「うつ克服」のつもりが、2度目は2018年の冬から春にかけて、3度目はそれから約半年後の2019年の夏。西村創一朗さんはメンタルダウンを経験しました。
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僕が、うつを乗り越える経緯を描いた記事がBusiness Insider Japanに公開されたのが2018年の7月でした。しかし、結論から言うと、当時は油断していました。
半年間のメンタルダウンから浮上できたので、「もう元通りだ、元の自分に戻ったんだ」と思っていたのです。 でもこの記事の後に、3年間で2度うつが再発し、働くことができないレベルまで落ち込んでしまいました。
理由は自分を過信していたから。「もう復活したから、大丈夫だ」と。その過信からまた懲りずにアクセルをベタ踏みしてしまった結果です。
メンタルダウンして仕事がほとんどできず、丸一日ベッドに寝たきり、という状況になり、多くの方にも迷惑をおかけして。また「消えてしまいたい」と思うようになっていたのです。
気づかぬうちにガス欠に
メンタルが落ち込むきっかけは後から振り返ると「あの時、ああだったな」と分かるのですが、その最中にいる時は、のめり込んでしまっているのでなかなか気づかない。
以前だったら、同じ忙しさだったとしてもエネルギーが湧いていた。だからアクセルを踏んでも大丈夫なはずなのに、エネルギーが湧いてこない。
気付かぬうちにガス欠になっている感じです。メタで自分を見られていない。自分を客観視できていない。
回復できたのは、結局は病院に行ったことです。
病院は思っていたよりもずっと安心安全な場所だし、治療する上で医師のサポートは投薬・治療含めて重要だということも学習できた。
ピットインをせずに走り続けると、いつか脱落する。
メンタルがどうしようもなく落ち込んでしまうこと。誰にとっても他人事ではない。
撮影:今村拓馬
それにしても、どうしてしばしばメンタルダウンしてしまうのか。
僕は三度のメンタルダウンを経験して「戦略的に余白をつくり続けないと、長い距離は走り続けられない」ということにようやく気づくことができました。
余白がなくても走り続けられる人もいると思うのですが、少なくとも僕はそういうタイプではない。3回ものメンタルダウンを繰り返すことで、自分に諦めがつきました。
僕はやりたいことがどんどん出てきてしまうのですが、動き出す前にまずは時間を確保できるかどうかを検討します。今やっていることを止めるか、誰かに任せるか、自動化するか。この3通りで検討した上で、それでも時間を作ることができないなら、やりたいことであったとしてもやってはいけない、というルールを自分に課しました。
第3次メンタルダウンから約1年半が経ちましたが、この1年半いい状態をキープできている最大の理由はこのルールのおかげによるところは大きいと思います。
まだまだ油断は禁物ですが。
コロナの2020年に起きたこと
2020年は社会的に、メンタルケアの重要性が再認識された1年だったと思います。
一つの理由としては新型コロナの感染拡大で、なかなか人と、じかに会えなくなったこと。オンラインはムダが省けていい反面、裏を返すと無意識にあった余白の時間が、まるっと失われてしまいかねません。
アポとアポの合間の物理的な移動によって確保されていた、無意識の「ピットイン(余白を作る)」の時間がなくなることで、気づかぬうちにガス欠してしまうのだと思います。
もちろん、本当にうつ状態になってしまったら病院に行くべきです。ただ、深刻にメンタルが落ち込んでしまう前に「予防策」としてできることは経験的にあると思っています。
具体的にどんなことで「余白」を作るべきか。僕が実践している、「自分をご機嫌に保つ」ための具体的な7つの対策をご紹介しようと思います。
https://twitter.com/souta6954/status/1316221981667348480?s=20
1. 睡眠の質を上げる
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「睡眠を制するものが人生を制す」という言葉があるとおり、睡眠はメンタルを健全に保つ上での一丁目一番地だと、僕は思っています。
不安やイライラといったネガティブな感情は、レム睡眠中に脳内で処理されると言われています。理想の睡眠時間には個人差がありますが、僕の場合は最低でも6時間以上は眠ることにしています。
だからといって「●時間眠ればオールオッケー」ということではありません。睡眠時間という「量」だけではなく、睡眠の「質」も重要だからです。
2021年に購入して、個人的に一番良かったのが「Oura Ring(オーラリング)」という睡眠の質を測る指輪型のウェアラブルデバイス。同じ6時間でも詳細に分析していくと、「今日は6時間寝たうち、熟睡できた時間は30分しかないので注意です」などを教えてくれる。睡眠の質を可視化してくれます。
ではどうやって質を上げていくか。入眠の準備と寝具の2つは基本です。
夜は午前0時までに寝て6時に起きる、というのが僕の基本の睡眠サイクルです。そのためにもカフェインは午後3時以降は摂らないようにしています。就寝時間までカフェインが残ってしまうと睡眠を妨げる恐れがあるためです。 また、午後11時ごろからはスマホを見ないようにしています。
