最もコロナの影響を受けたと言える2020年度の大学入学生。これから2年生になる3人にコロナ禍での学生生活について聞いた。
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2021年4月から始まった新年度。4月に大学入学した新入生の中には「コロナでどうなるのだろう」と不安に思う人も少なくないだろう。
ただ、2020年に入学した大学生は、最もコロナの影響を受けた世代と言える。入学直後に緊急事態宣言が発令され、家から出ることもままならなかった学生も多かった。
そんな「先輩」たちは、コロナ禍の1年をどう乗り切ったのだろうか?これから大学2年生になる3人に、どう孤独と戦ったのかを聞いてみた。
実技なのに、まさかのオンライン……
Tさんは、実技課題を早く終わらせても「自宅待機」が命じられただけだったと話す。
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4月から大学2年生になった、都内の私立大学芸術系学部に通う大学2年生のTさん(19歳・男性)は、「1年間が無駄になってしまった」と振り返る。
「週に2回、撮影系の実技のある学部なのですが、実技もオンラインになった。やりがいは感じませんでした。夏休みから秋にかけて、映像作品を制作する課題があり、やる気をだして早く終わらせたんです。そうしたら追加の課題はなく、自宅待機を命じられました」
たまにあったリアルでの実技を通し、何人か友人はできたものの、授業後に食事に行くこともできずなかなか親密になれなかったという。2020年秋からは飲食店でバイトを始めたが、コロナの影響でほとんどシフトに入れなかった。
「自分で学ぶしかないと思い、美術館巡りや映画鑑賞をしていましたが、バイトも制限されていたので、撮影のために必要な15万円のカメラは買えませんでした。学べば学ぶほど、必要な機材が出てくるのにお金もない。実技系の学生が卒業時に身に着けるべきスキルが身に就くのか、不安で不安で仕方ないです」
1日30分の筋トレが気晴らしに
Tさんが孤独に打ち克つために始めたのが、週に4日、30分ほどの筋トレだった。
「ベンチプレスや懸垂、腹筋マシーンなどを使って筋トレを続けています。大学の講義ではなかなか成長が実感できない分、筋トレはすぐに成果が出ますし、運動後は不安が軽くなります」
また、高校時代の友人と電話しながら1時間ほど、夜に散歩するのも習慣になった。
「LINE通話で高校時代の思い出とか、最近みた映画やテレビの感想を言い合っています。お互い大学で新しい友達ができにくいのは同じ。本当は大学の友達とも話したいですが、高校時代の友人話せて助かっています」
顔の見えない授業。部活が救いに
コロナ禍での学生生活。Hさんは所属するラグビー部が支えになったという。
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都内の私立大学に通う大学2年生のHさん(19・男性)も、大学のオンライン講義にはなかなか慣れなかったという。
「Zoomでのコミュニケーションはうまくいかない。何人かのグループに分けられて、オンライン上でディスカッションするのですが、話しかけても反応がなかったり、相手がカメラをオンにせず、感情が分からなかったり。勉学の内容よりも、その段階で気を使うことが多すぎます」
そんなHさんを支えたのが、ラグビー部の活動だった。
「ラグビー部の仲間とつるんでいるので、孤独はあまり感じていないです。部活の仲間がいなかったら、大学生活はもっとつらかった」
ただ、コンタクトスポーツであるラグビーの練習も制限された。4月から7月は練習ができず、7月以降も、最初はタックルなど接触プレーはできなかった。
「個人練習やウェイトトレーニングがメインで退屈でしたが、仲間と練習に打ち込めたのはよかったです。9月に接触プレーが解禁され、思いっきりタックルできた時の、爽快感は今でも覚えています」
渡米が遅れ、アメリカの講義にオンライン参加
現在、アメリカ・インディアナ州の大学に留学している20歳のIさん(男性)は、コロナの影響で大幅に渡米時期が遅れた。本来は2020年9月に渡米する予定だったが、2021年1月までは、日本にいながらアメリカの大学の講義をオンラインで受けることになったという。
「入学と同時に渡米する予定だったのに、日本にいながらまさかの昼夜逆転オンライン授業でした。10時間以上の時差があるので、授業は深夜2時まで続きました。オンラインの授業が終わって、プツンと画面が切れて1人きりになる時はさみしかったです。授業の感想とか思ったことを話したい時でも、話す相手が親しかいませんでした」
朝6時30分に仲間とラジオ体操
ニューノーマルを体現するような「オンライン朝活」でIさんはコロナ禍での学生生活を乗り切った。
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この昼夜逆転のオンライン生活を、Iさんは「朝活」で乗り切ったという。
「高校の時から始めた環境団体のメンバーの8人くらいで、毎朝ラジオ体操を始めました。僕は深夜2時ごろまでオンライン講義があったのですが、6時30分にみんなでオンラインでラジオ体操をして、その後昼寝をしてから課題に取り組んで夜の講義に臨んでいました。
毎朝、仲間と他愛のない話ができて、つながっている感覚がなかったら、メンタル面が病んでいたかもしれません」
またIさんは、ストレス解消として友人数人と、「オンラインDJ」をしたこともあった。
「コロナでクラブに行けなかったので、DJをできる友達にZoomで音楽を流してもらいました。画面共有しながら、各自が部屋で1人踊って盛り上がりました」
Iさんは2021年1月、ついに渡米がかない、現在はインディアナ州の大学に通っている。現地での講義は、対面がほとんどだという。
「今は平和学や気候変動についての授業を受けていますが、リアルの場で互いに質問し合いながら考えることがシンプルにすごく楽しいです」
1年生の6割「孤独を感じる」
オンライン講義については、入学して日の浅い1年生がよりマイナスな影響を感じている。
出典:関西大学「遠隔授業に関するアンケート」
大学生が置かれている状況は厳しい。関西大学が、同大の学部生を対象に行ったインターネットによるアンケート調査(対象の学生2万8369人のうち、有効回答は1万2655件)によると、1年生の65%が「友達と一緒に学べず孤独感を感じる」と回答。また「教員とのコミュニケーションにどの程度満足していますか」という質問では、1年の47%が満足していないとしている。
こうした事態に対応するため、各大学ではコロナに関する相談窓口を設置するなどして学生をサポートしている。また筑波大学では、趣味が近い大学生同士を繋ぎ、チャットなどで情報交換ができるアプリを導入するなど、新しい動きも出てきている。
「必要以上に萎縮している現状」
日本大学文理学部教育学科の末冨芳教授は、Business Insider Japanの取材に対して「オンライン講義により新入生や新2年生は学習意欲を保つことが難しい面があり、大学側もサポートが必要だ」としたうえで、「コロナ禍だからと言って、必要以上に委縮している現状もある」と指摘する。
「学生の中には仲間との外食を一切やめるなど、自分の行動を強く縛ることに慣れすぎてしまっている学生もいる。一方で、サークル活動でも、感染防止を徹底し、リスクを避けながら活動している団体もある。
もちろん大人数でのコンパに参加しろと言っているのではないが、大学生の今だからこそできる学びや人間関係もある。コロナ禍を過ごす大学生として、リスクを正しく捉え、主体的に判断する必要もあるのではないか」