格安の新料金「LINEMO(ラインモ)」で見えた“オンライン専用プラン”の課題と顛末…eSIMは「上級者向け」?

ラインモのeSIM契約画面

LINEMOの申し込み画面。サービスイン直後のeSIM関連の問い合わせの多さを受けて、eSIMを「上級者向け」と位置付けた案内に変更した。

撮影:伊藤有

ソフトバンクのオンライン専用ブランド「LINEMO(ラインモ)」が3月17日にスタートした。NTTドコモの「ahamo」を皮切りに登場した、データ容量20GBで3000円を切る低価格プランのなかで、先頭を切って登場したということで、世間の注目度も高い。

LINEの一部通信はデータ量を消費しないLINEギガフリー、5分間の音声定額が1年間無料、といった特徴もポイントだ。

ただ、サービス開始以降、一部でトラブルも報告されている。

オンライン専用プランということで「店頭サポートがない」、サービスイン当日の移行ができるのは、物理的なSIMカードの代わりに、対応端末にオンライン経由で契約を書き込む「eSIM」だったこともあり、移行時のトラブル解決に時間がかかる例も起きている。一部のユーザーがTwitterなどで報告している。

実際筆者の周辺でもMNP(いわゆるナンバーポータビリティー)での転入時にトラブルが発生しており、解決までの一連の経緯を見ていた。

この記事では、筆者が見た例の対処法と、オンライン専用プランにおけるサポート面の注意もあげておきたい。

※この記事ではアンテナ表示上「3G」になる症状を扱っていますが、LINEMOは4G/5G対応のため、3Gでの使用はできません

LINEMOで起こったeSIMトラブルの一例

LINEMOは、3キャリアのオンラインプランの中では、いち早くeSIMに対応している点が特徴だ。実物のSIMカードを抜き差しする物理SIMとは異なり、SIMの受け取りが必要ないので「オンラインで契約後すぐに使える」メリットがある(ただし、利用できるのはeSIM対応端末であることが条件)。

今回は、このeSIM契約したユーザーの一部で、通信できないなどのトラブルが発生していたようだ。

LINEMOのeSIMの仕組みでは、契約後に送付されるメールから指定のURLにアクセスして契約を進める。

表示されるQRコードをスマートフォンのカメラで読み込むと、「eSIMプロファイル」がダウンロードされ、インストールを行うとeSIMが有効化される仕組みだ。

この操作で、端末から見れば「物理SIMを差し込んだ」のと同じ状態になる。もろもろの設定を済ませると、自宅にいながらLINEMOに乗り換え完了……という流れだ。

さて、ここにどういうトラブルが発生していたか?

筆者の知人のケースで発生したのは、

「MNPでの開通はできたのに、アンテナ表示が3Gになり、通話しかできない(データ通信NG)」

「オンラインサポートに指示をあおいだが、初日当日中のトラブル解決ができず、翌日も具体的な解決策が示されなかった」

というものだった。

同様の3G表示になり、データ通信ができないトラブルは、Twitter上でも複数のユーザーが報告していた(一方、問題なく通信できている人もいる)。

Androidの場合の「eSIMの“APN”問題」の解決策

LINEMOの公式アカウント

サービス開始2日後の3月19日になって、LINEMOは公式Twitterアカウントでトラブルの解決法についての案内も始めた。

撮影:伊藤有

物理SIMでも同様だが、eSIMを契約して通信するには、キャリアとの通信に必要な設定が書き込まれた「APN」の設定(インストール)が必要だ。そのため、iPhoneでは「APN構成プロファイル」のダウンロードが求められ、Androidでは手動設定が指示されている。

3月18日に公開した記事のとおり、LINEMOへの転入とちょっとしたトラブルは筆者も経験した。ただし、筆者が使った端末(Androidの「Pixel 5」)の場合、eSIMをインストールした時点でAPNが自動登録されていた。同記事にあるように、筆者の場合、当初はこのAPNが問題で、それを選択してもネットワークに接続できなかった。

