中国グレート・ウォール・モーター(長城汽車)の小型電気自動車(EV)「Ora」。世界の注目が中国市場に集まる。
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アナリストも投資家も、最近のテクノロジー分野の話題と言えば、とにかく自動車産業の電動化シフトの先行きだ。
アメリカでは、電気自動車(EV)産業の先頭を走るテスラだけでなく、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードのようなレガシー自動車メーカーもすべてのラインナップを電動化する道筋を示し、アグレッシブな生産計画に大規模な投資を行う考えを明らかにしている。
しかし、アナリストの間では徐々に、グローバルEV市場の覇権を握るのは中国ではないかとの見方が強まってきている。
米投資銀行ジェフリーズのクライアント向けレポート(1月18日付)では、中国の規制当局による「トップダウン(上から)の指導」と、大手テック企業から数々のEV新興企業までが抱く「ボトムアップ(下から)の野心」がうまく機能して、中国の自動車産業は次の10年間、世界で最も重要な市場であり続ける可能性が高いとされている。
中国市場の決定的な変化
歴史をふり返ると、中国は「最も実績のある製造業サプライチェーンを有する世界最大の自動車市場」と位置づけられながらも、欧米のレガシー自動車メーカーと同水準のスピードと品質でガソリン車を生産することはついにかなわなかった。
しかし、中国政府はEV市場で世界の先頭に立つことを決意した。
EV市場で戦う自国企業に対して、補助金から個別のインセンティブ・プログラムまで、ありとあらゆるサポートを提供し、その結果、NIO(ニオ、上海蔚来)やXpeng(シャオペン、小鵬)などの新興EVメーカーが数字でも結果を残し始めている。
「政府のトップダウンによる自動車の電動化に向けたミッションは最近公表された書類からも明らかになっている。
中国は世界の『脱炭素』トレンドからも恩恵を受ける。2025会計年度には世界の電池の70%以上が中国で、あるいは中国のサプライヤーによって生産されることになる」
さらに、中国のEV市場は、国内のレガシー自動車メーカーとの協業を望むIT大手からも恩恵を受ける。
バイドゥ(百度)やアリババ(阿里巴巴)、テンセント(騰訊)のようなテクノロジー・コングロマリットは、レガシー自動車メーカーやEVスタートアップに資本や技術的サポートを提供し、よりインテリジェントなプロダクトを市場に送り出すための支援を行っている。
「IT大手と自動車メーカーの協業は、従来的な委託契約にとどまらず、Win-Winの関係構築を狙う考え方。NIOがJAC(安徽江淮)と結んでいる単純な生産委託契約とはまた別の、『バイドゥ・カー』『アリババ・カー』のような新たな提携関係が、自動運転の開発競争のなかで生まれてきている。
自動車メーカーによる新エネルギー車(NEV)子会社の上場を認めるなどの法改正は、研究開発にさらなる投資を続けていくという中国政府の方針を示唆する動きだ」
ジェフリーズが中国のEV市場を強気とみるもうひとつの理由は、一般消費者のEVへの乗り換えが加速していることだ。
コロナショックをいち早く抜け出した中国では、EVメーカーが販売不振からの回復どころか、コロナ以前より大きな需要に沸いている。その理由は「製品の選択肢が増えたことと、消費者が以前より低いEV購入インセンティブに適応したこと」という。
注目すべき自動車関連企業15社
EVメーカーにとって、中国は欧米の先進国に比べて国民1人あたりの自動車保有率が低く、巨大でなおかつ取っつきやすい市場だ。ジェフリーズは、2025年には国民1000人あたり150台、30年には182台まで保有率が上昇すると予測している。
全体として見たとき、温暖化ガス排出量規制の厳格化、新型EVの市場投入、地方諸都市での充電インフラの整備などを受け、2022会計年度までに新エネ車(NEV)販売台数は260万台に達するという(中国自動車製造業協会の調べによると、現時点ではNEVのほとんどをEVが占め、2020年の販売台数は130万台)。
