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就活生が選ぶべき、コンサルより“有望な業界”とは? 人気企業の変化からみるファーストキャリアの考え方

3月に採用説明会が解禁され、2022年卒の就職活動が本格化している。今回は、企業の経営戦略を専門とする筆者の視点から、「自分が今大学生だったら、どんな会社に就職するか、したいか」を考えてみたい。

人気の業界は「モノ」から「カネ」へ

2021年3月2日、千葉県の幕張メッセで開かれ、就活生約6400人が参加した「マイナビ就職EXPO」。

2021年3月2日、千葉県の幕張メッセで開かれ、就活生約6400人が参加した「マイナビ就職EXPO」。

撮影:横山耕太郎

まず、会社とは「ヒト、モノ、カネ、情報などの資源を獲得し、それらを活用して価値を生み出し、対価を得る組織」と整理しよう。

そのように考えると、個人が会社に就職するということは、自分の時間という資源を企業に継続的に委ねる契約を行い(=就職)、対価(=給与や経験)を受け取ること、と整理できる。

だから、対価の提供に秀でた企業は当然、人気企業になる。

経済理論で言い換えると、バリューチェーンの考え方のもとでは、ある企業が提供する価値は、他社あるいは最終消費者が獲得する「資源」になる。したがって、ヒト、モノ、カネ、情報などの資源を供給することに秀でた会社の人気が高まることになる。

戦後の高度経済成長期には、他の産業に必要な「モノ」を供給する繊維や鉄鋼などの素材産業が“花形”だった。その後、造船や電機、半導体などの産業も、他の産業や顧客にモノを供給して一時代を作り上げていくが、いずれも産業構造の変化や技術の進歩により、その人気は長続きしなかった。

モノの供給が過多になると、「カネ」を供給する金融業が人気となった。バブル景気により大量に供給されたカネは、不動産、レジャー、リゾート開発などに流れ、そちらも人気業種となった。しかし、バブル景気の終えんとともにカネの供給が失われ、群がった人々は去っていった。

そして、企業が供給する資源は、モノやカネから、「情報」に移った。

都市銀行や商社は流行りすたりがなく、供給する資源と無関係に安定した人気があるじゃないか、という意見もあるかもしれない。しかし、都市銀行はカネに加えて情報を仲介する業態であり、商社はカネと情報に加えてモノやヒトまで仲介する総合的な業態と考えることができるだろう。

メガバンク

都市銀行は情報を扱っているとも捉えられる。

撮影:今村拓馬

「情報を供給する会社」の人気は低下傾向

さて、これからの主役は「情報」という資源を提供する産業であり続けるだろうか。それもどうも怪しい気がする。

インターネットを介して、さまざまな人や企業、機能(サービス)が直接的につながることができる環境が整い、情報という資源は誰もが直接調達できるようになった。さらに、IoT(=インターネットに接続された多様な機器)に代表されるようなデータ収集技術の進歩に伴い、情報の「粒度」はどんどん細かくなり、もはや人が仲介できない領域も生まれてきている。

カネやモノ、情報やヒトといった資源を一手に扱ってきたはずの都市銀行や商社ですら、近年の人気就職先ランキングでは陰りが見えている。その背景には、そうした企業の仲介を受けずとも、情報やカネを(引いてはモノやヒトまで)得られるようになったことがあるのではないか。

情報の組み合わせこそが「価値」

誰でも情報にアクセスできるこの時代に、資源として活用する価値のある情報とは、どんなものなのか?ある洗剤Aに関する情報を例に考えてみよう。

洗剤Aに関するデータとしては、原材料や品質、地域別の売上数量・金額などがひとまずあげられるが、これらの情報はそれぞれ単独では価値がない。

しかし、どの地域でどれだけ売れたかという販売情報と、工場の温度や品質といった製造情報など、データとデータが組み合わされることで、価値のある情報となる。

そしてその組み合わせは、どういった製品をどう作り、どこでどう売るのか、日々成長のために取り組む企業の活動履歴とも重なる。価値のある情報とはつまり、試行錯誤の結果にほかならない。

そう考えると、集めた情報を試行錯誤しながらより効果的に活用する(=価値を生み出す)企業こそが産業の「主役」であり、情報収集や処理を支援する産業は「脇役」と位置づけられる。そして、主役を演じる企業に人気が集まることは言うまでもない。

ただし、主役と脇役の力関係は必ずしも一定ではない。技術革新などを経てその立ち位置が入れ替わってしまうような流動性もあるし、単純に脇役の待遇や人気が主役のそれを上回ることもありうる。

その意味で、就職先という観点から言えば、(主役を支える)何らかの専門技術を身につけ、一流の脇役を目指すキャリアも有力な選択肢といえる。

世界的にも「メーカー」が根強い人気

カリフォルニア、アーバインにあるGoogleのオフィス

ランキングの1位はGoogleではあったものの、消費財メーカーの人気は高い。

REUTERS/Mike Blake/File Photo

世界の学生へのアンケート調査をみると、「消費財メーカー」が根強い人気を集めていることが分かる。

企業ブランディングを手がけるユニバーサム(Universum)が、世界12大経済圏の大学生の回答をもとに発表している、「世界で最も魅力的な雇用主」ランキング(2019年度)のトップ40社を見てみよう。

