3週間前、ベンチャーキャピタリスト(VC)たちは、自分たちの「評判」が売りに出されていることを知った。
BitClout(ビットクラウト)投資を始めた一人は、「私は、@chamathと@elonmuskに投資している。そろそろ自分のファミリーオフィスを持った方がいいだろうか」とツイートした。
ここで言う「@chamath」とは著名な投資家チャマス・パリハピティヤのこと、「ファミリーオフィス」とは超富裕層が持つ資産管理会社のことだ。これぞBitCloutの魅力——お気に入りのVCの評判に投資することで、自尊心も高まる。
匿名の開発者グループが創設した暗号資産プラットフォームであるBitCloutは、たしかに注目を浴びている。Twitterの一部を複製し、1万5000人のプロフィールを本人の許可なくアップロードしたのだから。Twitterのジャック・ドーシーCEOは以前、分散型ツイッターを検討中だと発表したが、一工夫加えたBitCloutが先を越した格好だ。
BitCloutは、それ自体が暗号(仮想)通貨だが、それをビットコインで買う。そして、BitCloutで「クリエイターコイン」というものを購入する。
クリエイターコインとは、人気の高いインフルエンサーの名前で発行される仮想通貨のこと。多くの人がクリエイターコインを購入すればするほど、その価格は上昇する。つまり、クリエイターの人気が上昇すれば、それだけコインの価値も上がるというわけだ。プラットフォーム上には、週次でコイン価値の上位者リストが掲載されている(現在、トップはイーロン・マスク)。
BitCloutのプラットフォーム上に表示される上位クリエイター。
https://bitclout.com/creators
もし自身のTwitterアカウントからBitCloutのアカウントが作成されたら、それが自身のアカウントとなり、BitCloutから専用の「鍵」が提供される。その鍵を使ってクリエイターコインを発行し、売れば利益を得られる。アカウントがない場合でも、BitCloutのアカウントを作成し、他のクリエイターコインを購入することは可能だ。ただし後者の場合、自身のクリエイターコインは発行できない。
BitCloutは、Twitter、暗号、排他性、インフルエンサーといった、多くの要素を組み合わせて成り立っている。VCが魅力を感じる要素ばかりだ。これまでBitCloutに出資した投資家を見れば、その魅力はいっそう高まる。パリハピティヤが運営するソーシャル・キャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツ、セコイア・キャピタル、ウィンクルヴォス・キャピタルなどだ(IT系ニュースメディア「TechCrunch」報道)。
VCの見方は真っ二つ
突然注目を集めることとなったBitCloutについて、シリコンバレーの意見は二分している。
ベンチャーキャピタルTiny(タイニー)の共同創設者アンドリュー・ウィルキンソンはTwitterに、「BitCloutはとても興味深い。しかし、それは機能するということではない。むしろ、機能しないことに賭けてもいい」と投稿している。
投資家シャーン・ピュリは、「このプラットフォームは、大成功するか崩壊するかのいずれかだ。中間はない」とツイートしている。
「私のBitCloutアカウントに、これまで11万ドルが投資された(時価総額は33万ドル)。このプラットフォームは、大成功するか崩壊するかのいずれかだ。中間はない」
BitClout上で上位第3位にランクされるパリハピティヤは、ポッドキャスト「All-In」の中で、BitCloutは「評判と信頼を得ている人が、そのことを示す手段になっている」と記している。
ブロックチェンジ・ベンチャーズのマネージング・パートナー、ケン・ザイフは、BitCloutに大きな可能性を感じて早い段階から出資している。
ザイフはInsiderの取材に対し、「長い投資経験の中でも最大級のアイデアです。これは単なるソーシャルネットワークではなく、ソーシャルエコノミー、インターネット上の新たな経済圏です。ただし機能すれば、ですが」と述べた。
ザイフによると、BitCloutはインフルエンサーが利益を生む方法に革命を起こす可能性があるという。
「インフルエンサーは、既にTikTokやInstagramで大きな利益を上げています。しかしその利益は、(BitCloutに比べれば)四捨五入の誤差程度のものです」
