パトロール中、道路を横断する高齢女性を手伝う警察官(2021年3月18日、サンフランシスコ)。
Photo by Justin Sullivan/Getty Images
- ジョージア州アトランタで起きた銃撃事件を受け、アメリカでは警察がアジア人コミュニティーで存在感を高めている。
- アトランタの銃撃事件ではアジア系の女性6人が死亡していて、少なくとも8つの都市の警察署がパトロールの強化などを発表している。
- しかし、警察活動の強化はアジア系の人々に対するヘイトへの答えにはならないと、専門家は話している。
アジア系の女性6人を含む8人が死亡したアトランタの銃撃事件を受け、アメリカでは警察がアジア人コミュニティーで存在感を高めている。
警察の調べに対し、容疑者の男は自身の行動がセックス依存症によって駆り立てられたものだと話しているというが、男の犯罪についての当局の説明に対しては激しい反発 —— 活動家たちは、警察が何の疑問も抱かずに男の主張を受け入れていると指摘している —— が起きている。
アトランタの銃撃事件は、アジア系アメリカ人に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が急増する中で起きた。ただ、新型コロナウイルスのパンデミックによって火が付いたアジア系の人々に対する人種差別は、アメリカにおけるアジア人差別の長い歴史の1ページに過ぎないと、専門家は強調している。
「アジア系アメリカ人に対する攻撃や暴行は、100年以上にわたってアメリカの歴史の一部だったのです」と、Asian Pacific Policy and Planning Councilのエグゼクティブ・ダイレクターであるマニューシャ・クルカルニ(Manjusha Kulkarni)氏は2月、Insiderに語っている。
ニューヨーク・タイムズによると、16日夜に銃撃事件が発生して以来、アメリカの少なくとも8つの主要都市の警察署がアジア人コミュニティー付近のパトロールの強化を発表している。ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、サンフランシスコ、シアトル、ヒューストン、フィラデルフィア、フェアファックス郡の警察署はいずれもアトランタの銃撃事件の後、アジア系アメリカ人コミュニティーとの連帯を約束する同様の発表をしている。
しかし、16日の銃撃事件の前ですら、警察活動の強化はアジア系の人々に対する攻撃への答えにはなっていなかったと、専門家たちは警鐘を鳴らしている。
「根本的な原因に対処しない限り、攻撃がなくなることはないと分かっています」とサンフランシスコ州立大学アジアン・アメリカン・スタディーズ学科の学科長ラッセル・ヨング(Russell Jeung)氏は2月、Insiderに語った。
2020年にアジア系アメリカ人に対するヘイト事案が急増し始めると、クルカルニ氏とヨング氏は「Stop AAPI Hate」という、アジア・太平洋諸島をバックグラウンドに持つ人々に対するヘイト、暴力、ハラスメント、差別、敬遠、いじめに対応・追跡する通報センターを立ち上げた。2020年3月以降、同センターには4000件近い通報が寄せられていて、クルカルニ氏とヨング氏は、これは氷山の一角に過ぎないと話している。
活動家や団体関係者たちは、周縁化されたコミュニティーにおける警察活動の強化は長期的な解決策ではなく、有害無益ですらあると主張している。
有色人コミュニティーに生きる多くの人々は、明らかに警察官を警戒している。
アトランタの銃撃事件の容疑者が犯罪を実行したのは、男にとって「ツイていない1日」だったからだとコメントし、批判されたジョージア州の保安官事務所の警部は、銃撃事件についての記者会見のわずか数時間前にフェイスブックでアジア人差別のTシャツの写真をシェアしていた。
クルカルニ氏は2月のInsiderのインタビューで、警察活動を強化する代わりに、地方自治体、州、国全てのレベルでアジア系アメリカ人に対するヘイトを撲滅するための次のステップに進む必要があると話している。
アジア系アメリカ人に対する物理的な攻撃の増加は驚異的だが、ヨング氏によるとStop AAPI Hateに寄せられた通報の大半は犯罪とは無関係だ。その多くは街中やビジネスの場での言葉によるハラスメントだという。
「犯罪にあたるものがわずかだとすれば、警察を当てにすることはできません」とクルカルニ氏は語った。
「薬局で人種差別にあったから警察に通報するというのは、理にかなわないでしょう」
クルカルニ氏とヨング氏はそれよりも、教育活動、市民活動、地域社会活動の連携を支持している。
ヨング氏は、人種差別に基づくいじめにノーと言うカリキュラムや人種差別についての一般市民への啓蒙が、より広い共感や連帯を促す役に立つだろうと話している。
また、Stop AAPI Hateでは市民権の行使の拡大も呼びかけている。ヨング氏は、市民権にまつわる規則をアップデートすることが不寛容との戦いには効果的だろうと話している。コミュニティーの積極的な働きかけや支援も欠かせない。Stop AAPI Hateでは、アジア系アメリカ人のコミュニティーメンバー向けにセミナーを開催したり、調停を手助けするための多数の言語を用いた支援を行っている。
「わたしたちは誰かを罰したり、犯罪者として扱おうとしているのではありません」とヨング氏は言う。
「修復的正義は人々の和解を手助けするもので、わたしたちは人々に責任を持たせ、被害者が声を上げることを促すこうしたアプローチが好ましいと考えています」
(翻訳、編集:山口佳美)