ランクインしているのはいずれも巨大企業ばかりだが、下記のようにグループ分けしてみると、傾向がつかめる。

・消費財メーカー:16社

・金融:9社

・会計・コンサルティング:9社

・情報機器・ソフトウェア:3社

・新興情報産業:3社

デジタルトランスフォーメーション(DX)が何かと話題になる時代だが、それを支援する立場の「会計・コンサルティング」「情報機器・ソフトウェア」などの企業より、新たな価値を生み出す主役となる「消費財メーカー」のほうに将来性を感じていることが読みとれる(ただし、2020年にコロナ禍でどんな変化が起きたかは注視する必要がある)。

消費財メーカーは一義的にはモノを供給する会社だが、その供給相手が最終消費者であることはポイントだ。

スマイルカーブ現象(=企画や設計などの上流工程と、顧客接点にあたる下流工程の付加価値が高まり、中流の製造工程の価値が相対的に低くなる現象)が強まるなか、最終消費者(顧客)との接点にあたる情報の価値が高まっている。

消費者に近い企業のなかで、仮説を立てて実行し、情報を集めて検証し、修正してまた実行する、という一連の流れを主体的に経験することは、その後の大きな財産になるはずだ。

情報活用を進める企業の見分け方

トルコにあるダイキンのオフィス

日本企業ではダイキンにも注目してみたい。

Shutterstock/multitel

前節で紹介した「最も魅力的な雇用主」トップ40には、日本からトヨタとソニーがランクインしているが、筆者から(トヨタやソニーほどに注目はされないが)魅力的に映る企業の一例として、空調機器大手のダイキンをあげておきたい。

IoTによる情報収集の先進事例としては、1999年に発表されたコマツのKomtrax(コムトラックス、インターネットによる工場内生産設備の稼働管理システム)がよく知られるが、ダイキンはそれより圧倒的に早い1993年、オンラインで空調を管理する診断システム「エアネットサービス」を発表。2000年には365日24時間の全国対応を実現している。

2018年からは、技術系の新入社員を2年間「ダイキン情報技術大学」に配属し、人工知能(AI)関連の技術開発や事業を担う人材の育成を図っている。

ここでダイキンを紹介したのは、就職先に選んでもらうためではない(もちろん魅力的な企業なので志望者にはぜひおすすめしたいが)。ダイキンを例に筆者が言いたかったのは、資源となる情報を集め、それを活用して価値を生み出すという企業活動は、一朝一夕には進まないということだ。

就職志望先の企業が、情報の収集・活用に積極的に取り組んできたのか、今後も情報を企業の生命線として重視していくスタンスがあるのか、本当のところを見定める簡単な方法がある。

それは、兼務ではない最高情報責任者(CIO)がいるか、またその専任のCIOが十分な経験と権限を持っているかを調べることだ。

「キャリアの第一歩」をどう乗り出すべきか

就活生の後ろ姿

終身雇用に期待はできないが、ファーストキャリアも重要だ。

撮影:今村拓馬

ここまで、企業への就職を前提に話を進めてきたが、インターネットは就職の形にすでに大きな変化を及ぼしており、企業に入る以外の道もいくつもある。

大枠1日8時間の労働時間を一つの企業にすべて委ねる労働契約以外にも、時間や知識を(企業に所属することなく)特定のタスクに結びつけるギグワーカーのような契約が増えている。

終身雇用を本気で期待する学生はもはや少ないし、それゆえに生涯年収で会社を比較するかつての習慣も無意味になりかけている。技術革新や規制環境の変化も著しく、ある業種が10年、20年と不動の人気ということもなくなってきた。

そうした変化を踏まえると、近年言われていることではあるが筆者も同じ考えで、これから就職先に選ぶ会社の位置づけは「キャリアの第一歩として行く会社」と再定義すべきだろう。

ただし、それは「キャリアの第一歩」にすぎないから、さほど深く考えなくてもいいという意味ではない。たとえ一生を捧げる会社ではなくても、仕事に向かう姿勢や物事の見方は最初の会社での経験から学ぶことの影響が非常に大きい。

そういう意味で、筆者が今もう一度最初の就職先を選ぶなら、ここまで強調してきたように、情報という資源を自ら収集して活用し、新たな価値を生み出す立場の企業を選ぶと思う。

(文・上野善信


上野善信(うえの・よしのぶ):金沢工業大学虎ノ門大学院教授。新日本製鐵株式会社にて製造系・流通系のシステム導入、SCM導入コンサルティングに従事。アサガミ株式会社(倉庫・物流・印刷業)取締役、PwC PRTM(戦略・SCM・R&Dコンサルティング)ディレクター、キャップジェミニジャパン(ITコンサルティング)代表取締役などを歴任。現在はバリューグリッド研究所代表取締役として、上場企業等の戦略立案および実行を支援。東京大学工学部卒、UCバークレー工学部大学院・MIT経営大学院修了、東京大学工学系研究科技術経営戦略学。専攻修了(博士工学)。

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