資金調達を受けるため投資家にピッチをするのは緊張を強いられるものだが、スタートアップが規模を拡大するうえで避けて通ることはできない。
起業家がやってしまいがちなミスといえば、ピッチデック(ピッチ用プレゼン資料)が複雑すぎること、長すぎること。この2つに気をつければ多少は楽になるだろう。
だがそれ以外にも、多くの起業家が犯しがちなミスがある。そこでInsiderでは成功した起業家や投資家に話を聞き、起業家がピッチの際に犯しがちな5大ミスを洗い出した。これを読めば致命的なミスを修正でき、結果的にまたとない資金調達の機会をフイにせずに済むかもしれない。
1. ピッチを聞いても「ストーリー」を思い描けない
「ピッチデックで特に大切なのはストーリーテリングだ」と言うのは、シニア向けサービスPapa(パパ)を創業したアンドリュー・パーカーだ。2020年9月、PapaはシリーズBで1800万ドルを調達し、累計調達額を3100万ドルとした。
累計3100万ドルの資金調達をしたPapaのアンドリュー・パーカーは、ピッチデックで大切なのはストーリーテリングだと言う。
Papa提供
投資家にPapaのピッチをした際、パーカーは冒頭でPapaが解決していく課題に絞った。アメリカのシニア人口は5000万人いること、社会的孤立が年間70億ドルの損失を生むことなど、関連する統計データを引用して業界規模の概観を投資家に示すことも忘れなかった。
Insiderの取材に対し、パーカーは「スライドのタイトルをストーリーの骨組みとして使うのがおすすめ」と語る。「仮に投資家がスライドのタイトルしか読まないとして、喜んで投資したいと思える書き方になっているかどうか考えるといいでしょう」
パーカーは自分のピッチデックを作った際、伝えたい要点は見出しにまとめた。特に、高齢者ケア産業が重要性を増していて、Papaならその市場で成果を上げられることを投資家に訴えたという。
2. 統計、引用、ロゴばかりで構成されている
Clockwiseの共同創業者マット・マーティンは、どんなピッチでも統計やデータポイントは必須だが、それだけではダメだと言う。
Clockwise提供
「統計やデータポイントはどんなピッチでも必須だが、それだけではダメ」と言うのは、自動スケジュール管理サービスClockwise(クロックワイズ)の共同創業者、マット・マーティンだ。2020年、ClockwiseはシリーズBで1800万ドルを調達し、累計調達額を3160万ドルとした。
Insiderの取材に対し、マーティンはEメールでこんな意見を寄せてくれた。
「デックが『木を見て森を見ず』状態になってしまっているケースはよく見かけます。細かいことばかり書いてしまい、ストーリーテリングが不十分なんです。まずはストーリーをクリアに語り、その上でデータや引用、ロゴなどを活用して肉付けするといいと思います」
パーカーと同様、マーティンも数字の沼にはまらないほうがいいと言う。ストーリーテリングと、事業のミッションを明確にする細かな内容がバランスするように心がけたいものだ。
「カギとなる数字や顧客の声の引用、人員数のチャートも大切ですが、あなたのスタートアップが今後大きく成長できる理由を、説得力のあるストーリーで伝えることが一番の目標です」
データ、引用、ロゴなどはあくまで、伝えたいストーリーを肉付けするための素材とマーティンは言う。
3. 専門用語に頼りすぎ
「投資先として不適格と思われるのではないかと不安になるあまり、余計な詳細情報や専門用語を使ってしまいがち。これではデックが読みにくくなる」と指摘するのは、ドキュメントをセキュアに共有するプラットフォームDocSend(ドックセンド)の共同創業者、ラス・ヘドルストンだ。
DocSendではこれまで、同社のプラットフォームを使って投資家に送られた何千ものピッチデックを研究してきた。ヘドルストン個人も、こうした資料に目を通してベンチャーキャピタル(VC)に送るか否か判断する機会が多いが、専門用語や分かりにくい言い回しがたくさん出てくるプレゼンテーションは送らないそうだ。
「『事業内容がよく分からないのでミーティングには呼びません』ということです」とヘドルストンは言う。「例えば、ブロックチェーンが犬の散歩市場とどうつながるのか。まったく意味が分からないですよね」
4. 競合について語られていない
フィーメール・ファウンダーズ・ファンド(Female Founders Fund)創業パートナーのアヌ・ドゥガールは以前、Insiderの取材で「競合から目を背けてはならない。投資家に市場の状況、主要プレイヤー、競合相手を理解していると投資家に示すべき」と教えてくれた。
同ファンドは、女性が経営するアーリーステージのテクノロジー企業に投資しているが、ドゥガールは競合に関しての言及がないピッチデックをよく目にするそうだ。競合についてもきちんと調査していることを投資家に示そう。スタートアップにライバルはつきものだ。
「面白いアイデアがあることも、ワクワクするような事業の芽を見つけたことも素晴らしい。でも投資を検討する側としては、何が市場にすでに存在するのかも知りたいんですよ」とドゥガールは言う。
5. 情報を詰め込みすぎ
GetAcceptを創業したサミア・スマイチ。
GetAccept提供
ピッチデックにはつい情報を詰め込みたくなってしまうものだが、シンプルなのが一番だ。
GetAccept(ゲットアクセプト)を創業したサミア・スマイチはInsiderの取材に対し、結局のところ「投資家はスペシャリストではなくジェネラリストであることが多い」と話す。セールスプラットフォームを運営する同社は、2020年12月にシリーズBで2000万ドルを調達し、累計調達額を3000万ドルとしている。
スマイチは言う。投資家が知りたいのは、あなたがプレゼンしている課題は重要なものなのか、あなたの製品が売れるような市場は存在するのか、あなたのチームは計画通り実行できるのか、あなたのソリューションは世界を変えるようなものなのかだ、と。
「ピッチデックは、点と点がつながるようなストーリーを中心に、赤い糸がどこにつながっているのか追いやすいように作るのがポイントです」
分かりやすいピッチデックにするには不要なスライドを足さないことだ、とスマイチは指摘する。スライドの枚数は、アーリーステージなら8枚程度、それより段階の進んだスタートアップでも14枚程度が目安だ。
さらに、業界やマーケットのことを知らない投資家に20分以内でピッチをしたとして、その投資家はピッチ後、あなたの製品を説明したりフィードバックをくれたりできるだろうか? デックの内容や粒度を決める際はこの点も考慮しよう、というのがスマイチのアドバイスだ。
※この記事は2021年3月29日初出です。