APN設定の中身を見ると、「ユーザー名」と「パスワード」の欄に「ym」と入力されており、これが同社の別ブランドであるワイモバイル用のAPNだというのが分かった。そのため、結局APNの手動設定をして、解決した。

ソフトバンク傘下の別サービスのAPN設定が出てくるという不思議な挙動についてソフトバンク広報に確認したところ、やはり「現時点でLINEMOのeSIMにAPN設定は含まれていない」はずだと言う(3月19日時点)。Pixel 5にプリインストールされたAPNが表示されただけなのかもしれないが、実際のところはわからない。

ちなみに、その時に使った「ちゃんと接続できるようになったAPN設定」は次の通りだった。

APN名(NAME)plus.acs.jp
認証CHAP
ユーザー名lm
パスワードlm
MCC440
MNC20
APNタイプdefault,supl,hipri ※いずれも3月20日時点の公開情報

iPhoneでは問題が複雑?

01

LINEMO公式ウェブサイトのスクリーンショット。

Business Insider Japan

iPhoneも基本的には同様で、公式には「APNは含まれていない」(ソフトバンク広報)ため、eSIMインストール後にAPNは別途インストールしなければいけない理屈になる。

ところが、筆者の知人は、最新のiPhone 12 miniを使って、格安SIMからLINEMOのeSIMにナンバーポータビリティー(MNP)で転入したところ、ワイモバイル用のAPNが適用された

この場合の挙動は、「アンテナ表示は3G」「音声通話は可能」「データ通信はできない」というもの。

正しくセットアップされていないと判断し、eSIMの設定トラブルを疑って「モバイル通信」の設定自体を削除(※)したところ、eSIMそのものが認識できない(復活できない)状態になった。

※後にわかるが、モバイル通信設定自体を削除してしまうと、本来はeSIMの「再発行」が必要。だが、初日の混乱のなかでカスタマーサポートからは再発行が必要な旨の案内はなかった。なお、APNプロファイルだけを削除する場合は、下記の操作手順が正しい。

APN

iPhoneの場合、APNプロファイルの削除の動線が少しややこしい。右の手順を参考に。間違って「モバイル通信プラン」を削除してしまうと、eSIM設定そのものが消えるため、eSIMの再発行が必要になる。

編集部作成

こうしてカスタマーサポートの出番になるが、初日ということもあり、トラブル解決は相当厄介だったようだ。

チャットでのサポートも一定程度はあるが、LINEMOではeSIM関係の複雑なトラブルに関しては、電話サポートを案内する。

電話サポートは非常に混雑していて、リダイヤルに15分ほど、つながってからもオペレーター対応になるまでに1時間近く保留で待たされる(3月17・18日に筆者確認)。

さらに、初日時点ではソフトバンク側でも状況が把握できていなかったのか、トラブル内容を聞いた上で、「当日中の連絡は難しいと思われ、明日に電話する」という対応になった。

esim

チャットでのサポートはあるが、eSIM関係の複雑なトラブルは電話サポートを案内される。

Business Insider Japan

結局、翌日の正午近くになっても連絡がこなかったため、問題を切り分けながらさまざまな方法を試して、結果的に解決する方法を見つけた。

それは以下の通りだった。

  1. LINEMOにログインして、「eSIMの再発行」をする(無料)
  2. メールで届く「eSIMプロファイル発行完了のお知らせ」からeSIM切り替え用のプロファイルをインストールする
  3. 手順にしたがって、LINEMOのメニューから、eSIMの「回線切替」をクリック
  4. 30分程度待つと、再度、回線が使えるようになる(ただし一部問題あり)

これでiPhoneでも電波を掴むようになったが、「一部問題あり」と書いたとおり、まだ問題は完全解決しない。

上記手順4の状態でeSIMは認識するようになるものの、最初のトラブル状態である「3G接続/通話可能/データ通信不可」に戻っただけだ。

念のため、iOSの「設定」→「一般」→「プロファイル」で、適用されているプロファイルの中身を見ると、APN設定は、筆者のAndroid端末で問題があった、IDが「ym」のものだった。

