炎上や摩擦こそチャンス。全盲の東大准教授に聞く組織変革のヒント

労働人口の減少という課題を解決する一策として、多様な人材を活用すべく、ダイバーシティ推進に取り組む日本企業は増えた。さらに多様性は新たに企業サービスの視点や、顧客ニーズを満たすという観点からも、その必要性が大きく議論されている。

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しかし、20年経った今も、なかなかダイバーシティ経営の推進が進まない。その原因は「ボタンの掛け違い」である、とアカデミックの視点から気づきを与えてくれるのは、東京大学大学院 教育学研究科附属 バリアフリー教育開発研究センターの星加良司准教授だ。

「障害の社会理論」を研究し、社会の中でマイノリティとなっている人たちが排除されない構造を研究している。

必要なのは、社会を覆うマジョリティ性に気づくこと

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星加良司(ほしか・りょうじ)氏。東京大学大学院 教育学研究科附属 バリアフリー教育開発研究センター 准教授/1975年 愛媛県生まれ。5歳のときに小児がんで視力を失ったが、小・中・高校とも普通学校で学ぶ。東京大学文学部卒業、同大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(社会学)。東京大学先端科学技術研究センターリサーチフェロー、同特任助教を経て現職。主な研究分野はディスアビリティの社会理論、多様性理解教育。著書に『障害とは何か』(生活書院、2007年)、『合理的配慮』(有斐閣、2016年【共著】)他。一般社団法人組織変革のためのダイバーシティOTD 普及協会理事・運営委員。

星加先生が最初に指摘したのは、マジョリティ優位の社会構造だ。例えば、星加先生が教鞭を執る東京大学では、1コマ105分の授業が行われており、生徒は授業の間、ずっと席で話を聴き続けることが求められる。

また企業においても多くの場合、正社員採用や昇進の際に、長時間労働が可能である人や、転勤を伴う勤務ができる人など、これまで一般的とされてきた働き方をクリアできる人が選ばれるケースが多い。

先の東大の授業では、例えば身体的な障がいを抱えており、105分間ずっとその場に座っていられない人は、学習の機会を奪われることになる。企業組織でも、人事制度や労務管理は、皆と同じ働き方ができない人にとっては不利になるものが多いのが現状だ。

「現代社会はD&Iの視点から言うと、『マジョリティの人々が優位になるように作られた社会』です。多くの企業は、D&Iを考えるときに『マイノリティ側をどう生かすことができるか』を考えます。しかし、本質はそこではなく、マイノリティ側が不利である社会の構造に気付くこと。そして、それを改善していくことが本当のD&Iの課題です」(星加先生)

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マイノリティとは、ジェンダーや人種、障がいなどで、社会的に不利な立場に置かれている人を指す。星加先生が理事を務めるOTD(Org.Transformation by Diversity)では、組織変革の起点は「特権に無自覚なマジョリティが、組織の不均衡に向き合うこと」とし、このような社会構造の不均衡についての気付きを与えるワークショップや、組織で実践するための研究会を行っている。

ダイバーシティが活かされない状況の要因は、『マジョリティ性』です。マジョリティ側の考え方や方法を前提とした仕組みが通用していることでマイノリティが疎外されているわけですが、その仕組みが『当たり前』となってしまっているために、マジョリティはそれに気付かない。そこで、OTDのワークショップでは、マジョリティ性に気付くことをプログラムに組み込んでいます」(星加先生)

マジョリティ側は無意識に変化を拒絶している

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2時間半のワークショップでは、ゲームやグループワークを通して、マジョリティ性に関する気付きを得る。

画像提供: OTD

OTDは組織変革につながるダイバーシティを実現するために生まれた協会。アカデミックの知見とビジネス側のニーズをつなぎ、D&Iを組み込んだ組織改革、社会改革を目指している。

ワークショップは企業の研修プログラムとして活用されることが多く、受講を終えた参加者からは、「無意識や当たり前の怖さを感じた」「自分の視野の狭さに衝撃を覚えた」や、「社会の中で起きていることについて、改めて気付かされた」などの感想が寄せられている。

しかし、気付きを得たことで自分、組織や社会が直ちに変わるかというと、そうではないところに「マジョリティ性」の大きな問題が潜む。

「今の社会の仕組みはマジョリティ側にしてみれば至極当たり前のものですが、マイノリティとの関係で見るとそれは『特権』でもあります。その視点から考えると、組織や社会の変革は、マジョリティが特権を手放すことを意味する。だから、マジョリティ側は自分たちが享受している有利な条件に気づいたとしても、それを危うくするような変化に対しては防衛機制が働く。

一方、不利な側にいるマイノリティは条件の不均衡に気付きやすくそれを変える動機も持っているので、その人たちの声にもっと耳を傾ける必要があります」(星加先生)

無自覚とは恐ろしいもので、この指摘すらピンとこないかもしれない。これはマジョリティが悪で、マイノリティが善という議論ではない。ただ、現在の社会はこういったマジョリティが圧倒的に優位に立てる構造になっていることから、認識する必要がある。

「マジョリティ性の壁を越えて、身の回りの社会や組織を眺めてみれば、これまで『当たり前』として意識していなかったものの中に、不均衡や歪みがいくらでも見つかるはずです。そうした気付きを社会や組織の変革につなげていけば、従来の固定観念や先入観を越える新たな発想、イノベーションも生まれてきます」(星加先生)

炎上や摩擦こそ、D&I推進に活用できる

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「例えば、差別的だという理由で企業や自治体のCMが炎上し、放送を中止することがあります。多くの場合、未然に防ぐ、あるいは火種が大きくならないように早めに取り下げるなど、リスク管理がされています。もちろんリスク管理は大事ですが、炎上した時こそ、それを課題だと据えることで、組織の中でD&Iが一気に進んでいく可能性があります。クレームや炎上を、よりポジティブな文脈で組織変革につなげていくことが、ブレイクスルーになるのです」(星加先生)

また、ノイズや問題は、変革の手掛かりであると語る星加先生は、「一見、組織にとってマイナスに見えることこそ、抑圧せずに課題として共有し、新しい企業文化に変えていくことが重要。その意味で、D&Iは何か静態的なゴールがあるようなものではなく、多様性を阻む力に対して常にセンシティブになり、それを不断に問い直していこうとする『観点』なのだと思います」と続ける。

社会が変わるヒントは日常に散りばめられている。まずは、自己に潜むマジョリティ性に気づき、社会構造の歪みを知ることから始めたい。


島田ゆかり:ライター。広告代理店を経て、出版業界へ。雑誌、書籍、WEB、企業PR誌などでヘルスケアを中心に、占いから社会問題までインタビュー、ライティングを手掛ける。基本スタンス、取材の視点は「よりよく生きる」こと。

MASHING UPより転載(2021年2月15日公開

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