記者会見するみずほ銀行の藤原頭取。(東京都内、2021年3月12日)
撮影:吉川慧
週末の金曜夜9時、メガバンクの頭取が急遽開いた異例の会見だった——。
みずほ銀行は3月12日、直近2週間で4回目となる新たなシステム障害が発生し、国際金融取引に使われる銀行間ネットワーク「SWIFT(スイフト)」を介した国内の他銀行への約300件の外貨建て送金が遅れたと発表した。同日夜、藤原弘治頭取らが緊急で記者会見で謝罪。「現時点では4回のトラブルに共通点、因果関係は見いだせていない」としたが「ハード面やシステム面も点検する必要があると痛感している」と述べた。
相次ぐシステム障害に、顧客からは「またか」という声も聞こえてくる。会見では報道陣から「解約数が増えていないか」と問われる場面もあった。藤原頭取は「特に(解約の)大きなものはない。新生活で口座数は増えている」とした上で「『みずほを使ってみよう』と思ってもらえる環境を早期につくっていきたい」と述べた。
さて今回、具体的にはどんなシステム障害で、どんなトラブルが発生したのか。経緯をまとめた。
結局、どんなシステム障害だったのか?
みずほ銀行の会見資料。
撮影:吉川慧
藤原頭取の説明によると、今回の障害が発生したのは3月11日午後11時39分。データセンターでハード機器4台のうち1台のプロセッサが故障した。
本来であればバックアップのプロセッサが稼働するはずだったが、切り替えがされなかった。つまり、冗長構成が機能しなかったことになる。
問題発生から約4時間後の3月12日午前3時50分、故障したハード機器を交換。同午前6時38分に再起動し、バッチ処理(取引手続きをまとめて実行すること)が始まったが、外為決済の取引データで不整合が発生。送金の手続きが遅れた。
今回のシステム障害で、どんなトラブルが発生したのか?
みずほ銀行の会見資料。トラブルの時系列について。
撮影:吉川慧
世界各国の金融機関は、国際的な金融情報ネットワーク「SWIFT」を介して取引している。金融機関には「住所」にあたるSWIFTコードが割り振られており、みずほ銀行の場合は「MHCBJPJT」という具合だ。
今回はこのSWIFTを介して、顧客が国内の他銀行に外貨建てでお金を振り込む手続きに遅れが生じたという。
本来であれば、顧客が国内の他銀行向けに外貨建てで振り込む場合、送金依頼を受けた金融機関(仕向け銀行)は午後1時までに送金先の金融機関(被仕向け銀行)に送金データを送る必要がある。
今回のトラブルで、これらの「海外送金等の集中処理」が完了したのは3月12日午後7時46分だった。主に法人顧客による国内の他銀行向け外貨建て送金処理の約300件が遅延。一部の海外向け送金手続きの処理も滞った。
つまり、みずほ側では12日に送金したと記帳されていても送金先で13日扱いとなり、着金日がずれる「不整合」が発生する可能性がある。着金日がずれた場合、顧客は約束の期日に相手方に振り込めなかったことになり、顧客に損害が出たおそれもある。みずほ銀行は振込日を12日扱いにできるよう、送金先の銀行と調整するという。
ハード機器の故障原因とデータ不整合が生じた要因については現在、調査中。みずほ銀行は、故障したハード機器の製造元は非公表としている。
藤原頭取「みずほ固有の要因がないか点検する」
2月28日にシステム障害が発生したみずほ銀行のATM(2021年2月28日、東京・千代田区)
撮影:吉川慧
なぜ、みずほ銀行でシステム障害が頻発するのか。
みずほ銀行は2002年、第一勧業銀行・富士銀行・日本興業銀行の3銀行の再編で誕生したメガバンクだ。
ところが、複数の銀行をまたいだシステム統合は至難を極め、発足直後からトラブルが発生。奇しくもちょうど10年前、東日本大震災の直後にも大規模なシステム障害を起こした。
みずほ銀行は10年近くを費やし、2019年7月に基幹システムを刷新。新たな勘定系システム「MINORI」に移行。ただ、直近で相次いだトラブルで「MINORI」の信頼性を懸念する声もある。
ただ、藤原頭取は「このような事態が続いていることを大変重く受け止めている」としつつ、こうした懸念を否定。むしろ「MINORI」投入前のシステムであれば、他の問題に波及した可能性が高いとの見解を示した。直近4件のシステム障害についても「現時点では4回のトラブルに因果関係は見いだせていない」と述べた。
一方で、「ハード面やシステム運用面も、抜本的に点検をする必要があると痛感している」とも語った。
MINORI開発における品質管理(QMD)体制
出典:みずほ情報総研公式サイト
藤原頭取はいつまでに「点検」するか明らかにはしなかったが、他の銀行では生じていないようなトラブルの頻発を受けて、運用面を見直し、リスクを洗い出す姿勢を示した。調査チームには外部人材を含めること、調査結果も公表することも明言した。
2月末の大規模障害を受けた3月1日の会見でも、藤原頭取は「データ移行時の想定の甘さに起因するもの。ハード面のみならずシステムの運用面におけるみずほ固有の要因がないかについて、もう一度点検をする必要があると痛感している」と述べている。
「『みずほを使ってみよう』と思ってもらえるように……」
記者会見するみずほ銀行の藤原頭取。(東京都内、2021年3月12日)
撮影:吉川慧
奇しくもちょうど10年前、東日本大震災の直後に大規模なシステム障害を連続で起こしたみずほ銀行。直近も相次いだトラブルで「みずほ銀行」には「システム障害ばかり」というネガティブなイメージが根付いてしまった。顧客の財産を預かる、信頼が最も必要とされる銀行にとって、これは由々しき事態だ。
銀行の存在意義は、よく「心臓」に例えられる。資本主義社会にとって「お金」は「血液」のようなもの。個人や企業、行政機関、あらゆる人々に血を循環させる「心臓」のような存在、それが銀行だ。藤原頭取が会長を務める全国銀行協会も、銀行役割の説明でこの例を用いている。
私たちは銀行を信頼して「お金」を預けている。もし心臓たる「銀行」の機能が止まれば、個人・法人を問わず、顧客に金銭的な損害を与えるおそれもある。メガバンクであれば、社会に与える影響も甚大だ。銀行は、私たちの暮らしにとって重要なインフラの一つだ。
春を迎え、新生活もはじまる。新たに銀行の口座を開く人も多い。
2時間超の会見で藤原頭取は「お客様に大変ご迷惑をおかけしてしまった」と繰り返し謝罪。原因究明と再発防止策を尽くす姿勢を示した。
顧客からの厳しい目線に解約数が増えていないか問われる場面もあった。藤原頭取は「特に(解約の)大きなものはない。新生活で口座数は増えている」とした上で「『みずほを使ってみよう』と思ってもらえる環境を早期につくっていきたい」と述べた。
藤原頭取は3月末で退任し、4月1日付でみずほFGの副会長執行役員とみずほ銀行会長に就く。
(文・吉川慧)