変化が激しい環境に身を置くスタートアップは、ことあるごとに困難に直面する。
新しい事業を立ち上げる際、もちろん未来は完全には予測できない。しかし、先人たちの成功と失敗から学べることは多い。
そこでInsiderでは、数多くのスタートアップに投資し、その趨勢を見てきたベンチャーキャピタリスト(VC)の著書13冊をセレクトした。これらの本を読めばさまざまな分野の専門知識が手に入るだけでなく、具体例をもとにした未来のシミュレーションにも大いに役立つはずだ。
リード・ホフマン、クリス・イェ『Blitzscaling: The Lightning-Fast Path to Building Massively Valuable Companies』(邦訳:ブリッツスケーリング——苦難を乗り越え、圧倒的な成果を出す武器を共有しよう)
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本書は、事業を立ち上げ、拡大していきたいと考える起業家必読の一冊だ。
「スタートアップをグローバル企業に育てるにはどうしたらいいのか」という創業者の疑問に、共著者のリード・ホフマンとクリス・イェが回答を示している。
ホフマンはペイパルCOOを経て、リンクトインを共同創業した人物。ピーター・ティールとともに創業間もないフェイスブックに投資した最初の投資家でもあり、現在はベンチャーキャピタルのグレイロック・パートナーズのパートナーを務める。
イェは自身の経営するワサビ・ベンチャーズとブリッツスケーリング・ベンチャーズで、何百ものスタートアップにメンタリングをしているほか、スタンフォードで教鞭もとっている。
ベン・ホロウィッツ『The Hard Thing About Hard Things: Building a Business When There Are No Easy Answers』(邦訳:HARD THINGS——答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか)
HarperBusiness
本書は、スタートアップを立ち上げるリーダーが直面する困難を乗り切るための実践的なアドバイスが書かれた、起業家やVCの拠り所になる一冊だ。
著者のベン・ホロウィッツは、世界的なベンチャーキャピタル大手アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者で、フェイスブック、リフト、オクタなどに投資して大きな成果を挙げてきた。自身のブログに綴る格言が有名なことでも知られる。本書では山あり谷ありの自身のキャリアについて包み隠さず語っている。
レナータ・ジョージ『Women Who Venture』(未訳)
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女性がベンチャーキャピタル業界で働くとは、実際どういうことなのか。男性だらけのベンチャーキャピタル業界で、苦労しながら成功を目指して歩んできた女性VC99人の学びを紹介する一冊だ。
この本の執筆にあたり、起業家でVCのジョージは、投資家からVCまで何百人もの女性に取材したという。
スコット・クポール『Secrets of Sand Hill Road: Venture Capital and How to Get It』(邦訳:VCの教科書——VCとうまく付き合いたい起業家たちへ)
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アンドリーセン・ホロウィッツでマネージング・パートナーを務めるスコット・クポールが、ベンチャーキャピタル内部で得た知見をもとに、ベンチャーキャピタルが成功する要件やスタートアップが資金調達する方法を解説する一冊。
弁護士や起業家を経てVCに転じたクポール自身の経験はもちろん、シリコンバレーのベンチャーキャピタルの中心地サンドヒルロードでの実体験が、どの段階の創業者にも役立つように解説されている。
アレックス・ファーガソン、マイケル・モーリッツ『Leading』(邦訳:アレックス・ファーガソン 人を動かす)
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本書は、マンチェスター・ユナイテッドの元監督サー・アレックス・ファーガソンとセコイア・キャピタルのパートナー、サー・マイケル・モーリッツの共著で、一流のリーダーに必要なベストプラクティスを紹介する。
ファーガソンがサッカーコーチとして歩んできた27年の経験は、ビジネスと人生で成功するうえで役立つだろう。モーリッツは、ファーガソンのリーダーシップスキルとシリコンバレーの創業者たちの共通点をエピローグで次のように記している。
「偉大な指導者は、よく見れば普通ではないが欠かせない特質を持つことがわかるだろう。つまり、たとえ会社の所有者かその会社に相当な利害関係がなかったとしても、自分事として考え、動くということだ」
「雇われ人でありながらサー・アレックスのような資質を持つ人間は極めて稀だ。しかしシリコンバレーでは、このように長期的視点を持ち自分事として考えられる創業者が最も優れているといえる」
エレン・パオ『Reset: My Fight for Inclusion and Lasting Change』(未訳)
Spiegel & Grau
本書は、著者のエレン・パオがベンチャーキャピタルのクライナー・パーキンスを相手にジェンダーギャップや性差別訴訟を起こした経験をまとめた一冊。結果は敗訴だったものの、ベンチャーキャピタルやテック業界にパオの声は広く届き、インクルージョンに関する議論を引き起こすきっかけとなった。
パオは、クライナー・パーキンス退職後、レディットのCEOを務めた。またテック業界における多様性にフォーカスした擁護団体、プロジェクト・インクルードの共同創設者でもある。
ラフール・ラナ『Making Moonshots』(未訳)
