- 極限の環境でも育つ藻類が、グリーンランドの氷床を黒くしている。
- 濃い色はより多くの熱を吸収するため、氷の融解が早くなり、海面上昇に拍車をかけることになる。
- 藻類が増えたのは気候変動のせいだと、専門家は述べた。
グリーンランドの氷床は、表面に生えてきた藻類の影響で黒ずんできており、氷の融解が加速しているという。
科学者たちは、過去10年間に渡って宇宙からも観測されていたグリーンランド南西部の海岸線にある黒ずんだ氷、いわゆる「ダークゾーン」の主な原因が、藻類であることを発見した。
専門家がInsiderに語ったところによると、藻類の増加は気候変動の結果であり、それによって氷がさらに溶けていく悪循環に陥っているという。濃い色は太陽の熱を反射しにくいため、白い氷よりも早く溶けてしまうのだ。
これらの藻類は、白い雪や氷に反射する強烈な太陽光から身を守るために、さまざまな色に進化してきた。
「雪と氷では、それぞれ異なる種類の藻類が存在する。氷の中のものは紫がかっていて、雪の中のものは、緑、黄、赤のいずれかだ」とリアン・G・ベニング(Liane G. Benning)教授はInsiderに語った。
ベニング教授は、ベルリン自由大学とGFZドイツ地球科学研究センターの地球科学の専門家で、氷雪にいる藻類を研究する「DEEP PURPLE」プロジェクトの主任研究員でもある。
世界中の山や氷山で「スイカ雪(watermelon snow)」が見られるのは、雪藻のせいだ。2020年には、この藻類がイタリア・アルプスをピンクに染めた。
2017年の研究では、「スイカ雪」がアラスカの氷山の融解に寄与していることがわかった。グリーンランドでも、同様の藻が存在し、海岸線から離れた内陸部で「スイカ雪」を引き起こしている。
しかし、最も懸念されているのは、氷が溶けている場所で育つ藻類だ。この藻類は、花が咲くと濃い紫色の色素を作り出す。「氷が解けた瞬間に、バーンと出てくる」とベニングは言う。
藻類によって紫になった氷。
Liane G. Benning
ベニングによると、藻類が増殖しているのは、氷の融解がより早く、そしてより長く続いているからだという。グリーンランドの氷は、かつては夏の約50日間溶けていたが、「今では年間75日にもなる」とベニングは言う。
2019年の研究では、グリーンランドの氷床が1992年の7倍の速さで溶けていることが明らかになっている。
「(人間が地球の)気温を上げると、氷の融解が進み、藻が増え、色素が増える。色素が増えれば、氷は黒くなり、さらに溶ける」
ドローンによる写真は、雪が溶けて藻類が繁殖し、表面が黒くなる様子を捉えている。
Insider/Laura Halbach
「これらの藻類(の繁殖)は気候変動の結果であり、原因ではない」と彼女は言う。
ベニング教授によると、グリーンランドの氷を黒くしている最大の要因は藻類だが、それだけではない。その他には、氷床の融解に伴って放出される鉱物性の粉塵や、工業生産や山火事で発生した煤がグリーンランドにやってきて沈着することもある。
グリーンランドの氷の融解は地球の海面上昇の最大の要因だ。科学者たちは、2020年になって降雪量を上回る氷の融解が見られるようになり、状況は「回帰不能点」に達したと警告している。そして、今後200年間でグリーンランドの氷床の融解が地球の海面を50センチから1.5メートル上昇させる可能性があると予測している。
藻類の顕微鏡写真。
Alex Anesio
しかし、この予想はプロセスを加速させる可能性がある藻類を考慮に入れていない。
藻類がこのプロセスの中でどのような役割を果たしているかが判明すれば、より正確な予測が可能になるとベニングは説明する。
「我々は世界の方程式を解き明かせるわけではないが、不確実性を生み出しているパズルを解くための手助けをすることはできる」
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)