加えて、寝る30分前に必ず瞑想。眠る準備だよというサインを脳に送る。そして瞑想が終わったら、枕にピローミストを振りかけて、アイマスクをつけて眠りにつく。
一年以上あれこれ試行錯誤した結果、行き着いた僕なりのルーティンです。
2. 食事をちゃんと摂る
以前は「ちょっと忙しいからランチ抜いちゃおう」とか、「朝ごはんはいいや」と、摂ったり摂らなかったりでした。それが在宅ワークになって、ちゃんと摂るようになりました。
「ながら食事」をしないことも重要だと思っています。食事の時間は、食事だと割り切る。ちゃんと食事を味わうことが、結果的に午後の活力につながっていくわけですから。
3. 毎日運動する
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極力、毎日運動を欠かさないようにしています。
習慣的に運動することと、メンタルをキープすることは、かなり強い相関があると言われています。運動していないと夜寝つきにくくなりますし、運動によって自分のホルモンバランスが整う。
例えば、散歩などのリズム運動をすると、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンが分泌が促され、メンタルが安定しやすくなるそうです。
実際、僕がメンタルダウンした時も、まず始めたのは散歩でした。体を動かすことも大事だし、日光を浴びることも大事です。
4. 感情を吐き出す
ネガティブな感情になった時ほど、溜め込まずに感情を吐き出すことも大切にしています。「ガス抜きとしての愚痴」と僕は呼んでいます。
マネジメント観点で1on1などで感情を吐き出す場所や機会を作ることが重要なように、セルフマネジメントとしても自ら意識的にガス抜きの機会を作るようにしています。
メンタルが落ち込んでいる時は何もやる気が起きないし、切羽詰まっている。だから、メンタルが落ち込んでからでは遅いのです。
メンタルが順調な時にこそ、そういうガス抜きの場をプリセットしておく。ランチタイムなり、ティータイムなり、自分にあった時間で、最低でも週に一度は利害関係のない誰かと、雑談する時間を作っておくようにしています。
それが難しい場合は、紙のノートでもスマホのメモアプリでも何でも良いので溜まっている感情を書き出して眺めてみるのも有効のようです。
5. 嫌な仕事はしない
(片付けコンサルタント、近藤麻理恵さんの)こんまりメソッド的な感じで言うと「ときめかない仕事はしない」です。
以前だったら「ときめかないな、ワクワクしないな、地雷の匂いがするな」と思う仕事でも、「お金のためだから」とか「断って嫌われたらどうしよう」という理由で、基本は受けていました。
でもそういう仕事は、自分のメンタルポイント(MP)をどんどん蝕んでしまい、他のワクワクする仕事に対するモチベーションすら奪ってしまう面があります。
とにかく経験を積んでスキルや知見を高めるフェーズでは「仕事を選ばずに何でもチャレンジしてみる」べきですが、忙しい時ほど「ときめかない仕事はしない」ために勇気を持って断ることも重要ではないでしょうか。
6. エンタメを楽しむ
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これも、自分自身が楽しいと思える状態を「プリセット」する手法です。僕の場合午後10時から11時の時間は「エンタメタイム」と決めています。
撮り溜めたアニメを妻と見たり、漫画を読んだり。憂うつなことを忘れて、没頭できるような時間にしています。僕の場合はアニメ、漫画、ゲームですが、推しのアイドルのライブ映像を見たり、ハンドメイドのものを作ったり、絵を描いたり、人それぞれですよね。
仕事をしていると考えなくてはならないことは無限にある。
でも、それを抱えたまま寝ると睡眠の質が落ちたり、その結果日中のパフォーマンスも下がり、意思決定の質も落ちる。だからこそ、あえて頭を空っぽにする時間を作りたい。
強制エンタメタイムを入れて、雑念を押し出す「ところてん方式」です。
7. 季節のうつろいを楽しむ
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庭やベランダに花を植えて水をあげて愛でたり、毎日近所を散歩をしたりする中で、季節の移り変わりに自然に気付けます。
季節の花を定期的に配達してもらえる「ブルーミー」などお花の定期便を利用して、家の中をお花で彩るのもオススメです。
オンライン続きで二次元の世界、視覚と聴覚のみの世界だと、感性が鈍っていきます。季節の移ろいを味わって、五感で感じるのはすごく重要なルーティンです。
かつての自分のように、メンタルで苦しむ人を増やしたくない。そんな思いから日本のメンタルヘルスをアップデートする事業を現在、準備しています。
これまでの経験や蓄積を活かし、テクノロジーを活かしたプラットフォームを作るつもりです。
メンタルダウンしてしまう人、悩む人をゼロにすることはできなくても、一人でも減らしていきたいと思っています。
編集部より:厚生労働省は、働く人のメンタルヘルスの相談窓口としてポータルサイトを開設しています。