ゲーマー向けという印象がある「Discord」だが、ビジネス利用にも活用したいポイントがいくつもある。
撮影:小林優多郎
新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、テレワーク対応の手段として、Microsoft TeamsやSlackなどのグループウェアの導入が一気に進んだ。
2021年現在では、企業規模に応じての使い分けが目立っている。Business Insiderでも何回かに分けて、それらサービスを紹介してきた。
その中でも紹介しきれていない有名サービスとして「Discord」(ディスコード)がある。3月にはブルームバーグがマイクロソフトとの買収交渉が100億ドル(当時のレートで約1兆880億円)以上で進んでいると報じたDiscord。どんな特徴を持つサービスなのか?
ゲーマー向けから幅広いコミュニケーション用途に進化
「Discord」のホームページ。
出典:Discord
Discordは、Hammer&Chiselが2015年にリリースした元ゲーマー向けグループウェアだ。
2020年7月にはブランドイメージを「あらゆるコミュニティーが使用できるコミュニケーションツール」へと改めた。現在は趣味の集まりから、チーム内コミュニケーションを中心としたビジネス利用まで幅広く利用されている。
サービス内の文言はフランクなノリが多い。当初からそうなので、もはや伝統的だ。
画像:筆者によるスクリーンショット。
チャットや音声通話、ビデオ会議機能などを備え、機能は豊富ながらシンプルな操作体系が特徴。これは、そもそもの成り立ちが、「ゲームプレイの邪魔にならないよう扱えること」が前提だったからだ。
筆者自身も、Discordを長らくゲーム用に愛用しているが、ブランドイメージ変更の時期に前後して、企業との連絡用に使うなど、ビジネスシーンでの利用も増えだした。
Discordは中小規模の集まりを想定したような仕様が多い。いくつかの企業のサーバーに招待されているが、人数は5~20人ばかり。また企業内のあるチーム連絡用としての運用例もある。
なお、サービスはブラウザーと専用アプリケーション(Windows、macOS、iOS、Android)から利用できる。
テキストと音声用のチャンネルがある
ユーザーはサーバーを自由に立てることができる。サーバーというと、大がかりなイメージだが、「集まる場所」という認識でいい。
そこからチャンネルに別れる。チャンネルはテキストチャンネルとボイスチャンネルの2種類。参加者は、このチャンネル間を移動して、他のユーザー(同僚や友人)とコミュニケーションをするのが基本的な使い方になる。
また、サーバーからコミュニティーサーバーに切り替えることができる。コミュニティーサーバーとは、より大規模でややパブリックなサーバーのことだ。本稿の場合は、企業のチーム内での運用を想定しているので、このコミュニティーサーバーには触れない。
サーバーを立ててようとしているところ。
画像:筆者によるスクリーンショット。
テキストチャンネルは、文字通りでテキストでやり取りをするチャンネルで、これも複数立てることができる。画像やリンク、メンションを送信することもでき、SlackやTeamsなどを使用したことがある人ならイメージしやすい。
また、自動投稿するBotを用意でき、定期的な連絡を流したり、ニュースを流したりもできる。企業によってはニュースフィードが充実しているところもあれば、Just Ideaを流すだけのチャンネルもあるなど、使い方は自由だ。
チャットチャンネルかボイスチャンネルを選ぶ。プライベートチャンネルは特定メンバーのみがアクセスできる。
画像:筆者によるスクリーンショット。
ボイスチャンネルでは、
- 複数人数に対応したボイスチャット
- ビデオチャット
- 画面共有
などができる。
「Zoom」とは違う、独特のビジネス活用方法
上記で挙げた機能は、ボイスチャンネルにいるユーザーとのみ、コミュニケーションできる。Zoomとの違いという意味で大きなポイントは、毎回の招待は不要で「そのチャンネルに入るだけで使える」ことだ。
招待やビデオ会議用のURLを送る必要がなく、用事があるときにボイスチャンネルに入るだけで済む。
また、画面共有をしたり、テキストチャンネルを参照することもできるため、会議用としての機能もそろっている。
筆者が知る企業のほとんどは「会議室」「作業用」「外出」「クライアント対応」などのボイスチャンネルを立てている。
- 「会議室」……文字通りで会議用のボイスチャンネル。
- 「作業用」……単純に作業中の雑談や、誰かの作業音を聞きながら作業したい人向けで、邪魔されたくない場合は、そのチャンネルに入らなければいいだけ、という扱い。
- 「外出」「クライアント対応」……ボイスチャットに入るとそこに入っている人のアイコンが表示されるため、仕事仲間に現在のステータスを伝える目的の変則的な利用方法。変則的だが、右ペインにあるユーザーのステータスを確認するよりも機能的だ。
少数のチームや集まりでDiscordを使っている様子。
出典:Discord
Discordは上記2つのチャンネルを使い分けることが基本になり、ほかにはユーザー間でのダイレクトメール機能や、サーバーオーナーによる権限付与、通知条件などもあるのだが、それほど複雑ではない。
複数のサーバーに参加できるので、プライベートと混在させても、意外と誤爆(誤ったチャンネルへの誤投稿)しにくい。これはウィンドウの左ペインから順番にチャンネル属性を見ていくUI設計になっているのが大きいのかもしれない。
また、サーバーごとに名前を変更できるため、仕事用のサーバーでは本名、ゲーム用ではニックネームといった使い分けもできる。
課金なしでも良好な音声品質
注目のポイントとして、Discordは音声通話品質が高いことが挙げられる。
エコー除去やノイズ低減機能が備わっており、それがとても効果的に働く。ある程度のノイズは自動的に抑えてくれるため、それなりのマイクさえあれば、コミュニケーションに困ることはない。
また、サブクリプションのサーバーブーストにより、音質をより高くできるが、サーバーブーストしなくても音声通話は意外にも良好だ。
サーバーブーストはレベル制で、音質の向上だけでなく、絵文字や配信時の設定拡大などもアンロック対象。月額4.99ドルから利用できる。
画像:筆者によるスクリーンショット。
Discordは少数、もしくは20人程度のチームでの運用に適している。サービスの目的がはっきりしており、かつテキストとボイスの切り替えが楽であるため、煩雑になりにくい。
スケジューラーや議事録のような定番機能はないため、それらは他のサービスを頼ることになるが、Discordがシンプルであるがゆえ併用しやすい。
仮に、3月に報道されたようにマイクロソフトの買収が現実化した場合、Teamsを持つ同社にとってDiscordの位置づけがどうなるか注視したいところだ。
林佑樹:1978年岐阜県生まれ。東京在住。ITサービスやPC、スマートフォンといったコンシューマから組み込み、CPS/IoT、製造、先端科学までに適応するほか、ゲームやゲーム周辺機器のライティングも行なう。フォトグラファーとしては、ドラマスチルや展示会、ポートレートをこなしつつ、先端科学研究所の撮影をテーマとしている。