気仙沼駅の売店にある「ハモニカ飯」弁当のポスター。
撮影:吉川慧
突然ですが「ハーモニカ」もしくは「ハモニカ」という食材を知っていますか。宮城県気仙沼市のご当地グルメの一つで、大型魚「メカジキ」の背びれの付け根の部分にある脂が乗った身です。
今回は人気ゲーム「桃太郎電鉄」にも登場した、地元の人が愛する気仙沼の名物をご紹介します。
「ハーモニカ」はフカヒレやサンマ、カツオなどと並ぶ気仙沼の名物ですが、100キロ級のメカジキでも取れる量はわずか。
そんな希少部位を楽しめるのは、メカジキの水揚げ量で日本一を誇る気仙沼ならではの魅力です。宮城県によると2019年の水揚げ量は2010トン、全体の67%を占めています。
メカジキは長い吻(ふん、上顎の先端)が特徴。体長4メートル、重量300キロにもなる大型魚です。
出典:宮城県気仙沼地方新興事務所
「ハーモニカ」という名前の由来については、
「骨と骨の間に肉が詰まって並ぶ形状が、楽器のハーモニカに似ているから」
「いやいや、かつて漁師さんが“まかない”として食べるとき、かぶり付く姿がハーモニカを吹いているみたいだからだ」
など由来は諸説あるようですが、もともと市場に出回らなかった希少部分ゆえに、地元の人たちが美味しく食べられるよう工夫を重ねてきた経緯があります。
地元の飲食店では煮付けや塩焼きで「ハーモニカ」を楽しむことができます。
桃鉄には「ハモニカ飯弁当」が登場
「桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜」は累計で販売本数250万本を突破した大ヒット作に。数々のご当地グルメが物件として登場します。
撮影:吉川慧
2020年11月に発売された大ヒットゲーム「桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜」(ニンテンドーSwitch)にも、気仙沼駅の物件に「ハモニカ飯弁当」が登場。価格は1000万円で収益率は50%と高収益の物件です。
実は、この「ハモニカ飯」は気仙沼駅に実在する駅弁です。
気仙沼駅の売店では「ハモニカ飯」のポスターが。“東北魂”でおなじみの人気コンビ「サンドイッチマン」の二人も舌鼓を打ちました。
撮影:吉川慧
地元の仕出し業者らで結成した「御弁当サプライヤー委員会」が2007年に「黄金龍のハモニカ飯」として販売。白いご飯の上いっぱいに、甘辛く煮付けたハーモニカが盛り付けられ、ご当地駅弁として人気を集めました。
ところが、2011年の東日本大震災で製造を担った業者も被災。中には廃業・休業するところもありました。
地元食材が手に入りにくくなり、震災後はしばらく販売を休止しましたが、2018年から限定復活。現在は月に1度、第三土曜日に販売されています。
「ハーモニカ」実際に食べてみました。
「ハーモニカ煮」は事前の電話予約が吉。
撮影:吉川慧
気仙沼漁港にほど近いホテル「網元の宿 磯村」。こちらでも気仙沼名物ハーモニカを使ったお弁当を提供しています。
事前予約で買える「メカジキのハーモニカ煮弁当」(1300円)を食べてみました。
撮影:吉川慧
弁当の包みを開けると、箱から黄色い糸が飛び出ています。この糸を引っ張ると、弁当箱からブクブクブク…と音がしてきました。
紐を引っ張って温めます。
撮影:吉川慧
内部にセットされた石灰と水が化学反応。できたての温かさで弁当を楽しめます。5分ほど待つと出来上がり。弁当箱の蓋を開けると……。
照りが美しい……。付け合せは人参や大根、いんげんなど。飾り包丁が嬉しい。
撮影:吉川慧
美しい照りの「ハーモニカ煮」が姿を表しました。
骨と骨の間には身がぎっしり。なるほど、たしかに「ハーモニカ」っぽい見た目だ…。
言われてみれば「ハーモニカ」に似ている気がします。
撮影:吉川慧
箸を入れると骨から簡単に外れました。さっそく頬張ると、じっくりと甘辛く煮付けられた身が口の中でホロッとほぐれます。脂がのって、とってもジューシー。なんとも贅沢な煮付けです。うまい……。
撮影:吉川慧
皮目に近い部分はプルップルの食感。濃厚な味わいは、白いごはんのお供にピッタリです。
地元の人に愛される「ハーモニカ煮」
ハーモニカ煮弁当が楽しめる「磯村」さんも、震災では津波で大きな被害を受けました。支配人の加藤健作さんによると、津波で1階部分は完全に浸水。2階の客室の畳が浮いてしまうような状況でした。
その後も土地のかさ上げ工事や区画整理が続き、しばらく休業。震災から7年後が経った2018年、リニューアルオープンができました。
高台から望む気仙沼の街。震災から10年、沿岸部の大規模なかさ上げも終わりつつある。
撮影:吉川慧
市内のホテルの中でも遅いタイミングでの営業再開とはなりましたが、観光客のみならず震災前から通う地元の人たちが宴会や会食でも利用。夕食のメニューでもハーモニカ煮は人気です。
加藤さんによると、ハーモニカ煮は提供するお店によってレシピも様々。気仙沼の暮らしに根付いた料理になっています。
「食」には郷土の文化と、その土地に生きる人々の営みが詰まっているのです。
(文・吉川慧)