日本でも話題を呼んだ音声SNS「クラブハウス(Clubhouse)」が人気凋落の瀬戸際に。何が起きているのか。
Tama2u/Shutterstock.com
音声SNS「クラブハウス(Clubhouse)」は「(不作だった)ここ10年でようやく登場した面白いソーシャルネットワーク」ともてはやされたが、早くも疑問符がつく状況に陥っている。
スタートアップ投資家で最新プロダクトに詳しいシャーン・プリはツイッターで、クラブハウスの弱含みシナリオに言及し、その理由を語っている。プリの指摘によれば、今後面白いライブコンテンツやゲストを見つけられないと、ユーザーの「クラブハウス離れ」が進む可能性が高いという。
クラブハウスは音声のみのトークにリスナーあるいはスピーカーとして参加する、ポッドキャストにひと捻り加えたアプリだ。アプリを開くと「ルーム(room)」と呼ばれるチャットのリストが表示され、いずれも発言なしで立ち聞きしたり、手をあげてトークに参加したりできる。
クラブハウスに残された「2つのシナリオ」
プリは3月16日のツイートで、次のような自説を展開している。以下にその要点をかいつまんで紹介しよう。
クラブハウスは直近12カ月で1000万以上のユーザーを獲得することに成功したが、インストール数もデイリーアクティブユーザー数もほどなく成長が鈍化しはじめる。
ここから先は2通りの展開が想定される。1つは、プレミアムコンテンツに投資してユーザーを増やす道。もう1つは、リアルタイムのトークに特化する道だ。
前者の道を選ぶなら、集客力のあるスペシャルゲストを招くなどコンテンツを強化することになる。トークを盛り上げる新しいツールの提供やトークのアーカイブ化、ルームの立ち上げで収入を得られるようにするなどの手法が考えられる。
しかし、そうしたやり方はいわば応急措置にすぎない。
結局のところ、難しくてもクリアしなくてはならないのは、本当に面白いコンテンツがいつでもタイムラインにあって、ユーザーがアプリを開いてから7秒以内に「刺さる」状態にしておくことだ。そうでないとユーザーはアプリを閉じてしまう。
インスタグラム(Instagram)やティックトック(TkiTok)には「何百万ものコンテンツがタイムラインに流れていて、洗練されたアルゴリズムが、ユーザーにとって本当に面白いコンテンツをすぐに探し出してくれる」が、ライブコンテンツのみのクラブハウスはその点で不利だ。
後者の道は、「ダラダラする(Chilling)」ことにフォーカスする。プリによれば、ルームを主催する人たちよりぶらぶらとルームを立ち聞きする人たちのほうがアプリ内に長くとどまるという。したがって、ミートアップ(=興味関心や趣味を同じくする人たちが集まるイベント)のカルチャーを育てることができれば、エンゲージメントを改善できる。
「ただし、ダラダラ戦略もその先は行き止まり。リテンションとユーザー数は増やせても、スピード感のある成長は期待できない。(クラブハウスに)友だちとの出会いを求めてやってくることはあっても、自分の友だちを連れてくることはない、と言い換えたらわかりやすいのでは」
結論として、クラブハウスは、
「テック関係者の間ではうまくいった。いわゆる『ハイプサイクル』で、新たなテクノロジーが登場すると当初は過剰な期待が寄せられ、臨界量に達するまでテック関係者は集まってくる。しかし、そうした魔法のような力は他の分野では機能しない」
ソーシャルアプリの難しさをよく知るからこそ
エンジェル投資家でソーシャルアプリ事情に詳しいシャーン・プリ(Shaan Puri)。
Shaan Puri
プリはソーシャルメディアアプリの栄枯盛衰をよく知っている。
ソーシャルアプリの黎明期に人気を博した「ビーボ(Bebo)」は、創業者のバーチ夫妻が手放したあと(AOLに売却)人気凋落、CCPへの転売後に米連邦破産法11条の適用を申請。2013年にわずか100万ドルで会社を買い戻した創業者夫妻は、プリ率いる小さなチームに経営再建を託した。
プリはビーボをビデオメッセージアプリとして再構築。現在では、eスポーツのライブ映像を配信するストリーマーたちがトーナメントを組織するためのサービスに様変わり。このピボットに目をつけたアマゾン傘下のストリーミングサービス「トゥイッチ(Twitch)」が2019年に買収している。
プリはプロダクト、モバイルゲーミング、エマージングマーケット担当のシニアディレクターとして同社に在籍中。そのかたわら、エンジェル投資家として、またビジネスアイデアやケーススタディを掘り下げるポッドキャスト「マイファーストミリオン(My First Million)」のホストとしても活躍している。
プリにツイートの真意についてコメントを求めたが、返答はなかった。ただし、プリ自身がツイートで明言しているように、彼はクラブハウスに破たんしてほしいと考えているわけではない。だからといって、とくに楽観的な見通しを持っているわけでもない。
「(クラブハウスの)物語の終わりは大した面白いものでもない。成長スピードが鈍って解約率が高まり、フェイスブックに9000万ドルで買収されて終わり、といったところだ」
(翻訳・編集:川村力)