撮影:鈴木愛子
今回は、こちらの応募フォームにお寄せいただいた読者の方からのご相談にお答えします。自社の採用にあたり「面接担当」を務めている方が、「いい人材かどうかを見極めるために、面接でどんな質問を投げかければいいか」と悩んでいらっしゃいます。
Aさんのお悩みは、「期待を寄せた人材が活躍しない、定着しない」ということ。この課題を解決するには、面接での質問の投げかけ方を工夫するほか、複数の方法が考えられます。
なかでも重要になる4つのポイントを、以降では1つずつご紹介していきましょう。
1. 面接ではスキル・人柄だけでなく価値観・ビジョンの深掘りを
人事のプロではなく、面接に慣れていない「現場責任者」が面接を行う場合、「即戦力となり得るスキルを持っているか」「既存メンバーとなじめそうなキャラクターか」といった観点に集中しがち。
その人の取り組み姿勢や価値観を深掘りできていないケースが多いかと思います。
まずは職務経歴の確認について。
「前職では○○のプロジェクトを手がけ、こんな成果を挙げました」
「素晴らしい。その経験があれば、当社でも活かしていただけますね」
——その程度のやりとりで終わってはいないでしょうか。
しかし応募者の中には、職歴を多少「盛って」アピールする人もいます。自信満々に成果を伝えても、実はチームのリーダーや他のメンバーが優秀だったり、自身はサポート程度しか携わっていなかったり……なんてこともあり得るわけです。
その真偽を見極めるためには、次のポイントも掘り下げて尋ねてみてください。
- 自身が果たした役割
- どんな課題を意識し、どんな戦略を立て、どう実行したか、プロセスについての具体的なストーリー
- どんな難題や壁にぶつかったか、それをどう乗り越えたか
このあたりのエピソードを詳しく尋ねてみると、話を盛っている人であればボロが出てくるものです。主体性や当事者意識を持って取り組んでいたか、自ら考えて行動を起こしていたか、それらを自社でも再現してくれそうか……などが見えてくると思います。
一方、本当に優れたスキルを持つ人であっても、会社やチームの「価値観」「カルチャー」「目標・ビジョン」とのズレを感じると、モチベーションが下がってしまうこともあります。
同じ仕事をしているITエンジニアでも、「特定の技術を極めていきたい」「仕事の幅を広げたい」「開発だけに集中したい」「顧客との接点を持ちたい」など、志向や価値観はさまざまです。
次のような質問を投げかけることで、会社やチームが大切にしていることと、応募者が大切にしていることにズレがないか、すり合わせてみましょう。
- 仕事において大切にしていること、こだわっていること
- 仕事において、どんな時に喜びややりがいを感じるか
- 5年後、10年後、自分はどんな仕事をしていたいか、どんな自分になっていたいか
- 過去のターニングポイントと、その時にどんな考えをもとに決断したか
面接の段階で、応募者は「自分のスキルを活かしたい」、企業側は「あなたのスキルを活かしてほしい」とニーズが一致したとしても、一緒に働くうちに価値観のズレを感じることはよくあります。
Aさんが嘆く「入社してみるとコミットメントが弱かった」は、そこに原因があるのかもしれません。「コミットメントが弱い人物」だったわけではなく、「自分が大切にしたいもの、目指したい目標とは異なるからコミットできない」だった可能性もあります。
先に挙げた質問を通じて、その点を面接で確認してみてください。
2. 「複数の目線」で判断する
面接は多くの場合、1対1。Aさんのような現場責任者が面接を行う場合は、人事のジュニアクラスのメンバーがアテンドすることもありますが、質疑応答はほぼ1対1かと思います。
そこで、2名以上で面接し、複数の目で応募者を見てみるのも一つの方法です。
Aさんが面接を行う際、例えばチームメンバーのBさんにも同席してもらう。すると、Aさんと応募者のやりとりを、Bさんは冷静に、客観的に観察することができます。Aさんとは異なる印象を受けたり、話の矛盾に気づけたりすることもあるわけです。
最近はオンライン面接も増えていますので、他のメンバーを招き入れやすいと思います。第三者目線で客観的に見てみると、応募者の仕事ぶりや価値観の本質が浮き彫りになることもあります。
「複数目線」での判断を試してみてはいかがでしょうか。
3. 採用支援ツールを活用する
1時間程度の面接では、相手を理解するのは難しいと言えます。そこで、採用支援ツールを活用する方法もあります。
最近、採用活動において、「リファレンスチェック」のサービスを導入する企業が増えてきました。
リファレンスチェックとは、「身元照会」の意。企業が採用候補者の現在の勤務先、あるいは以前の勤務先に問い合わせ、仕事ぶりや人物像を尋ねるものです。
以前から、外資系企業などでは、採用候補者の経歴に虚偽がないかを確認するため、本人には内緒でリファレンスチェックが行われてきました。
ところが最近では、企業が採用候補者に「あなたの仕事ぶりを知る元上司・同僚から、あなたへの評価・コメントをもらいたい」と直接依頼して回答を得る仕組みのリファレンスチェック支援サービスが登場しています。
代表的なサービスが、ROXX社が提供する「back check(バックチェック)」。その他、「TASKEL(タスケル)」「oxalis(オキザリス)」など複数のサービスがあるようです。
採用候補者とこれまで一緒に働いていた人から、その人の性格タイプ、行動特性、強み・弱みなどを聞くことができるので、自社に合うかどうかの判断材料が増えるというわけです。
実際、私もリファレンスコメントを拝見したことがありますが、長所だけでなく短所もしっかり記載されていて、信ぴょう性があると感じました。
こうした支援ツールを活用してみるのも一つの方法だと思います。
撮影:鈴木愛子
4. 「オンボーディング」や「ミッションの与え方」の工夫も大切
Aさんのお話の中で、「面接で『いいな』と思って採用したものの、期待外れに終わる」という言葉が少し気にかかります。
これは、選考において応募者を過大評価してしまったり、見極めが甘かったりしたわけではなく、「受け入れ側」に問題があった可能性はないでしょうか。
「オンボーディング」(=新入メンバーが早々に組織になじみ、活躍できるようにするための支援)がしっかりなされていなかったのかもしれません。
実際、本当に優秀な人材が、高い意欲を持って入社したものの、企業側の受け入れ体制が整っていない、あるいはミッションの与え方が間違っていることで、モチベーションが下がり、早々に辞めてしまうのは、よくあることなのです。
特にコロナ禍以降、リモートワークが増えたことで、チーム内のコミュニケーションが希薄になりがち。中途入社者のケアもおろそかになり、入社者が不安を抱くことが多いようです。
チームの目標や入社者のミッションを明確に示す、チャットツールなどを活用してしっかり情報共有する、チームメンバー同士がお互いへの理解を深める機会を設ける……など、入社者のモチベーション低下を防ぐようなオンボーディングも工夫してみてください。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。