ジェフリーズは投資家向けに、自動運転技術の開発とともに拡大していくEV市場で注目すべき上場15社のリストを作成した。一部の企業についてはジェフリーズのアナリストによるコメントを付し、以下で紹介しよう。
グレートウォール・モーター(長城汽車)
MarketWatch
[レーティング]
BUY(買い)
[市場でのポジション]
自動運転レベル3実装車の量産
[コメント]
SLプロジェクトと呼ばれる高級スマート新エネ車の開発を計画中。初期段階で情報は限定的。量産開始は2022年を見込む。大衆車寄りのラインナップでは小型EV「Ora(欧拉)」を展開。独BMWとの合弁で「ミニ(mini)」EVも2022年に発売予定。
自動運転車の開発にも注力しており、ライダー(LiDAR)システムでは独IBEOと、半導体開発では米クアルコムと協業。進行中のプロジェクト「HWA(Highway Driving Assistance)」(自動運転レベル2.5)は2021年前半、「HWP(Highway Autopilot)」(自動運転レベル3)は2021年第3四半期の市場投入を予定。
BYD(比亜迪)
MarketWatch
[レーティング]
BUY(買い)
[市場でのポジション]
自動運転レベル3実装車の量産
[コメント]
新エネ車、電池、車載用IGBT(パワー半導体)、PHEVコンポーネント、自動運転と多岐にわたる分野で大きな実績を持つ中国自動車テック企業の代表格。強固なサプライチェーンを武器に、2030会計年度には売上高が4000億元(約6兆2000億円)に達すると予測される。
ニオ(NIO、上海蔚来)
Markets Insider
[レーティング]
HOLD(中立)
[市場でのポジション]
自動運転レベル3実装車の量産
[コメント]
NIOは中国における高級バッテリー電気自動車(BEV)の代名詞。ロイヤルカスタマーの存在が同社の継続的成長を支える。年次イベント「ニオデイ(NIO Day)」では新型EVおよびバッテリーが発表され、投資家の期待が高まっている。
足もとで想定されるリスクは、価格40万元(約670万円)以上の量産車市場で他の高級ブランドと競合し、販売台数見通しが下振れすること。ジェフリーズは2021年、22年の売上高を市場予想より10%低く想定している。
シャオペン(Xpeng、小鵬)
Markets Insider
[レーティング]
HOLD(中立)
[市場でのポジション]
自動運転レベル3実装車の量産
[コメント]
技術先行で成長を遂げ、非常に魅力的なポジション。EVスポーツセダン「P7」とライダー(LiDAR)搭載の次期モデルの売り上げは加速し、レベル3自動運転システム「XPILOT 3.0」が普及することにより、サブスクリプションで提供される利益率の高いソフトウェアサービスが収益源になっていくと予測される。
自動運転と電力消費効率における優位性を評価しつつも、販売額成長見通しは2021会計年度が120%と市場予想より低めで、翌2022会計年度は129%。市場への浸透に時間がかかること、20〜30万元(約330万〜500万円)クラスでの競合が激化することがその理由。
バイドゥ(百度)
Markets Insider
[レーティング]
BUY(買い)
[市場でのポジション]
自動運転レベル4ソフトウェア・アプリケーションの商用化
[コメント]
ジーリー(Geely、吉利)やBMWといった主要自動車メーカーとの提携を進める。「アポロ(Apollo)」は自動運転におけるアンドロイドOSのような位置づけで、自動車のデジタル化に必要な「aOS」(自動運転オペレーティングシステム)を短時間で構築するのに寄与する。これにより、バイドゥは付加価値をもたらすカスタマイズサービスのエコシステムを実現している(とくにナビゲーション電子地図やインフォテインメントなど)。
アポロがあれば、自前の人工知能(AI)モジュールをゼロからつくり上げるのに大金を投じなくて済むため、自動車メーカーにとっては最高のプラットフォームと言える。他のテクノロジー・コングロマリットと異なり、アポロの自動運転システムは実証試験のデータが揃っている。
