3月16日に日本でも発売された「Square Terminal」。その開発背景をアメリカ・Squareのハードウェア責任者に直撃した。
撮影:小林優多郎
Square(スクエア)のオールインワン型POS・決済端末「Square Terminal」が3月16日に日本に上陸した。
Square Terminalはアメリカで2018年10月に発表されたが、これが2年以上の歳月を経てついに日本に上陸したというのが今回の話題だ。
日本上陸にあたってはSuicaなどの電子マネーに対応するためのFeliCaも搭載され、日本のローカル事情に合わせたカスタマイズが施されているのも特徴だ。
オンラインのインタビューに答えるスクエアのハードウェア担当責任者を務めるJesse Dorogusker(ジェシー・ドロガスカー)氏。
画像:編集部によるスクリーンショット。
そんなSquare Terminal開発にはどのような背景があったのか。スクエアで最初期から製品開発に携わり、アップル在籍時代には数多くのiOS製品においてエンジニアリングディレクターを務めたハードウェアリード担当のJesse Dorogusker(ジェシー・ドロガスカー)氏を直撃した。
同氏は、国内で利用の増えたQRコード・バーコードを利用した決済への対応や将来展望について語った。
オールインワンのTerminalだからこその特徴と使われ方
写真左から新端末のTerminalと、スマホやタブレットなどの端末との接続が必要な従来機「Reader」。
撮影:小林優多郎
──「Square Terminal」は従来のスクエアのコンセプトとは異なる製品だが、どのような背景で登場したのでしょうか?
ドロガスカー氏:スクエアという会社は最初期の段階から、iPhoneやタブレットといった素晴らしいデバイスが存在するのならば、それらを積極的に活用すべきであり、その恩恵を受けるシンプルな製品を開発するべきだという考えからスタートしている。
そうしたパワフルな製品は現在もなお新たな市場にリーチを広げているわけだが、一方で一部の企業ではさらに“その次”を求めるようにもなった。
我々にとって重要なのは、顧客が期待する素晴らしい製品を提供し、それがかつiPhoneやiPadを使い慣れている人の高い基準に応えるものであるべきと考える。そうした背景から登場したのが今回のSquare Terminalだ。
Square Terminalはやや大きいが持ち運びもできる。
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── アメリカでの発表から日本発表まで2年間の時差があります。この間にどのような店舗での利用が広がり、実際にどんなフィードバックがありましたか?
ドロガスカー氏:新しい市場での広がりとしては、より大きい小売、具体的には従業員を複数雇っているような事業主が該当する。
たとえば、スマートフォンを従業員間で共有したくないといったケースだ。そのほか、店舗のスペースがより広い家具店のようなところでは、端末を持ち運んで顧客のいる場所で会計するといった使い方が可能になった。
2年間のフィードバックとしては、POSのソフトウェア、決済、プリンターまですべてが1つの製品で提供されるという“インテグレーション”がよくできているという部分と、デザイン面での高い評価をもらっている。
我々としてもデザインという部分ではかなり力を入れており、それが非常に気に入ってもらえたのだと考えている。
── 具体的に、デザイン上の工夫とは?
ドロガスカー氏:デザイン面ではシンプルさ。1つのボタン、1つの画面、1つのプリンター、そしてコネクター。プリンターのペーパーひとつとってもすごく簡単に出し入れが可能だ。
シンプルにする理由は、それが多くの方になじんでもらえるという考えから実践している。
── 同様のオールインワン型決済端末では、2画面端末というものも登場しています。Square Terminalがこの1画面になった理由は何ですか?
ドロガスカー氏:もちろん2画面対応は検討事項にあったが、今回はシンプルさを優先した。
2画面端末はサイズ的な理由から可搬性の問題もあり、同時にコストも高くなる。決済主体であれば、シンプルな1画面でも問題ないだろうという判断だ。
例えば、三井住友カードが展開する「Stera Terminal」は、店員が操作するための画面・顧客が値段などを確認する画面を合わせた2画面構成になっている。
撮影:小林優多郎
一方で、顧客はSquare Terminalについて我々が想定していなかった使い方を実践するケースがあり、非常にサプライズでもある。
たとえば、2画面のデバイスでは売り手と顧客の位置関係が重要になるが、このようなシンプルなモバイル型の端末であれば、さまざまな状況に柔軟に対応できる。
車やトラックでの活用であったり、あるいはカーブサイド(アメリカで普及している店舗の駐車場での受け取りのこと)での活用、そして店舗内のさまざまな場所での利用と、持ち運びやすさを活かした使い方がいろいろ実践されていることを学んだ。
先ほどの家具屋の話もしかり、美容院のような場所ではお客がイスに座ったまま会計を済ませ、店舗のフロントデスクでは商品の販売や予約受付など、別の業務に注力できる。
電子マネー以外でも、日本向けは“レシート需要”が特殊だった
“紙媒体”の強い需要は、日本市場の特徴でもあるという。
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── 日本市場投入にあたってはFeliCa対応しています。このほかのローカライズにおける特徴はありますか?
