Slackの新HR責任者に聞く“完全テレワーク時代”の乗り越え方…新制度「ETO」「Friyay」とは?

Slack ロゴ

テレワークツールの代表格の1つ「Slack」。同社内では、いかに円滑に完全テレワークを実施しているのか。

REUTERS

オンラインを主にした新しい働き方が求められる中、採用や教育、人事評価、福利厚生から文化をいかに醸成していくかまで、企業マネージメントの悩みは尽きない。

世界の先進的な企業はどうしているのか。テレワークで活躍するツールの代表格「Slack」(スラック)で、ヒューマンリソースに関わる業務全般の責任者、チーフ・ピープル・オフィサー(CPO)を務めるナディア・ローリンソン(Nadia Rawlinson)氏に、ニューノーマルな働き方に対する取り組みを聞いた。

CEOとリアルで顔を合わせず転職、入社

Nadia Rawlinson

オンラインで質問に答えるSlack CPOのNadia Rawlinson(ナディア・ローリンソン)氏。

画像:編集部によるスクリーンショット。

ローリンソン氏は、2020年9月にSlack社に参画したばかり。同社はパンデミックの初期段階からいち早く完全リモートワークへ移行していたこともあり、ローリンソン氏も自身の面接からCPO就任後まで、すべてリモートで業務にあたっている。

信じがたいことだが、CEOのスチュワート・バターフィールド氏とでさえ、まだリアルで顔を合わせたことはないという。

「面接で『どこでもリモートで働くことができる』と聞いていましたが、実際に会社に入ってそれが本当だとわかりました。でも、まったく難しさは感じていません」

ローリンソン氏がCPOに就任してから半年の間に、Slackでは新しい働き方のための実践的な取り組みを数多く取り入れてきた。

世界中どこにいても働けるようにリモートワークの環境を整え、パフォーマンスのモニタリングシステムに投資し、新しい環境においてもより公平な形ですべてのプロセスを経られるように取り組んできたという。

「今までと同じように進まなきゃいけないという既成概念を取り払って、新しい環境にどう対応できるか、どうすれば皆がうまく働けるのか。

ニューノーマルという言葉がありますが、それはどういったものなのか、会社として日々考え続けています」

Slack オフィス

2019年4月にオープンしたSlack Japanのオフィス。いまは所在地を気にする必要はない。

撮影:小林優多郎

たとえば、ローリンソン氏自身も体験したように、新しい働き方では採用の方法も考え方も従来とは異なってくる。だが、これは優秀な人材を、より幅広く採用できるチャンスでもあるという。

「多くの企業にとって採用のあり方を再定義する良い機会だと捉えています。これまでは本社がサンフランシスコにあれば、物理的にその近くの人を採用してきましたが、リモートワークのおかげでそういうバリアを取り払って世界中から人材を採用できる。

これは大変良いポイントです。採用条件の勤務地のところに『リモートが可能』と書いておけば、物理的に会社に近い場所にいなくても働けると思ってもらえます。

また、面接のスケジュールについても、工夫できることがあります。今は多くの人が自宅で働いていて、家庭の時間と仕事の時間のバランスをとるだけでも難しい。その一方で、子どもが寝たあとなど、従来は難しかった時間にも予定を設定できる。

そういった時間に面接を融通することで、フレキシブルに働くことができると思ってもらえる。そうすることでより良い人材を雇えると思いますし、より良い文化も醸成できると考えています」

Slackを使って「あたかも隣にいるように」

Slack

離れた場所で働いていても、工夫次第でコミュニケーションを円滑にできる。

撮影:小林優多郎

リモート環境下で企業文化をいかに醸成していくかについても、実際に同僚に会うことなく会社の一員となった自身の体験から「やり方はある」と語るローリンソン氏。明示的な方法と間接的な方法、2通りのやり方で可能だという。

「Slackでは、プロジェクトごとやチームごとにさまざまなチャンネルを設けることができます。それぞれのチャンネルごとに特化した情報が集まっていて、いつでもそこから情報を得られる。

たとえば、Slack社内には『Ask Me Anything(AMA)』と呼ばれるチャンネルがあり、ここでは世界中の従業員がエグゼクティブに直接、忌憚のない質問を投げかけることができます。

また、『Affinity』チャンネルというものあり、たとえば料理のチャンネルでは料理好きな社員同士でレシピを交換したりとか、実際つくってみてどうだったかみたいなことを話せる。離れた場所で働いていても、同僚があたかも隣にいるかのように気軽に話せる場所になっています。

ほかに私自身も参加しているのですが、『Fresh Kicks』というチャンネルではスニーカー好きが集まって、ショップの情報を交換したり、新しく買ったスニーカーの写真を見せ合ったりしています。このような今までとは違うやり方で文化を作っていくことができると考えています」