普通に考えると、このAPN設定が原因では……と思えるが、結果から言うと、そう単純ではなかった。

念のため、元に入っていたAPN構成プロファイルのみを、本記事2つ前の画像右側に示した手順で削除した。

その上で、あらためてLINEMOのサポートページで案内される「iPhone・iPadのAPN設定」から、APN構成プロファイルをダウンロードし、再度インストールした。

この操作でダウンロードされたAPN構成プロファイルの中身は、IDが「ym」のもので、つまり当初、削除したものと同じ内容に見える。

普通に考えると、これでは前の症状の再現になってしまう。

「ダメもとで試すだけ試そう」とインストールして、3分ほど待つと、不思議なことに今度はちゃんとLINEMOの4Gを掴みはじめた。データ通信も問題なくできる。

こうして、原因は不明なまま、一応「解決」した。その後経過も見ていたが、翌日以降も問題なく通信はできている。

IDが「ym」のAPN構成プロファイルは「想定内」

さて、このIDが「ym」のワイモバイルのAPN構成プロファイル。これがiPhoneにも適用されるのは「想定内」の挙動なのだろうか。

ソフトバンク広報に確認したところ、ワイモバイル向けのAPN構成プロファイルが当たるのは、「(現時点では)正式なAPNで間違いない」とのこと。不具合ではないという。

ただし、少なくとも原稿執筆した3月19日時点では3Gでつながってしまうケースが発生する(Twitterなどを見る限り、普通に使えている人もいるが……)ことも確認できている。

eSIM関連のこのあたりになんらかのトラブルの芽が潜んでいそうだが、これ以上はキャリア側でしかわからない部分だろう。

オンライン専用プランとeSIMで浮上する課題

eSIM関連での問い合わせがよほど多かったのか、LINEMOはサービスイン後の最初の週末に入る3月20日前後に、eSIM関連の案内表示に「上級者向け」という文言を追加した。合わせて、サービスの位置付けも物理SIMでの契約を中心に案内するよう、UIに変更をかけている。

LINEMO_contract

サービス開始当日は物理SIMカードとeSIMを並列して案内していたが、3月20日前後に表示を変更。基本は物理SIMの案内とし、eSIMは「上級者向け」という案内に代わり、一段奥まった場所から選ぶように変わった。

Business Insider Japan

今回は初日ということもあってサポートに情報が十分に集まっていないことが考えられるが、ソフトバンク側もトラブルの発生は把握している。すべてが解決できたわけではないが、ひとつずつ検証を進めているという。

今回の一連のトラブルシューティングの中で、気になったのがオンライン専用プランならではのサポート体制だ。

LINEMOはオンライン専用ブランドだが、前述のとおりeSIMのトラブルに関してはサポート電話へ案内するオペレーションになっていた。「ネットにつながらない」という状態を想定して、他の音声電話でもサポートできるようにしたのかもしれないが、結果的にサポート体制のボトルネックが発生してしまったことは否めない。

前述のとおり、音声窓口は非常につながりにくく、1時間以上待たされたという声も聞く。待たされた上で、一度では解決しなかったりすると(筆者の知人の場合は実際にそうだった)、ユーザー体験としては厳しいものになる。

本来であれば、チャットサポートの方が早くつながるのだから、eSIMのトラブルレスキューもオンラインサポートで受け付けるようになることが望まれる。

ちなみに、eSIMはもともと、設定するためにインターネット接続が必須。スマホのセルラー回線1つだけで契約・設定できるつくりにはなっていない。無線LANのような代替の通信環境がない人は登録ができないので、「自宅にネット回線がない」という人は、物理SIMでの契約を選択する必要がある。

(文・小山安博、伊藤有)

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