板橋区・赤塚にある団地「光が丘パークタウンゆりの木通り北」にある、無印良品がリノベーションした部屋。
撮影:西山里緒
UR都市機構と無印良品は、両者が2012年から共同で手がけてきた団地リノベーションプロジェクト「MUJI×UR」の供給戸数が1000戸に達したと3月15日、発表した。
今後はさらに協業を深め、部屋のリノベだけでなく屋外広場や商店街などの団地共用部などにもその範囲を広げていくという。URと無印良品が今、タッグを強化する理由とは?
ダンボールふすま、収納ナシという「無印らしさ」
オープンなキッチンだが、収納は一切ない。無印のボックスなどを組み合わせて、自在にカスタマイズすることを想定しているという。
ダンボールでできたふすまに、収納ゼロのキッチン。古めかしい木の枠組みが残された部屋の間仕切り。
その部屋の“攻めた”デザインは「本当に暮らしやすいのだろうか?」と不安になるほどだが、MUJI HOUSEの担当者は自信満々だ。
「テーマは『壊しすぎず、作り込みすぎない』。収納も間仕切りも、実際に暮らす方に編集していただくというのがコンセプト。逆に収納ナシはきつい、という方には厳しいかもしれない」(担当者)
リノベされたとはいえ、レトロな昭和テイストもほのかに残る団地の部屋。
しかし、さりげなくふすまで仕切られた広々としたスペースには、工夫すればテレワークのようなライフスタイルも可能だ。部屋をデザインする「センス」は必要とされそうだが、いらない荷物を減らせばミニマルな生活は意外と悪くないかもしれない。
実際、無印良品によるUR賃貸物件のリノベ計画「MUJI×UR」は、2012年のスタート以来、大きな反響を呼んでいる。リノベ済みの部屋は2020年末、全国で1000戸に達した。
UR賃貸の高齢化率は平均「4割」
光が丘ゆりの木通り北に位置する商店街。MUJIcomが出店するほか、軒裏も無印がデザイン。木でできた曲線のルーバー(羽板を並べたもの)があしらわれた。
団地リノベーションプロジェクト「MUJI×UR」の始まりは、2012年にまでさかのぼる。そのきっかけについて会見でUR都市機構理事長の中島正弘氏は「住民の若返りが課題だった」と繰り返した。
UR賃貸住宅はそもそも、戦後の住宅不足を解消するために1955年に設立された日本住宅公団に端を発する。その後、1970年代にかけ、大規模団地や郊外のニュータウン開発を主導し、現在は約72万戸の賃貸住宅を提供する。
しかし、全体の約7割にあたる約47万戸が管理開始から40年以上経っており、現在は、住民の高齢化や空室対策が課題となっている。2015年に実施された「UR賃貸住宅居住者定期調査」によると、全国にあるUR賃貸住宅の平均高齢化率(65歳以上の割合)は約4割に達しようとしている。
「 団地が直面している少子高齢化は地域の課題、ひいては日本の課題でもあり、世界の課題でもある。世界の課題のトップをUR都市機構が走っている(という認識)。経営的にも大きな挑戦であり、命がけで変えていく 」(UR都市機構・中島氏)
だからこそ、企業とコラボしたリノベ計画はUR都市機構にとって“肝入り”プロジェクトでもある。
「MUJI×UR」によるリノベ物件の新規入居者は40代以下が75%だといい、中島氏は「無印さんのおかげだ」と顔をほころばせる。なお、2015年からはイケア(IKEA)とのコラボによるリデザイン(リノベーション)計画も進んでいる。
コロナで追い風の「郊外型団地」?
記者会見が行われた、光が丘ゆりの木通り33番街の社員寮兼コミュニティ空間。(コロナ前は)海外から研修で訪れた社員らの臨時住居として使われたり、イベントスペースとして使われたり、さまざまに活用されている。
奇しくもコロナ禍によって、「郊外に住む」ことへの注目はかつてなく高まっている。
ヤフー・データソリューションが2020年3月から11月にかけて「〇〇 (地名) 賃貸」「〇〇 マンション」などの検索データを検証したところによると、関東・関西ともに都心の地名ほど検索がじわじわと減少傾向にあり、逆に郊外は検索の高まりがあることがわかった。さらに同調査では、住まいにより広い空間や自然に近い環境を求める傾向が出たともいう。
前述のUR都市機構理事長の中島氏もBusiness Insider Japanの取材に対し「郊外団地」の可能性を感じていると明かした。ここ1年はテレワーク需要の高まりからワークスペース付き住宅などの反響も良いという。
無印良品側も、「都心から郊外へ」という需要の変化を、はっきりと感じ取っているという。
「コロナの最盛期には全店舗の3分の2が休業していたが、ショッピングセンターなどとは異なる形で出店していた店舗は、(通常通り)営業できた。その後も銀座や新宿といった都心部より、生活圏に近い店舗で商品を購入したいという高まりも、数字を見ると如実に出ている」(良品計画/MUJI HOUSE社長の松崎暁氏)
緑豊かな郊外の「団地」は若者の暮らしのニュースタンダードになるか?
2012年に「高齢化対策」として始まった取り組みは、コロナ禍で新たな脚光を浴びることになった格好だ。
世相の後押しも受け両者は今後、部屋のリノベにとどまらない、暮らし全体のデザインを手がけていくという。
2018年12月には、団地の商店街に、地域に根ざしたコンパクトな店舗「MUJIcom」がオープン。先述の通り、コロナ禍で客数・売り上げともに大きな伸びを記録しているという。
また、現在は活用されていない状態ではあるものの、2018年6月には団地内の有休施設を活用した無印良品の社員寮「MUJI BASE光が丘」が開設されている。施設内にはコミュニティスペースがあり、住民とのイベントやワークショップにも使われているという。
団地から暮らしと住まいの「ニュー・スタンダード」を作っていきたい —— 。中島氏はそう声に力を込めた。コロナ禍によってもたらされた「郊外需要の高まり」によって、若者層の暮らし方にも新たなトレンドが生まれるのだろうか。
(文・写真、西山里緒)