パラレジンを使って作られたサンプル。左上の白い物体は、抽出・精製したパラミロン。その隣にあるのが、樹脂状に加工されたパラレジンペレット。
撮影:三ツ村崇志
セイコーエプソン、ユーグレナ、NECは3月29日、バイオマスプラスチックの技術開発を進めるために、「パラレジンジャパンコンソーシアム」の設立を発表した。
3社は今後、コンソーシアムに参画した10社・団体(記事末に記載)とともに、ミドリムシが貯蔵する多糖・パラミロンを活用したバイオプラスチック「パラレジン」の開発、普及を目指しロビイング活動や市場創出、原料などに関する規格の取りまとめなどを進めていく。
なお、特別顧問として東京大学大学院農学生命科学研究科の岩田忠久教授も参画している。
2030年までに20万トンの製造を目指す
記者会見の登壇者、左からユーグレナ鈴木健吾氏、出雲充氏、セイコーエプソンの瀬木達明氏、NECの津村総一氏、東京大学の岩田忠久教授。
提供:ユーグレナ
日本では、2019年にプラスチック資源循環戦略が策定され、2030年までに200万トンのバイオマスプラスチックを導入することを目標として掲げている。しかし、2019年の段階で国内に出荷されているバイオマスプラスチックは約4.5万トン。このペースでは、目標には程遠い。
実は、200万トンという数値は、2019年の段階で世界で作られているバイオマスプラスチックの総量に相当する。
パラレジンジャパンコンソーシアムでは、2030年までに国内目標の1割に相当する20万トン規模のバイオプラスチックを供給可能にすることを目指す。
エプソンは古紙などの廃棄物を元に、ミドリムシを培養する上で必要な糖源を提供し、ユーグレナが自社のミドリムシを培養してパラミロンを抽出。最終的にNECがパラミロンから作られたパラレジンを製品へと昇華する。
また、各社はそれぞれが提供する材料の規格化なども進めるとしている。
ユーグレナは石垣島に持つ同社の食品用ミドリムシの培養工場で培養されたミドリムシを原料として提供する予定だが、ユーグレナの鈴木健吾執行役員は、
「今後、生産性の高くなる品種を探していくことや、育種という技術開発も検討している」
と、バイオマスプラスチック用のミドリムシの開発も視野に入れていると話した。
パラレジン製品のサンプル。
撮影:三ツ村崇志
パラミロンから作られるパラレジンは、プラスチックとして加工する際に添加する素材に応じてさまざまな機能を持たせることが可能。現状では、材料としての物理的な性質(熱への耐性や強靭性など)の評価が行われている段階だ。
記者会見の会場には、小さなスプーンやエプソン製品のパーツの一部など、実際にパラレジン製品のサンプルが展示されていた。現時点で製品としてどのような形で市場に供給されるのか、具体的な見通しは示されなかったものの、NECシステムプラットフォーム研究所の津村聡一所長は、
「パラレジン製品を使っていく上では、ユーザーニーズに応じて必要な物性を調整した規格化などが必要になります。ユーザーが必要とするものを汲み取りながら、進めていくことになると思います」
と、製品化に向けての方針を語った。
初期段階では生産規模が小さくならざるを得ず、既存のプラスチック製品に対して価格面での競争力を持つことが難しいことを考えると、高付加価値を持った製品を中心に販売を検討していくことになりそうだ。
会見では、2030年に20万トンの供給を達成するまでのロードマップは公表されなかったものの、ユーグレナの出雲充代表は
「できるだけ前倒して実現できるようにしたい」
と、すでにバイオプラスチックの導入で世界から置いていかれつつある日本の現状に危機感を顕にしていた。
なお、コンソーシアムに賛同し一般参画する企業・団体は以下の通り(五十音順)。
・縁舞
・KISCO
・KOBASHI HOLDINGS
・佐賀市
・新菱冷熱工業
・日東電工
・日本紙パルプ商事
・バイオポリ上越
・LIXIL
・リコーテクノロジーズ
(文・三ツ村崇志)