ゴールドマン・サックスは、特別買収目的会社(SPAC)を使った上場が相次ぐ電気自動車市場にビジネスチャンスを見出そうとしている。
Chris Hondros/Getty Images
米金融大手ゴールドマン・サックスが、新規株式公開(IPO)の引受業務や合併・買収(M&A)案件が増えつつある自動車産業にチャンスを見出そうとしている。
電気自動車や自動運転、コネクティビティ関連のソフトウェアやオンライン販売へのシフトが加速し、自動車ビジネスはその姿を大きく変えようとしている。スタートアップにとって敷居が高いことで知られていた産業分野だが、新興企業にもビジネス参入の余地が生まれてきている。
「(フォード創業者の)ヘンリー・フォードがライン生産方式による大量生産を始めたとき、あるいは蒸気機関が内燃機関に置き換わったときは、まさにこんな感じだったのではないか。いまは当時にかなり近い状況だと感じている」
そう語るのは、ゴールドマン・サックスに新設された自動車テクノロジー担当チームを率いるファウスト・モナチェリだ。
ゴールドマン・サックスはすでに自動車産業の革命的発展をリードするテスラとの関係構築を企図し、ここ数年は株式や債券の発行を通じて協業を深めてきた。
そして現在では、自動車テクノロジーに目を光らせているゴールドマン・サックス社内の工業、テクノロジー、メディア、通信など他産業担当のチームをまとめてジョイントベンチャーを設立し、テスラの競合にまでビジネスパートナーを広げようとしている。
新設されるジョイントベンチャーを前出のモナチェリとともに率いるクリス・ブディンは、Insiderの取材に対し、急成長を遂げる自動車テクノロジー分野でビジネスを拡大していくための社内リソースを確保するのが狙いだと語っている。
「ビジネスチャンスはものすごく大きいと考えている」(ブディン)
製造業とテクノロジー分野に高い専門性をもつバンカーたちを1つの会社に集めることで、自動車分野のクライアントへのアドバイスなど支援する態勢を整えることにもなる。
10年前、レガシー自動車メーカーはスタートアップを脅威と考えていなかったし、一方のスタートアップもレガシーと協業するより、レガシーを市場から追い出すことのほうに関心を抱いていた。
モナチェリによれば、それがいまや(レガシー・スタートアップの違いは問題でなくなり)ある問題について一方の企業群に役立とうと思えば、もう一方の側がどう考えるかを把握・理解する必要がある、という市場のあり方に変わった。
「クライアントに最高のアドバイスを提供するには、もはやその方法しか考えられない」(ブディン)
自動車産業の行く先をめぐる議論や競争が激化し、投資銀行にとってはビジネスチャンスに事欠かない時期がここ数年続いている。
アマゾン、アップル、ゼネラル・モーターズは互いに競うように自動運転スタートアップの買収をくり返し、電気自動車スタートアップは特定買収目的会社(SPAC)との合併を通じて次々と上場を果たしている。
もしテスラの長い赤字経営の歴史が何か意味するところがあるとするなら、テスラの成功を再現しようと事業に取り組むスタートアップは、これからも資金調達を続ける必要があるということになるだろう。
SPACを通じた新興企業の上場をどう評価するか
ただ、専門家や空売り筋の一部は、自動車テクノロジー関連企業の熱狂ぶり、とくに電気自動車のそれは度を越えているとみている。
SPACとの合併を通じて上場した電気自動車スタートアップの多くはほとんど、あるいはまったく売り上げを立てていない。したがって、顧客からのニーズが本当にあるのか、ニーズがあるとしてそれに応じるだけの生産能力があるのか、実態を示す根拠が限られている。
実際、SPACと合併したスタートアップが、投資家に虚偽の説明を行ったことなどを理由に(投資先の株価が下落すると儲かる立場の)空売り筋から訴えられたケースもいくつかある。
前出のブディンは、自動車関連のスタートアップにとってSPACは有用なツールと評価しており、電気自動車産業でSPACとの合併が続くことでコントロールが利かなくなるとまでは考えていない。
ある製品に強い需要があるとしても、その需要を十分満たせるだけの製品を生産するには大きな資本が必要となる。自動車メーカーにとってもそれは同じで、完成車を世に送り出す最後のステップのための資金を確保するのに苦労するケースが多い。SPACはその最後のプロセスを容易にしてくれる。
自動車産業はこれまで、新興企業にとって新規参入が容易でない市場だったが、新たなテクノロジーへのシフトがその硬直的な状況を変え、誰でも新規参入の機会を得られるようになってきた。
前出のモナチェリはこう言い切る。
「自動車市場はもっと大きくなっていく。もはやゼロサムゲームの時代ではないのだ」
(翻訳・編集:川村力)