2020年度の売上収益が前年比15%増と、コロナ禍にあっても成長を続ける楽天グループ。多くの人にとって、いまやEコマースにとどまらず、フィンテックを含む幅広いサービスで欠かせない存在となっている。
各分野にライバルを抱える楽天グループだが、巨大なエコシステム(経済圏)を持つからこそのアドバンテージも大きい。そんな楽天グループの戦略と、ユーザーにとってのメリットについて、楽天カード株式会社の代表取締役副社長 マーケティング本部長、大山隆司さんに話を聞いた。
巨大な経済圏だからこそのアドバンテージ
大山 隆司(おおやま・たかし)氏/楽天カード株式会社 代表取締役副社長 マーケティング本部長。
——楽天グループの「エコシステム(経済圏)」がうまく回っている背景には、いったいどのような秘密があるのでしょうか?
大山:私が楽天グループのサービスの強みについて説明するときに、よく使う式があります。
「ID」×「ポイント」×「マーチャント」
現在、楽天IDの発行数、つまり楽天会員の数は、これまでに1億を超えています。また、楽天ポイントがスタートしてからこれまでの累計発行数は、2020年9月に2兆ポイントを超えました。そしていま、楽天が展開するサービスの数は70を超えており、グループ内外を問わず、楽天のサービスが使えるマーチャント(加盟店網)はどんどん拡大していっています。それぞれの要素が大きくなることで相乗効果を生み、全体の強み、価値となっているのです。
ユーザーが取得した楽天IDは、楽天グループのどのサービスにも共通して利用することができます。最初に楽天市場を利用するために会員となったユーザーでも、楽天トラベルで旅行予約をしたり、楽天証券などでサービスを使ったりするたびに、楽天ポイントが貯まります。
そして、貯まった楽天ポイントは、グループ内のサービスはもちろん、全国約500万カ所の街の楽天ポイントカード加盟店や楽天ペイが使えるオンライン・オフラインの加盟店などで支払いに使うことができます。さらに2020年5月に、楽天ペイがSuicaと提携したのは事業に大きなインパクトがありました。楽天ペイアプリを通じてSuicaの発行・楽天カードからのチャージを行えるほか、2020年12月からはアプリ上でSuicaに楽天ポイントからチャージできるようになっています。
ちなみに、2つ以上の楽天のサービスをご利用いただくことを「クロスユース」といいますが、このクロスユースがしやすい仕組みが、楽天グループのサービスの強みであり、好評を得ている理由だと思います。それをユーザーはもちろん、多くの街の商店街や全国チェーンをはじめとして様々な店舗の方々にもご理解いただき、提携していただいている。クロスユースによってユーザーの利便性が上がり、提携先の売り上げ増にも寄与することになるわけです。
楽天で、若い世代の投資へのハードルが下がった
——最近は、若い世代の楽天会員によるフィンテックサービスの利用が増えているそうですね。「家計の金融行動に関する世論調査」(金融広報中央委員会、2019年)によると、30代独身の平均貯蓄額は176万円、他の金融資産を加えた保有額全体で見ると359万円。ミレニアル世代は資産運用への関心も比較的高いと聞きます。
大山:フィンテック分野はもともと、40~50代のユーザーが多かった分野です。いま、ミレニアル世代による利用が増えてきている背景にはもちろん、若い世代の資産運用への興味が高まっているせいもあるのでしょうが、楽天グループ内でのクロスユースの効果だということも言えると思います。
楽天グループのエコシステムは、2005年に楽天カードのクレジットカード事業が加わったことで、楽天市場をはじめとする買い物での決済が、楽天グループ内で完結できるようになったため、成長に大きくドライブがかかりました。
その後、2016年にはスーパーポイントアッププログラム(SPU)が始動。特定のサービスを利用するなど一定の条件を満たせば、楽天市場でのお買い物のポイント付与率がアップするという仕組みで、これによって楽天グループ内でのクロスユースがぐっと活性化されました。
提供:楽天
翌2017年にはさらに楽天証券のポイント投資、2018年には楽天PointClubのポイント運用、2019年には楽天ポイントが貯まって使える保険商品の販売が始まり、この辺りから、他のサービスで楽天会員になったユーザーが、フィンテック事業の利用を始めるケースが増えてきましたね。
フィンテック分野では、2020年11月には楽天カードの会員数が2100万人を、2020年12月には楽天証券の総合口座数が500万口座を、2021年1月には楽天銀行がオンライン銀行で初めて1000万口座を突破しました。保険事業でも2020年の営業利益が75億円を超える規模にまで成長しています。
投資は若い世代にとってはやはりハードルが高い。それが楽天グループでは、投資をすることでSPUの対象になり、楽天ポイントを使って投資ができるうえに、投資をすることでまた楽天ポイントが得られる。この仕組みが、高かったハードルを下げることにつながっているのではないかと思います。実際、2018年以降、楽天証券の新規口座開設数は、3年連続業界ナンバーワン(※)となっています。
(※)主要ネット証券(口座数上位5社:auカブコム証券、SBI証券、松井証券、マネックス証券、楽天証券(五十音順))で比較(2021年3月24日現在、楽天調べ)
事業を拡大してもぶれない「メンバーシップバリュー」
——直近では、楽天モバイルの新料金プランが発表されましたが、今後も新サービスの追加が計画されているのでしょうか。
大山:いま一番大きなトピックは、やはりモバイル事業です。契約申し込み数は、2020年6月の100万から、12月に200万、2021年3月9日時点では300万回線と、急速に伸びています。今後はこれを核として、楽天グループのサービスは、質、量ともにさらなるステージを目指していくことになります。
それ以外にも新サービスは加わるでしょう。70以上ものサービスを有し、あらゆる分野を網羅していると私たちは思っていますが、それでもユーザーからは「こんなことでも楽天ポイントが使えたらいいのに」というようなご提案はよくいただきますし、そうした貴重な意見が、企画に反映されることもあります。
楽天グループのエコシステムの価値を表す指標に「メンバーシップバリュー」があります。
メンバーシップバリューは、「『ユニークユーザー数』×『クロスユース』×『ライフタイムバリュー(※)』」で導かれるもので、目標として掲げているのは10兆円。2020年第4四半期には前年同期比66.3%増の8.9兆円と迫っており、グループ全体で目標達成を目指しています。
(※)マーケティング用語で「顧客生涯価値」。ユーザーが企業と取引を始めてから終えるまでの期間(顧客ライフサイクル)にどれだけの利益をもたらすかを算出したもの
コロナ禍に見舞われた2020年、多くの企業が業績不振に陥るなか、楽天グループはEコマース事業の好調などで、売上収益は前年比15%増となりました。買い物での支払いをキャッシュレスに切り替える人も増え、楽天IDを登録した決済の月間アクティブユーザー数は累計5000万人(※)にのぼりました。ユーザーの希望によって、楽天ペイ、楽天Edy、楽天カードなど様々な決済方法が使い分けできるラインナップが用意できていたことも奏功しています。
(※)各事業の累計数
私が2004年にジョインしてから、楽天は大きく成長してきました。今後もまだまだ新しい事業、サービス加わっていくと思いますが、これまでも新しい戦略を上乗せすることはありましたが、根底にある「メンバーシップバリュー」の考え方はぶれていません。だからこそ、楽天IDの発行数1億まで成長を続けてこられたのだと思います。