リモートワークが進み、リアルでのコミュニケーションは確実に減っている。
撮影:今村拓馬
リモートワークが拡大し、企業の中での人間関係が希薄になったことが、仕事のモチベーション・パフォーマンスにも影響を与えるかもしれない。
JTBコミュニケーションデザインは、3月23日、従業員が500人以上の企業に勤務し、週に2日以上リモートワークをしている1052人を対象にした、社長や上司、同僚との心理的距離(気持ちの上での距離)に関するアンケート調査の結果を発表した。
調査結果から、心理的距離と仕事に対するモチベーションの関係や、適切な距離感を保つための方法が見えてきた。
調査地域:全国
調査対象者:全国在住の男女有職者で、以下の対象者を抽出。
・20~69歳、従業員数500人以上の企業にフルタイムで勤務
・一般社員から部長クラス
・平均週2日以上リモートワークをしている人
有効回答者数:1030人
実施期間:2021年1月29~30日
職場での人間関係が「密」だと仕事へのやる気も増す
リモートワークの頻度が多いほうが、「上司がすぐそばにいる」と感じる傾向は下がる。「姿は見えているが、少し離れている」「別の部署、別のフロアに居る」という回答では、そこまで大きな違いはなかった。
出典:JTBコミュニケーションデザイン
調査では、心理的距離を物理的距離に換算してアンケートを実施。
上司との距離感に対するアンケートでは、「(上司が)すぐそばにいる」と感じる人の割合について、リモートワークの頻度が週2回程度の人(32.3%)とほぼ毎日の人(16.8%)との間で約2倍の開きがあった。
自由回答では、「直接会う、話す機会が減った」「上司の感情が読めない・状況がわからない」「状況を理解してもらえない」などと、コミュニケーション不足から仕事に支障があらわれそうな状況が伺えた。
同僚との心理的距離が遠くなったという人の回答では、「職場で会う機会も減ったし、外食、飲み会もしないので」「ちょっとした雑談や会話のコミュニケーションがなくなった」などと、コロナ前に気軽に行われていた交流の機会が減ったことに対する言及が目立つ。
また、オンラインでのコミュニケーションがうまくいかず、心理的な距離感が離れていくことにつながったというケースもある。
一方、オンラインで円滑にコミュニケーションが取れている層もいることから、コミュニケーションスタイルの変更に適応できていないことが、心理的距離のかい離につながっているともいえそうだ。
出典:JTBコミュニケーションデザイン
アンケートでは、社長、上司、同僚らとの心理的距離が近いと回答をした人ほど、仕事に対するモチベーションも高い傾向が如実にあらわれていた。
リモートワークがモチベーションの低下に寄与しているとは必ずしも言えないものの、それに付随するコミュニケーション不足は、長期的に見れば会社の業績にも影響を与える要因になりそうだ。
若手ほど雑談に餓えている
出典:JTBコミュニケーションデザイン
リモートワークが進んだことで、上司や同僚らと雑談をする機会がない。調査では、他愛のない交流を欲している人が非常に多くいるという結果も顕著に現れている。
これは、コミュニケーションの不足によって心理的距離が離れていくことに対して不安を覚えている人が増えているということの裏返しだろう。
20代〜30代では雑談を求める傾向がほかの年代に比べて強く、JTBコミュニケーションデザインの担当者はこの理由を「20代〜30代はビジネス経験が少ない。ちょっとしたアドバイスや情報に、仕事をうまく進めるきっかけを求めている世代なのではないか」と語る。
また、20代では、社長や経営トップからの今後の方針や現状に対する本音などを共有するメッセージを欲している割合が、ほかの年代にくらべて明らかに高いという興味深い結果が得られている。
ただし、20代のサンプル数が他の年代に比べて少なく、30代以降についてはどの年代も(トップからのメッセージを欲している割合が)ほぼ同水準であることから、詳細についてすぐには判断できないとしている。
なお調査では、社長と従業員との距離感についてもアンケートが取られていた。
リモートワークの影響が全くないとまでは言いきれないが、調査結果を俯瞰してみると、もともと社長と従業員の間には一定の距離感があると考えたほうが良さそうだ。
緊急事態宣言が解除されたとはいえ、新型コロナウイルスへの感染対策は継続しなければならない。リモートワークはこの先も活用され、ある程度定着することは間違いない。
リモートワークの利便性とともに、コミュニケーションレスによるデメリットを理解した上で、コロナ禍でもモチベーションを高く維持して働ける組織づくりが必要だ。
(文・三ツ村崇志)