フェイスブックは2016年、企業向けのコミュニケーション・ツール、Workplace(ワークプレイス)を立ち上げた。導入企業の従業員はチャット、ライブ動画、グループなどを介してつながることができる。ネスレ、スポティファイ、ウォルマート、ヴァージン・アトランティック航空、ペトコなどの企業が導入し、500万人以上が活用している。
言うまでもなく、Workplaceやその競合であるSlack(スラック)、マイクロソフト「Teams(チームズ)」は、コロナ禍で利用者が急増した。
フェイスブックでWorkplaceの南北アメリカ事業を率いるクリスティーン・トロデラは、リモートワークが長期的に企業文化にどんな影響を及ぼすか、リモート文化をよりサステナブルなものにするうえでコミュニケーション・ツールに何ができるか、多くの時間を費やして考えてきた。
実はこの問いは、フェイスブック自身がまさに取り組んでいる問題でもある。というのも、同社は2020年、大多数の社員に対し、恒常的な在宅勤務に切り替えることを許可したからだ。この移行を進めるために現在、リモートワーク・ディレクターも採用している。スポティファイやセールスフォースといったIT企業も、インターネット接続があれば社員がどこからでも働けるハイブリッド就業モデルを導入している。
本稿では、トロデラがこの1年で学んだこと、その学びを生かしてリーダーが企業文化を改善するヒントを、4つの戦略に分けて紹介する。
1. 会話をもっとカジュアルに
Workplaceでライブ動画を配信する様子。
社内コミュニティや文化を維持するための方法は企業によって異なるだろう。しかし、カジュアルなバーチャル・プログラムを使えば、マネジャーやリーダーにとって有益となる可能性がある。
一例としてトロデラは、料理のレシピや在宅オフィスに関するアイデアなど、仕事とは関係ないトピックのチャンネルを社内チャット内に作ることを挙げる。
また、顔を出してコミュニケーションすることも重要だとトロデラは指摘する。
「ライブ動画を採用して本当によかったと思っています。CEOや事業のリーダーが自分のチームや組織全体とつながるのに、非常に効果が高いことが分かったんです」
こうしたビデオ通話で、部署の責任者が私服でペットや子どもなどと画面に映る姿を見た従業員は親近感を感じて絆が深まるという。
トロデラはこんなエピソードを教えてくれた。ある企業の女性幹部がビデオ通話の際、ノーメイクであることを謝った。すると、従業員たちはこの幹部への共感を示すために「#NoMakeupSelfie(すっぴんセルフィ)」というハッシュタグを付けて自分の写真をこぞって投稿。その企業のWorkplaceネットワークで、このハッシュタグがトレンド入りした。
2. データに基づくコミュニケーション改善を
リーダーは、自社の社内コミュニケーションについてもっと批判的に考えることも必要だ。トロデラは、社内コミュニケーションに関するデータを集めれば、従業員の心情を理解するのに役立つと語る。
「データを分析することで、どんなメッセージが共感を持たれ、その理由は何なのかを理解できます」
Workplaceでは、幹部やマネジャーがバーチャルで社員集会やミーティングを開くと、社員のエンゲージメントに関するデータが、イベント中とイベント後に提供される。例えば、視聴者数や従業員からのコメント、エモーティコンの種類と数などが把握できる。リーダーはこれらのデータをもとに、チームとのやりとりを改善できる。
他にも、自社のWorkplaceがどの程度活発か、どれほどのコンテンツが作られたか、積極的に発言しているのは何人くらいか、グループの立ち上げ状況と活動、投稿へのいいね、コメント、ビュー数、つながりなどを分析することも有効だ。
3. 情報へのアクセスは簡単にすること
フェイスブックが提供するWorkplaceで、南北アメリカ事業の責任者を務めるクリスティーン・トロデラ
トロデラのチームでは、Workplaceの「情報ライブラリ」に関心が高まっているという。情報ライブラリでは、各企業の休業日、有給休暇の取り方、リモートワーク方針、職場の安全対策、主要連絡先のリストなどのコンテンツを保存・公開できる。
「アクセスしやすい、見つけやすい、使いやすい、コメントしやすい、繰り返しやりとりしやすい、そんな情報源があると、リモート時は便利です」
この情報は、特に新入社員にとって重要だ。リモート状態で入社した従業員は、既存のメンバーと同じ就業経験を持つ訳ではないため、マネジャーやリーダーはもっと彼らに気を配るべきだとトロデラは言う。
このことは、職場のツールへの簡単なアクセスを必要とする小売業や現場のスタッフにも当てはまる。本部にすぐメッセージを送れれば仕事面でも役立つだろうし、この手のツールがあればスタッフは「自分もチームの一員だ」と実感しやすくなる、とトロデラは指摘する。
4. 新たなテクノロジーに投資してみよう
もしもあなたが経営陣であれば、新たなテクノロジーに投資するのも手だ。フェイスブックは、リモートワークの未来では、バーチャル・リアリティ(VR)が活用されるだろうと確信している。同社はすでに、フェイスブック傘下のオキュラス(Oculus)のヘッドセットにつなげたVR機能をWorkplaceに取り込んでいる。
研修目的でVR技術に投資している企業は他にもある。例えばPwCは、VR企業テイルスピン(Talespin)と提携し、VRを使って従業員向けにアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に関する研修を行っている。
トロデラはこの他にも、VRは対面での作業と似たトレーニング環境を作れると語り、「共感ラボ」という研修も見たことがあるという。ヘッドセットを付けたユーザーが、自分とは違うバックグラウンドを持つ従業員の目線になり、相手の経験を感覚的に理解することで、多様性の受け入れを学ぶ研修だ。
「こうした企業では、VRは研修手段として非常に効果的だと考えているようです」とトロデラは話している。
(翻訳・松丸さとみ、編集・野田翔)