米半導体大手クアルコム(Qualcomm)の自動車分野における存在感が増してきている。
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テクノロジー分野においてクアルコム(Qualcomm)はよく知られた名前だが、同社がここ10年ほど自動車分野進出に意欲を燃やしてきたことはあまり知られていない。
自動車はいまや「走るコンピューター」のごとく変化を遂げようとしているが、クアルコムはそれでも「縁の下の力持ち」のスタンスを崩そうとしない。
米カリフォルニア州サンディエゴに本拠を置くクアルコムは、通信・半導体分野ではレジェンドともいえる存在だが、それ以外にも、通信機能がデフォルトで組み込まれていない自動車向けのサポートを7年、自動車メーカーとの協業という意味ではほぼ20年の歴史を持つ。
「自動車分野との関わりはゼネラル・モーターズ(GM)の車載テレマティクス『オンスター(OnStar)』に関する協業がきっかけだった」と語るのはクアルコムのバイスプレジデント、自動車部門ゼネラルマネジャーのナクル・ダガルだ。
オンスターはGMの自動車向け情報通信サービスで、ドライバーに位置情報を提供したり、ドアロックを遠隔解除したりする機能で知られる。
サービス導入により安全性の向上は見られたものの、専門家からはシステムとして不十分との評価も出ていた。しかし、7年かけてGMの全車種で第4世代(4G)の高速データ通信規格(LTE)との接続が可能になったことで、新たな地平が開けてきた。
オンスターを通じた19年におよぶ自動車産業への関与を経て、クアルコムは次世代車載テレマティクスの開発に関わるようになり、すべての自動車がクラウドにつながっていくこの時代に至って、同社はモデムを供給する業界最大のサプライヤーへと成長を遂げている。
クアルコム流「自動車ビジネスに不可欠な3つの要素」
クアルコムのシニアバイスプレジデント、自動車部門ゼネラルマネジャーのナクル・ダガル。
Qualcomm
「長期的な視点、深い(顧客企業との)関係性、揺るぎないタフさ、それに尽きる」
Insiderのインタビューに応じた前出のナクル・ダガルはそう語り、家電製品と同じようなスピードで物事は進んでいかないことを強調した。
新たな車種の開発には数十億ドルの資金が必要だし、設計やエンジニアリングに5年はかかる。メーカーは市場投入の準備が整ったそばから、同じ車種を長く売るため5〜7年ごとのリデザインを想定し、それにいくらかかるかを考えている。
しかも、自動車はスマートフォンよりずっと高価で、新車にせよ中古車にせよ、5年あるいはそれ以上のローンを組んで購入するのが一般的。確かに家電製品とは何もかも違う。
ダガルによれば、自動車分野でクアルコムが取り組んでいることは、アップルやサムソンが対峙する類いの技術的課題よりずっと込み入った難題ばかりだ。
「我々がいま立ち向かっていることに比べると、スマートフォンは実にシンプルだ」(ダガル)。クアルコムが開発する半導体チップは、人工知能(AI)による処理やマルチメディアの実行を可能にするとともに、それによってかかる負荷をさまざまなレベルのソフトウェアを活用して最適化するものだ。
「コネクティビティ」が生み出す可能性
クアルコムはダッシュボード(計器メーターなど)、ドライバーの視界にデータを映し出すヘッドアップディスプレイ、インフォテインメントシステムなどの車載ディスプレイのほか、車載カメラやカーオーディオ機器も手がける。
また、自動運転や先進運転支援システム(ADAS)、OTA(Over-The-Air)ソフトウェア更新システムの開発も進めており、それらは同社のフラッグシップSoC(システム・オン・チップ)の名を冠した「スナップドラゴン・オートモーティブ・プラットフォーム」のもとに統合されている。
自動車メーカーは今後それぞれが経験してきたことの延長上に、新たな製品を設計していくことになる。電動化によって設計やエンジニアリングがシンプルになるのと同時に、多様な顧客ニーズに対応し、さまざまなサービスを統合することが可能になるにつれ、取り組みはさらに加速していく。ダガルはそんな展開を予測している。
車載電池パックとモーターを配置した、基本的な電気自動車(EV)プラットフォームは「スケートボード」と呼ばれたりするが、その上には多様なデジタル「シャシー」を乗せることができる。
ダガルに言わせれば、そうしたアーキテクチャはもっと積極的に活用されてしかるべきだ。現在のところ、内燃機関車の設計には、自動車とサービスをさまざまな形でパッケージにする視点がほとんど考慮されていない。ただし、コネクティビティ(外部とのオンライン接続)の力があれば、新たなビジネスチャンスを生み出すことはできる。
「いまは本当に重要な時期だと思っている。自動車産業からたくさんのイノベーションが生まれ、他に波及しようとしている。産業のあらゆる場所でいままさに変化が起きているんだ」
(翻訳・編集:川村力)