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【国内SaaS決算】事業の健全性を示す3つの主要KPIを満たした唯一の企業は?

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Q. 【国内SaaS決算】事業の健全性を示す3つの主要KPIを満たした唯一の企業は?

A. 事業の健全性を示す主要KPIである「40%ルール」「CAC回収期間」「LTV/CAC」の全てにおいて基準値を満たしていた唯一の企業は、「ラクス」です。

今回の記事では、国内のSaaS企業を、主要KPIを元に概観していきたいと思います。

特に、事業の健全性を示すKPIとして用いられる、次の3つのKPIを中心に見ていきます。

  • 40%ルール
  • CAC回収期間
  • LTV/CAC

また、上記3つのKPIの算出に関連する指標として、次の2つのKPIについても、合わせて比較していきます。

  • ARPA
  • CAC(顧客獲得費用)

SaaS企業の決算は、企業単体の数字を見てもなかなか良い悪いの判断が難しいですが、横比較で見ていくことで、定量的に企業の状態を捉えることができます。

こちらの記事を参考に、是非ご自身でも、SaaSのKPI分析にチャレンジしてみてください。

SaaSの「40%ルール」を達成している企業は?

まずは、「40%ルール」から見ていきましょう。

「40%ルール(Rule of 40%)」とは、SaaS企業の成長の健全性を示す指標で、売上成長率と営業利益率の和が40%を超えていると健全であるという1つの目安に用いられます。

数式は、以下のようになります。

売上成長率 + 営業利益率 ≧ 40%

数式を見ても分かるように、こちらの指標では、売上成長率と営業利益率のバランスが重要となってきます。

例えば、売上成長率が+80%と高い水準であれば、営業利益率が-40%であってもOKです。一方で、売上成長率が+20%と成長が鈍化してきた際には、営業利益率は+20%の水準まで引き上げる必要があります。

さて、この「40%ルール」ですが、国内SaaS企業の決算(2020年2月末時点で公開されている直近の決算。以下、同様)から算出すると、下図のようになります。

日本国内SaaS 40%ルール

このように、SaaSの40%ルールをクリアしている企業は、「ラクス」と「rakumo」の2社のみという状況です。

40%ルールの計算に用いられる売上成長率と営業利益率と共に表形式で数字を成立すると、次のようになります。

売上成長率・営業利益率表

ラクスとrakumoは、いずれも売上成長率は30%台前半ですが、営業利益率がラクスは27%でrakumoは19%と高い水準にあるため、40%の水準を超えることができています。

いずれも、SaaSの中では老舗的なポジションにある企業で、営業利益率がマイナスの会社も多いSaaS企業の中において、しっかりと利益を出すことができている点が特徴的です。

その他には、昨年末にIPOをしたプレイドが四半期で黒字化を果たし、40%までもう一歩というところまで来ている点には注目です。

また、マネーフォワードは、直近の数字では15%と低い水準になっていますが、こちらは大型の広告宣伝を行い、営業利益のマイナス幅が大きい影響です。それ以前は40%前後の推移となっているため、次の四半期の動向に注目です。

ARPAが最も高いのはどの企業?

続いて、ARPA(顧客当たりの月次収益)について見ていきましょう。

ここでは、顧客のサービス導入時に得られる初期収入を除いた「毎月継続的に発生する売上」を対象にしています。

ARPAを高い順に並べると、下図のようになります(※サイボウズ、ユーザベースは公開数字より算出不可のため除外)。

日本国内SaaSARPA

チャットワークの662円からプレイドの79.5万円まで、企業毎で大きく異なっています。

チャットワークについては無料アカウントによる導入も含まれている数字となっているため例外とし、その他の企業をざっくり分類すると、次のようになります。

  • 10万円未満:フリー、マネーフォワード、スマレジ、Retty、rakumo
  • 10万円〜30万円:チームスピリット、カオナビ、Sansan、ラクス、ヤプリ
  • 30万円超〜:プレイド

フリーやマネーフォワードは、個人事業主や中小事業者も多く顧客に含まれるため、ARPAが低い水準になっています。スマレジやRettyについては、店舗を対象にしたソリューションということで、中小事業者が多く含まれARPAが低めになっていると捉えることができます。

一方、プレイドは約80万円(年換算すると約960万円)とかなり高い水準です。おそらく大企業を中心に顧客開拓していると推測できます。

プレイド_顧客社数および顧客単価

プレイド 2021年9月期 第1四半期 決算説明資料

また、上図にあるように、顧客単価は毎四半期増加しており、YoY+31%と大きく成長しています。プレイドの月額料金は月間UUに応じた変動型となっているため、顧客のビジネスが拡大すると収益が増加するモデルです。

ARPAにおいては頭一つ抜けているプレイドですが、今後どこまで伸ばしていけるのか注目です。

CAC(顧客獲得費用)

続いて、CAC(Customer Acquisition Cost、顧客獲得費用)について見ていきましょう。

CACは、1顧客当たりの獲得費用を指し、次の数式で求めることが出来ます。

CAC = 顧客獲得に掛かった費用 / 顧客の増加数

顧客獲得に掛かった費用については、S&M費用(セールス&マーケティング費用)を公開している企業についてはS&M費用を用いており、広告宣伝費のみ公開している企業については、人的コストのうち半数がセールスに従事していると仮定して「広告宣伝費+人件費*1/2」を用いて算出しています。

