中古?と聞かれる、1日18時間労働、相次ぐレイプ被害。「アーティストのハラスメント」驚きの調査結果

表現の現場調査団

3月24日「表現の現場調査団」は表現の現場におけるハラスメントの実態についてのアンケート結果を発表した。

撮影:西山里緒

セクハラやパワハラを受けたことがある人の割合は8割超、レイプ被害者の割合は1割 —— 。

アートや演劇など、表現の現場で働く人たちのハラスメントについて調査する「表現の現場調査団」は3月24日、1449名を対象に行ったアンケートの結果を発表した。明らかになったのは「教育・指導」の名の元にまん延する性差別やパワハラの実態だ。

アンケートは2020年12月から2021年1月にかけて1449名を対象に実施した。スノーボールサンプリング(調査対象者のネットワークを介して、雪だるま式に別の調査対象者を抽出していく手法)を使っているため、母集団を代表するデータではないものの、表現の現場で働く人のネットワークに絞り込んだ特性を把握するのに有効な手段だ。

「望まない性行為の強要」が1割

全体のうち、セクハラ・パワハラを受けたことがあると回答した人の割合は、ともに8割超となった。

セクハラのうちもっとも多かったのは、6割超の人が経験していた「容姿や年齢について言及された」。「卑猥な冗談を聞かされた」(約6割)、「性に関してプライベートなことを聞かれた」(約4割)がこれに続く。

表現の現場調査団

出典:表現の現場におけるハラスメント調査結果

「教員から冗談っぽく『あなたは新品?中古?』と聞かれた」(20代、女性、美大生)

「PV撮影が終了し、宿泊先で入浴中、ほかの男性出演者たちから覗かれていたことに気づかなかった。本人たちから後日笑い話として聞かされた」(30代、女性、演奏家)

「師匠と思っていた人物に紹介された相手から、飲み会の席で胸を触られた」(30代、女性、作家)

驚くべきは「望まない性行為を強要された」人の割合で、男性では約3%、女性では約11%の人が経験していた

「立場と年齢が上のスタッフに、マッサージをしてほしいという建前のもと、無理矢理性行為をされた」(30代、女性、監督)

パワハラの場合、もっとも多かったのは「暴言・嫌味・無視といった精神的な攻撃を受けた」が約7割。続いて「金銭・労働条件での不安(契約書がない、謝礼が明示されない)」が約6割で、特にフリーランスでは7割が経験していた。

表現の現場調査団

出典:表現の現場におけるハラスメント調査結果

「契約書もないまま、1日18時間は働かされていた。研修期間ということで月給は数万円だった」(30代、男性、テレビ制作関係者)

ハラスメントは当たり前にはびこっていた

笠原恵実子さん、キュンチョメのホンマエリさん

「表現の現場調査団」として活動する、アーティストの笠原恵実子さん(写真左)、アートユニット「キュンチョメ」のホンマエリさん。

なぜアーティストのハラスメント実態調査に踏み切ったのか?

「表現の現場調査団」としてプロジェクトに携わったアートユニット「キュンチョメ」メンバーのホンマエリさんは、当たり前のようにハラスメントがはびこるこの状況をなんとしてでも変えなければいけないと思った、と明かす。

「アートの世界には“正解”はないため、歪(いびつ)な権力構造ができやすい。そのため、差別的な言動も権力のある人が言えば『あの人が言ったから』と受け入れられてしまう傾向がある」

「被害者・加害者になった時だけでなく、被害を相談されるなど、ハラスメントの周辺に自分がいるときにどう行動すべきかを考えていくことも、これからは重要だと思います」(ホンマさん)

こうした性差別は長くアート業界で見過ごされてきた。しかし近年、#MeToo運動の高まりもあり、多くの告発が起こったことがプロジェクトの後押しをしたと、同じく「表現の現場調査団」メンバーでありアーティストの笠原恵実子さんは語る。

ストーカー被害、テクハラ……アート業界ならではの性差別

荻上チキさん

調査に協力した、一般社団法人社会調査支援機構「チキラボ」代表の荻上チキさん。

調査に協力した、社会調査支援機構「チキラボ」代表の荻上チキさんは、多くのハラスメントは一般企業でも起こりうるものだが、アート業界ならではの特徴も一部にみられる、と指摘する。

例えば、客がアーティストに対してつきまとう「ギャラリー(またはアーティスト)ストーカー」。客/アーティストという関係上、被害者側がハラスメントを言い出しづらいという問題も抱えているという。

また「テクスチュアルハラスメント(テクハラ、文章上の性的嫌がらせ)」と呼ばれる、作者のジェンダーに基づく不当な評価もアートの世界では特に起こりやすい。

例えば、作品に対して「女が書いているから感情的だ」「男性の師匠が手伝っているに違いない」「男性パートナーの影響があったんだろう」などと評価することもこれに当たる。

「こうした概念として提示されると、多くの人が『あるある』と共感できることなのではないでしょうか。そうした『あるある』を掘り起こしていけば、あちこちで波紋が広がっていくはず」(荻上さん)

フリーランスにも法的保護を

今後は「表現の現場調査団」としてアンケートなどを通じてハラスメント防止の啓蒙活動に努めるという。さらにはそもそもの問題として、労働契約書を交わさないなどの、業界の悪習を改善していく必要もあると荻上さんはいう。

2019年には労働施策総合推進法が改正され、職場でのパワハラ防止措置が企業に初めて義務付けられることになった。しかし、フリーランスに対してはこの措置は適用されないため、法的な保護から抜け落ちてしまう問題がある。

こうした労働関連法についてフリーランスも対象にするための働きかけを行うほか、啓蒙を目的としたリーフレットの作成、アーティストのための相談窓口を作るなど、この結果からさまざまなアクションを起こしていける、と荻上さんは語る。

前出の笠原さんも、今後の広がりについて次のように話す。

頂点に立つ人を引きずり下ろす、ということではなくて、今まで間違っていたことをみんなで共有して、別の選択肢を探していきたい。今回の調査がその一歩となれば、と思います」

(文・写真、西山里緒


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