタグラムの投稿には、ネガティブなコメントが多く寄せられた。
あるユーザーは「店側にはマスク着用のルールを課す権利がある。政府が課していなくても、だ。こういう人たちはベルトやネクタイ、ブレザーの着用を義務付けるナイトクラブについて聞いたことはないのか? シャツや靴を着用していなければ、サービスを受けられないことがあると知らないのか?」とコメントしている。
店やレストランでマスクの着用義務に反抗する人々
テキサス州など複数の州が規制を緩める中、アメリカではマスクの着用に抵抗する客がますます増えていて、小売店の従業員にとっては、マスクの着用を呼びかけるのがさらに難しくなるかもしれない。
テキサス州にあるメキシコ料理店「Picos」の従業員たちは、利用客に店内でのマスク着用を求めたところ、移民・関税執行局(ICE)に通報すると脅されたと話している。
「あれには本当にゾッとしました」と共同オーナーのモニカ・リチャーズさんはワシントン・ポストに語った。
「あれがどんな感じだったか、コロナ禍でわたしたちが経験した全てを切り抜けることがいかに大変だったかは、この業界にいない人には分からないでしょう。安全を守ろうとしているわたしたちに対して否定的な人たちには。そうでなければ、こんなことが続くはずがありません。わたしたちには全く理解できません」
このような状況は、パンデミックが始まってばかりの頃に、人々がマスクの着用やソーシャル・ディスタンスを求める店に抗議をしたり、ボイコットをしていたことを思い出させる。
場所によっては、公的なマスク着用のルールがないことで従業員が難しい立場に置かれたり、従業員が客にマスクを着用するよう求めることができなかった。
そして、マスクは"政治"になった。接客が暴力につながることもあり、マスクの着用を求めた従業員が銃で撃たれたり、暴行を受けるなどした。
そのため、マスクの着用を徹底するためにセキュリティー会社を雇った店もあれば、自分たちの安全のためにマスクの着用を義務付けることはできないと従業員に伝えた店もあった。
マスクの着用義務をめぐり、反発に合ってきたトレーダー・ジョーズ
2020年7月、マンハッタンにあるトレーダー・ジョーズでは、従業員がマスクの着用を拒否した2人の客に暴行された。
2021年1月には、カリフォルニア州にあるトレーダー・ジョーズがマスク着用に反対する抗議活動のせいで、早めの閉店を余儀なくされた。
その一方で、2月には従業員の安全のために感染対策を強化するようCEOに求めた従業員が解雇されたことを受け、客はトレーダー・ジョーズに対し、ボイコットをすると迫った。
解雇された従業員がCEOに宛てた手紙がツイッターで話題になった後、この従業員は再雇用された。
「職場に行くことで、わたしたちは毎日、自分たちの命を危険にさらしています。お願いですから、わたしたちのためにこれらのルールを導入してください」と、この従業員は書いていた。
(翻訳、編集:山口佳美)