オラクル会長兼共同創業者のラリー・エリソン。
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オラクルの共同創業者で会長のラリー・エリソンは、競合のエスエーピー(SAP)と契約する企業・政府機関100社以上が、部分的あるいは全面的にオラクルの基幹業務システム(ERP)ソフトウェアに移行したか、移行の過程にあると語った。
第3四半期(2020年12月〜21年2月)だけで「契約金額は合計で数億ドルに達する」という。
エリソンの発言は長年のライバルである両社の競争が激しくなってきていることの証左だ。2020年9月には、SAPのルカ・ムチェチ最高財務責任者(CFO)がシティグループ主催のカンファレンスで「確認したところ、オラクルに奪われた顧客は1社もない」と発言していた。
エリソンは3月10日の第3四半期決算発表の際、自分の(発言)持ち時間のすべてをこのムチェチ発言への報復に充てた。
彼は発言のなかで「SAP」という単語を80回以上使い、オラクルからSAPに乗り換えた企業を具体名まで明かした。鉄道車両メーカーのTPX、セキュリティサービスのG4s、太陽光パネルメーカーのファーストソーラー、通信会社のトランジット・ワイヤレスらがそれだ。
「(ムチェチは)もうちょっとしっかり顧客データを確認すべきだったんじゃないか。第3四半期だけで、金額にして数億ドルにのぼるSAPのERPシステムの大手顧客が、オラクルの『Fusion(フュージョン)ERP』に乗り換えている。しかもこの動きは第3四半期だけでなく、ここ数年続いているものだ」
エリソンによれば、具体名をあげた企業すべてが完全にオラクルに移行したわけではなく、SAP製品の利用を継続している企業もあるという。
「言い換えれば、完全な乗り換えが実現するまでは、SAPに勝利したとは言えない。我々はそう考えている。調達やサプライチェーン、製造分野でオラクル製品を使ってもらえたとしても、(肝心の)財務会計でSAPのソリューションを使われたのでは、勝ったとは言えない」
こうしたエリソン発言に対して、SAPの広報担当は次のように応じた。
「発言については聞いているが、そうした事実は現在も過去にも存在しない。我々の最優先課題は顧客企業を成功に導くことであって、広告宣伝合戦に巻き込むことではない。数字が事実を雄弁に物語っているように、我々のERPシステム製品の市場シェアはトップ。2位にはほぼ倍以上の差をつけている」
ただし、SAP広報の言う「数字」がどの数字を指しているのかは明らかではない。
オラクルによれば、ERPとは「会計、調達、プロジェクトマネジメント、リスクマネジメントやコンプライアンス、サプライチェーンのオペレーションなど、日々のビジネス活動を管理する」ソフトウェアを指す。
また、RBCキャピタルマーケッツの説明によれば、クラウドERPは「パブリッククラウド以外で最も長期的な成長が期待される市場」という。
オラクルの第3四半期決算は、2020年6月〜21年2月の累計売上高が100億9000万ドル(約1兆600億円)で、前年同期比3%増にとどまった。通期見通しともに市場予想を下回る形となり、株価は下落した。
「Fusion ERP」の売上高は同第3四半期に30%増と大きな成長を見せたものの、第2四半期の33%増に比べると多少減速。中小事業者向けの「NetSuite(ネットスイート)ERP」は24%増となった。
ムーア・インサイト&ストラテジーのアナリスト、パトリック・ムーアヘッドは次のように分析する。
「オラクルは最終的に、SAPからERPビジネスのシェアを奪い取るだろう。SAPはクラウドベースでERPを提供できる技術を持っていないが、オラクルにはエンタプライズ向けのFusionと中小事業者向けのNetSuiteがある。SAPは厳しい状況と言っていい」
(翻訳・編集:川村力)