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予想通りではあったが、中国通信機器メーカー大手ファーウェイ(華為技術)の2020年12月期決算は、アメリカ政府の規制が直撃し、成長軌道に急ブレーキがかかった。この5~6年、業績拡大を牽引してきたスマートフォン事業の落ち込みが大きく、同社は「脱スマホ」に向け、アナログ産業や自動車産業で新たな鉱脈を開拓しようとしている。
売上高の中国市場比率、6ポイント上昇
2019年12月期に比べて2020年12月期は中国市場の売り上げ比率が上昇している。
ファーウェイ公式サイトより
ファーウェイが3月31日に公表した2020年12月期の売上高は前年比3.8%増の8914億元(約15兆円)で、純利益は同3.2%増の646 億元(約1兆円)。売上高の伸びは2013年以来7年ぶりに10%を下回った。
売上高を主要事業別に見ると、2019年に34%伸びた消費者向け端末事業が3.3%増の4829億元(約8兆1000億円)。2020年4ー6月、スマホのグローバル出荷台数でサムスンを抜いて世界首位に立ったが、同年9月に発動した半導体調達規制で10ー12月の出荷台数は6位に後退し、6年ぶりにトップ5から外れた。
売上高に占める中国市場の比率は2019年の59%から65.6%(2020年)に上昇した。5G基地局の整備が進む中国では、地方政府や企業と次々に連携し、地盤を固めているが、規制前の「グローバル化」とは逆方向に動いている。
スマホ販売台数、2021年は2年前の半分以下に
ファーウェイ公式サイトより筆者作成
ファーウェイは2019年にスマホを2億4000万台販売した。2020年は2億台弱で着地し、2021年はサブブランドのHonor(オナー)を売却した影響もあり、1億台を割り込むと見られている。調査会社のCounterpointによると2021年2月のグローバルスマホ市場で、ファーウェイのシェアはわずか4%だった。2018年、2019年が15%前後だったことを思えば、いかに窮地にあるかが分かる。
ただし、胡厚崑(ケン・フー)副会長兼輪番会長は決算会見で、「フラッグシップモデルは今後も計画通り発売する」と強調した。2月末に中国で発売された5G対応の折りたたみみスマホ「Mate X2」は1万7999元(約29万円)という価格にもかかわらず予約が殺到し、手に入りにくい状況が続いている。
2月に発売した折りたたみスマホ「Mate X2」は高価格にもかかわらず中国で売れている。
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ファーウェイはグーグルとの取引も制限され、自社端末にGmailやGoogle Playストアなどの関連サービスを搭載できない。最初の規制が発動した直後の2019年夏に独自OS「Harmony OS(ハーモニーOS)を発表した際には、「ICT機器への搭載を想定したもので、スマホ向けではない」としていたが、長引く規制を受け、胡輪番会長は年内にスマホへの搭載を始めると語った。
胡輪番会長は「今後数年、ファーウェイのスマホは依然としてリーダーとしての地位を維持できると思う」と強気の姿勢を見せたが、実際には日本を含む先進国ではシェアが蒸発しつつあり、ファーウェイの空席をシャオミ、OPPO、vivoの中国3メーカーが奪う状況になっている。
ファーウェイの日本法人、ファーウェイ・ジャパンの王剣峰(ジェフ・ワン)会長は決算に合わせて都内でブリーフィングを行い、「(日本事業で)5G以上に影響が出ているのはスマホ」と説明した上で、「日本で存続できる限りは存続する。どんなに苦しい状況でも存続したい」と述べた。王会長の発言には、海外事業の苦しい実感がこもっていた。スマホ事業を「技術力を示す分かりやすい消費者向け製品」として存続させるが、成長のためには脱スマホしかないということだろう。
規制の影響受けにくい新事業開拓
決算会見で、「IT企業が自動車について語れないのは時代遅れ」と発言した胡輪番会長。
決算会見のオンライン中継より