直近の決算よりCACを算出すると、次のようになります(※マネーフォワード、サイボウズ、ユーザベースは公開数字より算出不可のため除外)。

日本国内SaaSCAC

こちらも企業毎に大きく異なります。昨年末に上場したヤプリとプレイドは2000万円弱という高い水準であるのに対して、Retty・チャットワーク・フリーは桁が2〜3つも異なります。

CACが高い水準にある企業は、テレビ広告の放映などにより広告宣伝費に多額の費用を投資しているケースが多くあります。

実際に、CACが高い水準にある、先述のヤプリとプレイドに加え、カオナビやSansanもそれぞれテレビCMによる認知獲得を行っています。ヤプリのCMでは、元SMAPの稲垣吾郎さんが出演されるなど、注目を集めていたことも記憶に新しいかもしれません。

CACについては、次に紹介する「CAC回収期間」まで算出してみると、より深く企業の顧客獲得における状況が見えてきます。

CAC回収期間

CAC回収期間(CAC Payback Period)は、CAC(顧客獲得コスト)を各企業の収益で回収するのにかかる期間のことです。

数式で表すと、次のようになります。

CAC回収期間(カ月)= CAC ÷ ARPA

例えば、CACが100万円でARPAが5万円の場合、「100 ÷ 5 = 20ヶ月」という計算で、20カ月で顧客獲得に掛かったコストを回収できるということです。

目安としては、CAC回収期間が12カ月以内だと健全であるとされています。

直近の決算よりCAC回収期間を算出すると、次のようになります(※マネーフォワード、サイボウズ、ユーザベースは公開数字より算出不可のため除外)。

日本国内SaaSCAC回収期間

Rettyが2〜3カ月と非常に短期でCACを回収出来ていることが分かります。また、12カ月以内という指標でいうと、12.34カ月のラクスもうまくコントロールが出来ていると言えるでしょう。

先程CACが2000万円弱であったプレイドとヤプリを比較してみると、プレイドの方がARPAが高い分、CACの回収期間が24カ月と短くなっています。一方、ヤプリは回収期間が65カ月とかなり長めになっているため、今後もこの傾向が続くとなると注意が必要かもしれません。

LTV/CAC

最後に、LTV/CAC(LTC:CAC Ratio)を見ていきましょう。

LTVは、顧客の生涯価値を示しており、一度契約した顧客が、将来的にどれだけの利益をもたらすのかを示す数値です。数式では、解約率と売上総利益率を用いて次のように表すことができます。

LTV = ARPA * (1/解約率) * 売上総利益率

「LTV/CAC」については、そのままですが、次のように算出します。

LTV/CAC = LTV ÷ CAC

LTV/CAC = 1 の場合、1顧客の獲得コストと同等程度の収益しか上げられないという意味になります。1より高い数字であれば、顧客獲得コスト以上の収益が将来的に見込めるということであり、一般的には、LTV/CAC ≧ 3 となると高いROIで望ましいとされています。

では、各社のLTV/CACを見てみましょう(※マネーフォワード、サイボウズ、ユーザベース、プレイドは公開数字より算出不可のため除外)。

日本国内SaaSLTV:CAC

LTV/CACが1〜2のフリー・ヤプリ・チームスピリットは、将来的な収益に対してかなり営業や広告宣伝の費用が高くなっていると言えるでしょう。

一方、LTV/CACが5以上のラクス・チャットワーク・スマレジ・Rettyは、高いROIで顧客獲得出来ています。ここまで高い水準であれば、さらに広告宣伝を強化し、多少効率が下がっても成長重視の戦略を取っていくこともできるでしょう。

まとめ

今回の記事では、2021年2月末時点で最新の決算を元に、SaaS企業の重要KPIを横比較で分析してきました。

同じSaaSでも業界やターゲット顧客が異なればARPAや顧客獲得コストは様々です。一方で、40%ルール・CAC回収期間・LTV/CAC比率などの指標は、事業の健全性を測る指標として企業横断的に活用できます。

今回の期間に限定すると、ラクスが次のように全ての指標をほぼクリアしており、SaaSビジネスとして素晴らしい経営をされているということが数字面からも分かります。

  • 40%ルール:58.9%
  • CAC回収期間:12.3カ月(12カ月未満が望ましい)
  • LTV/CAC比率:5.8(3以上が望ましい)

もちろん、各指標は1つの目安であり、市場環境や自社の資本政策によっては、指標を意図的に逸脱して攻めや守りに転じるという戦略もあるでしょう。

今後もSaaS企業の指標の推移は四半期毎に追っていきたいと思います。


シバタナオキ:SearchMan共同創業者。2009年、東京大学工学系研究科博士課程修了。楽天執行役員、東京大学工学系研究科助教、2009年からスタンフォード大学客員研究員。2011年にシリコンバレーでSearchManを創業。noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中

決算が読めるようになるノートより転載(2021年3月11日公開

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