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本書は、19歳のラフール・ラナが、ラックスキャピタルのパートナー、ジョシュ・ウォルフをインタビューした一冊だ(この本の執筆中、ラナはラックスに就職した)。
「ディープテック」に特化したスタートアップが、突飛なアイデアで世界の大問題を解決する理由を解き明かす。複雑なビジネス上のオペレーションの方法や、大胆な「ムーンショット」型思考が、創業者の戦略決定に役立つ理由にも触れている。
なお、ラナはInsiderが選ぶ「有望なZ世代のVCトップ29」にも選出されている。
ピーター・ティール『Zero to One: Notes on Startups, or How to Build the Future』(邦訳:ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか)
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本書はペイパル創業者でVCのピーター・ティールが、独自の事業を通じて未来を作り上げる起業家たちにエールを送ろうと執筆した一冊。イノベーションを起こすために何ができるか、ヒントが詰まっている。
ティールは本書のタイトルについて、自身のウェブサイトにこう書いている。
「僕たちが新しい何かを生み出すたびに、ゼロは1になる。何かを創造する行為は、それが生まれる瞬間と同じく一度きりしかないし、その結果、まったく新しい、誰も見たことのないものが生まれる」
イラッド・ギル『High Growth Handbook: Scaling Startups From 10 to 10,000 People』(邦訳:爆速成長マネジメント)
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起業家で投資家のイラッド・ギルはストライプ、コインベース、エアビーアンドビーなどのテック企業に関わってきた経験から、小さなスタートアップが世界的な大企業になるには何が必要かを学んだ。
本書は、それらの経験からギルが組織を成長させる方法を説明した、創業者のプレイブックともいうべき一冊だ。リード・ホフマンやマーク・アンドリーセンなどVCの巨人たちにも取材している。その中でアンドリーセンは、人事リーダーを採用するコツを次のように語っている。
「50人を超えて150人規模へ向かい始めたら、すぐに人事の面から組織づくりをしないと、ものすごく大変なことになる」
2018年に本書が出版された後も、ギルは自身のブログでスタートアップ向けのアドバイスを書き続けている。
ブラッド・フェルド、ジェイソン・メンデルソン『Venture Deals: Be Smarter Than Your Lawyer and Venture Capitalist』(未訳)
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本書は、ベンチャーキャピタルのファウンドリー・グループを共同創業したブラッド・フェルドとジェイソン・メンデルソンが、資金調達という複雑なプロセスを解き明かした一冊だ。
フェルドとメンデルソンは、何百ものアーリーステージ案件に投資してきた。その経験をもとに、創業者、弁護士、ベンチャーキャピタルが資金調達の際に役立つ内容にまとめた。
業界の新しいトレンドや動きに対応するため、2011年の初版以来、4度改訂している。
ジェシカ・リビングストン『Founders at Work: Stories of Startup’s Early Days』(邦訳:33のスタートアップストーリー)
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シードベンチャーに投資するYコンビネータの創業パートナー、ジェシカ・リビングストンがスタートアップの黎明期について書いた一冊。
リビングストンはアップルのスティーブ・ウォズニアックやペイパルのマックス・レヴチンなど成功した創業者を取材し、巨大テック企業が数名の友人同士でアイデアを温めていた頃の話を聞いている。
Yコンビネータがアーリーステージのスタートアップを成功に向けて手引きするように、本書も、大きな成功を収めた企業は創業当初どんなだったのかを紹介している。
ロス・ベアード『The Innovation Blind Spot』(未訳)
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本書は、2009年にビレッジ・キャピタルというベンチャーキャピタルを立ち上げて世界で何百もの創業者を支援しているロス・ベアードが、業界関係者の視点から起業家になるとはどういうことかを説いたものだ。
創業者や投資家が成功するうえでは、他者が目をつけないところに目をつけること、成功を模索するための青写真を描くこと、などの重要性を指摘している。
ジョン・ドーア『Measure What Matters』(邦訳:メジャー・ホワット・マターズ——伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法OKR)
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クライナー・パーキンスのパートナー、ジョン・ドーアが、世界的なテック企業の成功の鍵を解き明かした一冊。
ドーアが普及させたOKR(Objectives and Key Results=目標と成果指標)という概念は、グーグル、ゲイツ財団からさまざまな起業家、果てはU2ボノまで、数々の組織を成功に導いてきた。
ドーアが初めてOKRを知ったのは、インテル元CEOのアンディ・グローブと共にインテルに勤務し、エンジニアリングを担当していた頃のこと。その知識を、アマゾンやグーグルなど大手テック企業への投資に応用したのだ。
(翻訳:カイザー真紀子、編集:小倉宏弥)