LINEと統合したZホールディングスは集中領域の1つとして「社会」を挙げていた。
撮影:小林優多郎
LINEの一部情報が中国の委託業者で扱われていたことにより、波紋が広がっている。
LINEは国内月間アクティブユーザー数約8600万と国内最大級のメッセージングサービスで、さまざまな機能やサービスを利用できる。国の組織や地方自治体の一部も、LINEを通じて行政サービスを提供している。
武田良太総務相は3月19日、総務省がLINEで提供する採用情報など一部の情報発信について「運用を停止する予定」だと明かした。総務省では、LINEを行政サービスに利用している全ての地方自治体に対し、3月26日までに利用状況を調査・報告するよう依頼している。
具体的に、総務省のどんな行政サービスが止まるのか。また、個人情報の不備問題を受けて、各自治体でサービスに影響はあるのか? Business Insider Japanが総務省、LINEでの行政サービスを提供する自治体などの担当者に現時点での対応を取材した。
【総務省】説明会やパブコメの募集に利用。再開時期は「懸念が払拭されたと確認できるまで」
総務省
撮影:今村拓馬
総務省の担当者によると、停止するLINE上での情報発信の内容は以下の通り。
- 職員などの採用や説明会の告知
- パブリックコメントの募集告知
- 問い合わせ窓口の案内
担当者によると「(LINEは)個人情報などを受けとるためには使用していない」と説明。再開時期については「現時点では決まっていない。安全性への懸念が払拭されたと確認できるまでということになるだろう」とした。
【東京都】おもに5つのアカウントを運用。影響について都知事コメント
東京都庁
撮影:竹井俊晴
東京都では都の公式アカウントを含め、最低でも5つのLINE公式アカウントを運用している。ただし、個別の事業で運用しているものは除くという。5つのアカウントは以下の通り。
・東京都:都政情報の発信。
・子ゴコロ・親ゴコロ相談@東京:都内在住の児童(18歳未満)・保護者を対象に、親子のかかわりや子育てに関する相談を受け付け。
・相談ほっとLINE@東京:「ネット・スマホトラブル」、「生きるのがつらいと感じた時」、「教育相談(中高生限定)」を受け付け。
・新型コロナ対策パーソナルサポート@東京:ご自身の健康状態等を入力いただくことで、一人ひとりに応じた新型コロナウイルス感染症に関する情報をお知らせ。
・妊娠したかも相談@東京: 「妊娠したかも?」という悩みや疑問に、チャットボット形式で回答。
(東京都「東京都のLINE公式アカウント一覧」より引用 )
都は3月19日午後5時55分時点で、LINEでの行政サービスに関する制限などの報道発表は配信していない。
小池百合子知事は同日午後の定例会見で、今回のLINEの個人情報保護の不備問題をめぐる各事業への影響について「報告は上がっていない」と話した。
小池知事は「国から実態調査の依頼も来ている。LINE社の動向には注視をしていきたい」とも述べた。
【渋谷区】各種申請や不具合報告に利用「基本的に総務大臣発言の影響はない」
渋谷のスクランブル交差点。
撮影:竹井俊晴
渋谷区は以下の機能を、同区のLINE公式アカウント(登録者数約2万9000人)で提供している。
・住民票の写し、住民票除票の申請
・課税(非課税)証明書、所得証明書、納税証明書の申請
・犬の登録、犬の鑑札再交付、犬の注射済票の交付、犬の注射済票の再交付
・道路、橋、公園の遊具等の破損・不具合等の通報
・ 落書きの情報提供
・各種予約(妊婦面接、育児学級等、融資あっせん相談窓口、保育園入園申込(当初のみ)、子ども発達相談窓口等)
・パブリックコメント
・新型コロナウイルス自宅療養者健康観察報告
・新型コロナあんしんチェックインサービス
(渋谷区令和3年度当初予算案事業シートより抜粋)
同区の経営企画部経営企画課の担当者によると、渋谷区のLINE連携サービスは、基本的にLINEのMessaging APIという仕組みを活用し、Bot Express社(所在地:東京都港区)がサービスを構築している。