BitCloutを利用すれば、インフルエンサーは広告主企業との交渉を経ることなく、自らの評判から直接利益を生み出すこができる。誰かがクリエイターコインを購入するたびに利益が生まれる。
「ソーシャルネットワークやソーシャルメディア運営企業はこれまでも、インフルエンサーや著名人を通じて利益を得ています。しかし、インフルエンサーや著名人がプラットフォームから利益を得るのは初めてのことです」とザイフは語る。
インフルエンサーが、他のインフルエンサーに投資することも可能だ。ソーシャル・キャピタルのパートナー、アンディー・アーツは、レイス・キャピタルのクリエイターコインに2万ドル(約200万円)を投資した。これにはレイス・キャピタルのゼネラル・パートナー、クリス・マキャンも驚いたという。その驚きを簡単に表現すると、「ワオ! おいおい、大金だぞ」といった反応だったという。
その投資は利益を生んでいる。マキャンのコイン価格は上昇し、アーツの持ち分の価値は4万1000ドル(約410万円)となった。
BitCloutの批判者
ただし、投資をしたアーツがコインを現金化できるわけではない。少なくとも、まだできない。VCの中には、購入したコインを他の貨幣に換金する方法がない点を批判する向きもある。
しかしザイフによると、この問題は間もなく解消されるという。
「クリエイターコインの市場(店頭および取引所)創設は、当初から構想に組み込まれている」として、おそらく数カ月以内にはBitCloutを売る方法が生まれるだろうと語った。
批判の対象は現金化についてだけではない。他にも明確な回答が得られていないものもある。無許可でTwitterからプロフィールを複製した点もそうだ。創設者たちは匿名という雲の後ろに隠れたままだが、BitCloutのプラットフォーム上に、知らぬ間に自分の情報が掲載され、自分名のコインが発行されることを快く思わない人もいる。
レイダーリレー(Rader Relay)の製品チーム責任者、ブランドン・カーティスは、ビットコインの創設者とされるナダール・アルナージュに対し、同意なく自身の人気度を利用する行為の停止を求める書面を送った。シンガポールのリー・シェンロン首相は、自身のプロフィール掲載を取り下げるよう、公に要求した。
シンガポールのリー・シェンロン首相も、本人の同意なくBitCloutにプロフィールを掲載された。
Reuters
シェンロン首相は、「私は、(BitCloutの)プラットフォームと無関係であるから、当該サイトから私の名前と写真を削除するよう公開ツイートで要求した。誤解を招くものであり、私の許可なく行われている行為だ」とのコメントをFacebook上に投稿している。
ドラゴンフライ・キャピタルのパートナー兼法務担当責任者リンジー・リンによると、BitCloutの諸問題は解決からほど遠いという。Insiderの取材に対し、リンは次のように述べる。
「BitCloutに対して、なんらかの法的措置がとられるはずです。背後にいる偽名チームについて、業界では特定可能です。インフルエンサーが自身の人気度の不正利用で起訴する、あるいはSEC(米国証券取引委員会)がBitClout暗証貨幣の公募に関して起訴することもあり得ます」
BitCloutはTwitterのプロフィールを複製したことで批判にさらされているわけだが、一方で、それによってフォロワーが多いTwitterユーザーの関心を一気に集めることになった。
前述のマキャンは、「スタートダッシュのためにはこうした手法もやむを得ないかもしれない。しかしかなりグレーです」と述べる。
ウーバーなども、草創期には「多くの怪しいこと」について批判を受けた。しかし、「それを覚えている人はもういません。勝者は歴史を書き換えられるのです」とマキャンは言う。
ザイフが知る限り、誰でもBitClout創設者のアカウント「ダイアモンドハンズ」にメッセージを送ってプラットフォームから自身のアカウントの削除依頼をできるという。ただしプロフィールの削除を求める人より、BitClout上で自身のアカウントであることの確認を求める人の方がはるかに多いという。
BitCloutが問題を乗り切れるかどうか、人々の関心を維持できるかどうかは、まだ不明だ。しかしザイフは、BitCloutが一時的流行では終わらないと確信している。
「誰が正しいかは、時間が経てば分かるでしょう。でも私は、自分が正しいと確信しています」
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)