ドロガスカー氏:電子マネー対応など、ローカライズの重要性は理解しており、今回も対応にあたってはかなりの作業が必要であり、特に認定を取る部分での時間や工数がかかっている。
そのほかの部分ではユーザーエクスペリエンス(UX、顧客体験)があり、日本では領収書(レシート)が非常に重視されることから、こうしたニーズに応えられるよう作業が進められている。
アメリカを含む他の市場では(紙の)領収書はそれほど重要とされないが、日本では多くの情報を印字する必要があり、フォーマットそのものを含めていろいろ考えていかなければならない。他の市場では印刷内容をより短くする方向なのに対し、日本では真逆の対応が求められるという違いがある。
Square Terminalの左側面には充電・データ通信用のUSB Type-C端子と電源ボタンなどがある。
撮影:小林優多郎
──Square Terminalは丸1日利用できるバッテリーを搭載していると公称しています。
ドロガスカー氏:バッテリーの問題はいつも難しい。Square Terminalにおいてバッテリー消費の激しい部分は一番が画面、次にプリンター、そして非接触決済となる。
画面は常にオンの状態ではあるが、使わないときには効率的にスリープするよう工夫がなされている。プリンターに関しては、多く使う場合にはどうしてもそれだけバッテリーを消費する。
決済の部分については、ハードウェアにせよソフトウェアにせよ、かなり最適化しているので、動作において問題のない効率化が実現できている。
先ほど、日本のトレンドは他の市場とは異なるという話をしたが、それでもなおプリンターを実際に多く使うケースを想定して製品設計をしている。
Square Terminalの場合、上から下まですべての工程をわれわれが開発・管理しているので、その都度変更を加えていける。
たとえば、印刷する際の濃度を制御することで、実際の印刷量を減らすといった工夫だ。同時に、画面の輝度を適時調整することで、バッテリーを一度に大量に使わないように工夫している。
QRコード対応や4G/LTE対応の可能性
Square TerminalはEMVコンタクトレスや電子マネーなどのタッチ決済などに対応している。
撮影:小林優多郎
──日本ではQRコードやバーコードを利用した、いわゆるコード決済の市場が広がっています。このサポートは今後どうしますか?
ドロガスカー氏:QRコードについては、日本もそうだし他の市場でも少しながらニーズがある。
だが今回、まずは電子マネーにフォーカスした。もちろんQRコードのことも念頭にあるが、現時点でまだ共有できる情報はない。
実際、海外においてもオンラインオーダーやピックアップ、デリバリーといったサービスで対応が進んでいるケースがある。ただ、日本では利用者がすでに何千万という単位で存在する電子マネー対応を優先した。
今後の対応として、Square Terminalにあるディスプレイを活用してQRコードを読ませる方法と、オプションとして提供される赤外線リーダーなどのアクセサリーをBluetoothやUSB経由で接続することも考えられるだろう。
カウンターなどに配置して決済する場合には、(機器内に直接赤外線読み取り装置を内蔵するのではなく)オプションを組み合わせて展開する方法は、手法の1つとしてあり得ると思う。
Square TerminalはWi-Fi経由で常に最新の状態に保たれている。
撮影:小林優多郎
── 日本の店舗では、まだ店内にWi-Fiが整備されていないケースも多く、他社では4G/LTEの通信機能を採用しているケースもあります。今後。スクエアがTerminalなどの端末で採用することはありますか?
ドロガスカー氏:4G/LTEのサポートについて、内部で話し合いはあるが、最初の製品では対応していない。もちろん、これは社内でもかなりの議論が交わされたが、対応するとなるとデバイスの大きさとコストに跳ね返る。
Wi-Fi整備の話について、実際の利用にあたってはSquare Readerのような製品でスマートフォンを組み合わせたり、あるいはスマートフォンのテザリングを使うという方法も考えられる。私個人の意見としては、4G/LTEというのは“アリ”だとは考えている。
── 今回のSquare Terminalを含め、提供から時間が経過して市場は常に変化します。実際に顧客から上がってくるフィードバックをどのように今後の製品に反映していきますか?
ドロガスカー氏:Square Terminalというのは素晴らしいハードウェアの上でソフトウェアを動かしている製品であり、学んだことを迅速に反映することが可能だ。
ソフトウェアアップデートは2週間ごとに提供され、こうした“学び”で製品をどんどん強化できる。レストランの例だが、実際にオーダーを取る作業とチェックアウトは別々の場所でやりたいというニーズがあり、これを複数のSquare Terminalを1つの店舗で運用しているようなケースで、実際に可能になるようアップデートしている。
鈴木淳也:モバイル決済ジャーナリスト/ITジャーナリスト。国内SIer、アスキー(現KADOKAWA)、@IT(現アイティメディア)を経て2002年の渡米を機に独立。以後フリーランスとしてシリコンバレーのIT情報発信を行う。現在は「NFCとモバイル決済」を中心に世界中の事例やトレンド取材を続けている。近著に「決済の黒船 Apple Pay(日経BP刊/16年)」がある。