渋谷区の担当者は「各種データは基本的にLINEのサーバーではなく、国内のクラウドサーバーに置き、適切に管理している」とし、外部事業者の閲覧やアクセス権限付与をしていることは一切ないことから「今回の事例に相当するリスクはない」と説明した。
渋谷区では4月1日から出生通知票やベビーシッターの利用申請をLINE上で受け付けるサービスを始める。これについて区は「予定どおり開始予定」としており、今後もLINEとの連携は維持する方針だ。
【和光市】支援金申請やプバコメ提出に使用「通常どおり運用」
和光市のLINE公式アカウント。
撮影:小林優多郎
埼玉県和光市は、2020年6月10日から和光市公式アカウント(登録者数約3900人)で「持ち運べる市役所」をテーマに各種申請受付などのサービスを提供している。
・「中小企業・小規模事業者支援金」申請
・上下水道の免除申請
・「第五次和光市総合振興計画基本構想(素案)」に対するパブリックコメント提出
など
和光市も、他の自治体と同様にLINEから説明を受け、引き続き注視はしていくとしている。
一方で「和光市LINE公式アカウントに関連する個人情報保護に関するリスクが高まっている状況ではないので、LINE公式アカウントについては、引き続き、通常どおり運用します」としている。
担当者によると市の公式アカウントでは、保育園の入園申請(2020年10月14日〜11月13日で147件)や、コロナ対策に関するキャッチフレーズの募集(58件)の申請を受け付けたという。
また、送信されたデータは委託業者のサーバーに一旦保存され、市の職員が必要に応じて活用。LINEのサーバーには保存していないとしている。
【福岡市】粗大ゴミの申請や防災情報を発信。とくに影響なし
福岡市の屋台。
撮影:小林優多郎
福岡市は、LINEの子会社「LINE Fukuoka」と共に福岡市公式アカウント(登録者数約176万人)を運用。以下のサービスを提供している。
防災、ごみの日、子育て、防犯・交通安全、イベントなどの生活に密着した情報の中から、選択した情報だけを、LINEでタイムリーにお届けします。
また、家庭ごみの分別検索や、道路・河川・公園の不具合などの通報ができ、大変便利です。
(福岡市公式サイト「福岡市LINE公式アカウント」より引用)
福岡市もほかの自治体と同様の説明をLINEおよびLINE Fukuokaから受けたとし、公式サイト上で提供中のサービスへの影響はないとしている。
【春日市】防災や問い合わせ受付機能を提供。「対応については現在協議中」
春日市のLINE公式アカウント。
撮影:小林優多郎
福岡県春日市は2月1日、市のLINE公式アカウント(登録者数は約1万3000人)をリニューアル。「防災」「AIによる問い合わせ回答」「コミュニティバスの時刻表案内」「学習アプリ」機能などを提供している。
市の担当者によると、サービスの継続については「総務省の方針を受けて、現在協議中」としている。
行政も使う「LINE公式アカウント」のデータはどこに?
「LINE for Goverment」など、LINEはスマートシティーの文脈を進めてきた。
撮影:小林優多郎
LINEが3月17日に公表した国内ユーザーの個人情報の取り扱いに関するプレスリリースでは、広範囲の情報が書かれており、問題の実態を把握するのは難しい。
ただ、行政サービスで利用される「LINE公式アカウント」については以下のような記述がある。
データについては、「LINE」と同様、ユーザーの皆さまのトークテキストおよび会員登録情報などのプライバシー性の高い個人情報は日本国内のデータセンター、画像や動画などのデータは、韓国のデータセンターにて適切なセキュリティ体制のもとで管理が行われています。
Messaging APIを利用して運用されている公式アカウントについては、当該APIを利用するパートナー各社によってやりとりされたデータの保存先が異なります。
またLINEは「日本国内の『LINE公式アカウント』のデータはすべてLINE Fukuokaにてモニタリングを行っています。」としている。説明が正しければ、公式アカウントに関しては、LINEとして国外で情報を取り扱うことはない。
LINE社では上記の内容を含む自治体向けオンライン説明会を3月18日に実施。細かな質問などには個別に対応しているとしている。