新しい働き方で登場した「ETO」「Friyay」

絵文字

Slack社内で使われているFRIYAYとETOを示す絵文字。

出典:Slack

一方で、こうした新しい働き方を根づかせるためには、「企業のリーダーが自ら積極的に実践することが大切」だとローリンソン氏。

Slackでは新しい働き方にあわせて「Emergency Time Off(以下、ETO)」「Friyay」といった独自のプログラムを導入すると同時に、リーダーが率先して、プログラムを活用して見せるようにしていると話す。

ETOは子どもの面倒を見たり、銀行に行かなければいけないなど、日中どうしてもやらなければいけないことがあるときに、2時間など短いオフの時間をとれるプログラムだ。

また、Friyayは4週間に一度、金曜日を全社でいっせいに休日にして、少し長い週末を過ごせるようにしたもの。このプログラムはすでに社員に根づいていて「Friyay」を表す絵文字もあるという。

「ほかにメンタルヘルスのプログラムもあります。

例えば、1日中Zoomばかりしていると、どうしてもZoom疲れが起こります。そういうときは『今日はビデオをオフにして、音声だけで参加します』とことわって、カメラをオフにしています。

私自身が積極的にそうやることで、他の人もカメラオフにしていいんだという気持ちになれると思うんです。

ETOを取るのも、リーダーが自ら取った経験を共有するなど、リマインドしていくことが重要です。それが、こういった行動をしてもいいんですよと従業員に向けて促すデモンストレーションになる。

新しい働き方を根づかせる一番のパワフルなやり方だと考えています」

Slack チャンネル

目的別に設置できるSlackのチャンネル。

出典:Slack 撮影:小林優多郎

パンデミック以前から、Slackは「Work hard and go home」(しっかり働き、家に帰ろう)を掲げ、ライフワークバランスを大切にした働き方を実践する会社として知られてきた。

新しい働き方でも「そのコンセプトはまったく変わらない」とローリンソン氏。ただ、仕事と家庭が近くなってその切り分けが難しくなった分だけ、積極的に休める機会をつくるなど、より意図的に取り組んでいくことが重要だと話す。

「将来はリモートでもオフィスでも働ける、ハイブリット型になってくるでしょう。そうなったときに企業文化をどうやってつくっていくのか、会社として変化を怖がるのではなくうまく取り込んでいくことが重要になってくると思います。

どう柔軟性を持たせるのか、どうつながるのか、どうインクルーシブ性を大事していくのか、見ていく必要があると思います」

SlackはSalesforce傘下へ、今後の方針は?

Future Forum 図版

アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本、オーストラリアのナレッジワーカー従業員を対象にした調査。5つの側面において、スコアが高いほどリモートワークの満足度がオフィスでの勤務より高いことを示し、スコアが低いほど満足度が低いことを示す。

出典:Future Forum による「リモートでの従業員体験レポート」第2版のデータより。

Slackは2020年秋、「Reimagine work」をテーマに掲げるFuture Forumというシンクタンクを設立。新しい働き方に関する独自の調査やケーススタディを紹介している。

公開されている初回の調査レポートでは、ナレッジワーカーにとってはリモートワークのほうが、オフィスで働くより満足度が高いという結果も報告されている。

「多くのナレッジワーカーがフレキシブルに働きたいという意向を持っていますので、企業としても分散した働き方を推奨するなど、積極的に組織として新しい文化を作っていく必要があると思います。

特に若い人は、どこでもつながることや、柔軟であること、自立性を持つことに対して非常に積極的です。将来の働き方に向けた取り組みをいち早く実践することで、競合にも優位に立てると思いますし、Slackでは今後も企業がそういった取り組みを実行するためのツールや、リソースを提供していきたいと考えています」

SalesforceとSlack

今後Slackは、Salesforceの傘下となる予定。

撮影:小林優多郎

インタビューの最後、ローリンソン氏に2020年末に発表されたSalesforceによる買収についてたずねた。

Salesforceの傘下になることが、Slack社の新しい働き方にどんな影響を与えるのか知りたかったからだが、現在は買収前で以下のようなコメントが得られた。

「計画は順調に進んでいますが、SalesforceとSlackは今のところはまだ独自した会社で、Slackでは今後も人的資本の実践とプログラムに力を入れていきたいと考えています。

私たちは2つの会社の将来を信じていますし、お互いに大きなチャンスがあると思っていますが、それまでは目標を達成するために注力して、自分たちの計画を実行していきたいと思います」

(文・太田百合子、編集・小林優多郎)


太田百合子:フリーライター。パソコン、タブレット、スマートフォンからウェアラブルデバイスやスマートホームを実現するIoT機器まで、身近なデジタルガジェット、およびそれらを使って利用できるサービスを中心に取材・執筆活動を続けている。

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