ファーウェイ幹部が最近よく口にするのが、「スマホはICT端末の一部に過ぎない」というフレーズだ。アップルのiPhoneに追いつけ、追い越せでブランド力を上げてきたが、「5G」「スマホ」の2大事業をふさがれたことで、同社はICT企業へと原点回帰しつつある。
消費者向けではタブレットやパソコン、ウェアラブル端末に注力、企業向けは炭鉱や養豚場などデジタル化が進んでいない産業に着目し、ICTソリューションを提供し始めた。
中でも注目されているのが、自動車への進出だ。シャオミやバイドゥ、鴻海精密工業(ホンハイ)などIT企業が次々に自動車製造参入を表明する中、自動車メーカーと業界団体を設立したり、自動運転の特許を多数申請しているファーウェイを巡ってはさまざまな憶測が流れ、創業者の任正非CEOが「ファーウェイは永遠に自動車製造は手掛けない。自動車をつくると発言した社員は追放も辞さない」と文書を出す事態にもなった。
しかし、胡輪番会長は決算会見で、「ITの会社が自動車について語れないと時代遅れと思われる。自動車産業は他の産業と同様にDXの重要な局面に入っている」と述べ、「ファーウェイは自動車業界のデジタル化の中で、十分に活躍できるスペースがある」と強い関心と自信を表明する一方で、「スマートコックピット、つながる車、スマート運転など、コネクテッドカーの部品サプライヤーになる」との立ち位置を明確にした。
自動車に参入するIT企業といっても、自社ブランドを製造するシャオミ、バイドゥ、設計や工場などのプラットフォームを提供する鴻海など、ポジションは細分化している。ファーウェイは、次世代自動車をスマホと同様にICT端末と見なし、メーカーに部品を供給する役割を目指すという。
同社は2020年、自動車ビジネスユニットを、スマホを管轄する消費者向け端末事業に統合した。この点について胡輪番会長は「(スマホで蓄積してきた)消費者体験の洞察を、コネクテッドカーの部品デザインに生かす」と説明した。
日本法人、「風向きの変化に期待」
ファーウェイ・ジャパンの王会長は「通信事業向けとスマホ事業は大きな打撃を受けている」と語った。
撮影:浦上早苗
日本事業についても触れておこう。ファーウェイは製品のハイエンド化を進める中で、日本企業からの調達を増やし、2014年に2220億円だった調達額は2019年に1兆円を突破した。スマホの生産が急減すれば、日本企業からの調達もそれだけ少なくなる。
ファーウェイ・ジャパンの王会長は、通信事業者向けの取引や半導体の調達で2019年から影響が出ていることを明かした上で、「日本国内の調達は電子部品の規模も大きく、こちらは堅調。また、通信事業者以外の法人との取引は政治的にそれほどセンシティブでなく、ビジネスメリットで判断してくれている」と、逆風の中でも全体としては安定していると述べた。
一方で、キオクシア(旧東芝メモリ)が米政府からファーウェイへの輸出許可を取り消されたことを受け、「輸出許可が下りるかどうかが、2021年の不確定要素」と懸念を示した。
ソニーとキオクシアは2020年に米商務省から半導体の輸出許可を受けたものの、キオクシアの許可は2021年1月に取り消された。キオクシアが許可を再度受けられない場合、2021年の調達規模は2020年を下回るリスクが大きくなる。
そのキオクシアは、米半導体大手2社にM&Aを打診されたとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が最近報じた。同社は2020年10月に上場を予定していたが、新型コロナウイルスや米中貿易摩擦の影響で、上場を延期している。
胡輪番会長はアメリカの規制を「産業界では誰も得をしない。ファーウェイだけでなくサプライチェーンの川上、川下の企業いずれも被害者だ」と批判した。米中の分断が進み、世界中が半導体を奪い合う中で、地政学的に中国に近く、政治的にはアメリカと同盟関係にある日本企業も影響を避けられない。ファーウェイ・ジャパンの王会長は、「バイデン政権になっても政策の方向性そのものは変わらないが、TikTok、WeChat、シャオミといった中国企業・サービスへのアメリカの風当たりが和らいでいる」と、風向きの変化に期待をにじませた。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。