BAICブルーパーク・ニュー・エナジー・テクノロジー(北汽藍谷新能源科技)
MarketWatch
[レーティング]
BUY(買い)
[市場でのポジション]
ディープラーニング(深層学習)を活用した自動運転レベル5車両の開発
[コメント]
略称はBJEV。中国A株市場(=人民元建てで中国企業株式が取引される市場。香港証券取引所経由で海外投資家も株式を購入できるようになった)に初めて上場を果たしたバッテリー電気自動車(BEV)子会社。北京汽車(BAIC)グループの傘下企業。設立は2013年までさかのぼる。
2020会計年度はパンデミックで法人向け車両販売がストップし大きなダメージを受けた。2020年10月に高級多目的スポーツ車(SUV)の新車種を発表。2022会計年度前半にはファーウェイ(華為技術)との協業で新車種を展開する計画。
ジーリー・オートモービル(吉利汽車)
MarketWatch
[レーティング]
BUY(買い)
[市場でのポジション]
ディープラーニング(深層学習)を活用した自動運転レベル5車両の開発
[コメント]
親会社ジーリー・ホールディングスは、2021年1月にバイドゥとスマートEV開発のための合弁会社を設立すると発表。ジーリーの最新プラットフォーム「サステナブル・エクスペリエンス・アーキテクチャ(SEA)」を活用してFOTA(=ネットワークを通じた車載ソフトウェアのアップデート)を実現する。
同プラットフォームへの研究開発投資は、2021会計年度までに自動運転レベル4技術を確立してスマートEV開発をリードするのが狙いで、目論見通り進んで市場投入にたどり着ければ、売上高と利益の改善に寄与することになる。
スウェーデンのボルボ(Volvo)との合併はA株市場への再上場後に再開される予定。合併により、(1)ボルボのBEV技術、(2)グーグル親会社アルファベット傘下の自動運転開発企業ウェイモ(Waymo)との協力関係、(3)新エネ車分野や海外市場の開拓に向けた販路ネットワーク、などの活用が期待できる。
リ・オート(Li Auto、理想汽車)
Markets Insider
[レーティング]
BUY(買い)
[市場でのポジション]
長距離航続リチウム電池および電池交換技術の開発
[コメント]
市場投入済みの電動SUV「Li ONE(リ・ワン)」搭載のレンジエクステンダー式電動パワートレインは(1)航続距離の延長、(2)低温時の性能低下の抑制、(3)購入者の受け入れやすさ、の面で優れている。
この優位性は同システムが電池コストと同水準になるまで(リチウム電池が2025会計年度、ニッケル・マンガン・コバルト=NMC電池で2027会計年度)続くため、営業キャッシュフロー(OCF)を改善し、競合より早い段階での黒字化が可能になる。
ウェイチャイ・パワー(Weichai Power、濰柴動力)
MarketWatch
[レーティング]
BUY(買い)
[市場でのポジション]
長距離航続リチウム電池および電池交換技術の開発
グオシュエン・ハイテク(Guoxuan High-Tech、国軒高科)
MarketWatch
[レーティング]
BUY(買い)
[市場でのポジション]
リチウム電池交換技術の承認完了
デンソー(Denso)
MarketWatch
[レーティング]
BUY(買い)
[市場でのポジション]
企業平均燃費(CAFC)を引き下げるハイブリッドEVモデル
日本電産(Nidec)
MarketWatch
[レーティング]
BUY(買い)
[市場でのポジション]
企業平均燃費(CAFC)を引き下げるハイブリッドEVモデル
ベイジンBDスター・ナビゲーション(北京北斗星通導航技術)
MarketWatch
[レーティング]
BUY(買い)
[市場でのポジション]
スマートシティ開発
スターパワーセミコンダクター(嘉興斯達半導体)
MarketWatch
[レーティング]
BUY(買い)
[市場でのポジション]
海外製品の置換(IGBT、レーダー、センサー、カメラ)
ネーブインフォ(NavInfo、北京四維図新科技)
MarketWatch
[レーティング]
BUY(買い)
[市場でのポジション]
ナビゲーション電子地図の早期導入
(翻訳・編集:川村力)