幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
今回は読者の方からお寄せいただいたご相談にお答えします。
「キャリアのプロに相談に乗ってほしい。いい相談相手はどうすれば見つかる?」と悩んでいらっしゃいます。
近年、「キャリアカウンセリング」「キャリアコーチング」に対するニーズが高まっています。
日本を代表する大手企業でさえ「終身雇用を維持できない」と宣言する一方で、「人生100年時代」なんて言われ、70代まで働き続けることが現実的に。
転職も珍しくなくなり、副業・複業も拡大するなど、キャリアの選択肢は多様化しています。コロナ禍により、「キャリアを見つめ直した」という人も少なくありません。
しかし、キャリアについて誰かに相談しようにも、Aさんもおっしゃるように、会社の上司には本音を話しづらいもの。そこで、キャリアについての知見を持つプロに相談したい……と考える人が増えているようです。
キャリアコーチングは、ひとえに「自分にぴったりのコーチに出会えるか」が大切。そこで今回は、コーチ探しのポイントについてお話しします。
自分に合う人を見つけ出すには?
最初から自分にぴったりの1人に出会うのは、なかなか難しいと思います。
ですから、まずは複数の人を候補とし、対話してみる中で自分にフィットする人を選ぶことをお勧めします。
相談相手となる「キャリアのプロ」には、大きく分けると次のような種類があります。
- 転職エージェントに所属するキャリアアドバイザー
- フリーランスで活動しているキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント、キャリアコーチなど
- キャリアコーチング専門企業に所属、あるいは登録しているキャリアコーチ
大きな違いは、料金です。
転職エージェントの多くは、転職が成立した際に採用企業側から成功報酬を受け取る仕組みですから、相談料は無料。キャリアアドバイザーは、相談の末に何らかの求人紹介を行います。
一方、フリーランスのキャリアカウンセラーやキャリアコーチング専門企業は、相談者が料金を支払います。1時間あたり数千円~1万円台の料金設定であったり、コーチングであれば何カ月か継続して数十万円であったりと、個人や企業によって異なります。
転職エージェントとは異なり、基本的に求人を紹介することはありません(個人の場合は求人情報を持っているケースもあります)。
転職を決意していなくても、転職エージェントに相談してOK
まず、転職エージェントを「相談相手」として活用する方法をご紹介しましょう。
転職エージェントは、「転職を決意していなければ相談できない」と思っている人が多いようですが、そんなことはありません。
「転職するかどうか決めていないが、キャリアの方向性について相談したい」という人でも相談に応じてもらえます。
ただし、スタンスは会社や個人によって異なります。
実際、転職エージェントを利用した経験がある人からは、「転職を前提に、特定の会社を強く勧められた」「経歴と希望条件で検索した求人を紹介されただけで、機械的に感じた」などの声が聞こえてくるのも事実です。
しかし、「転職ありきではなく、人のキャリアや人生がよりよい方向に進むようお手伝いをしたい」という強い志を持つキャリアアドバイザーも多数います。
プロ意識が高い人ほど、「あなたにとって今は転職のタイミングではない。今の会社にしばらくとどまったほうがいい」といったアドバイスもしています。
実際、私が見てきたかぎり、そうしたスタンスで取り組んでいるキャリアアドバイザーのほうが高い業績を挙げています。
そのように、「求人紹介」ありきでなく、個人に寄り添うスタンスのキャリアアドバイザーを探してみてはいかがでしょう。
会社のホームページや個人のSNSなどで、キャリアアドバイザーとしての理念や想いを発信していることもありますので、参考にしてみてください。
あるいは、転職エージェントを介して転職活動をしたことがある友人・知人に、お勧めのキャリアアドバイザーを紹介してもらう手もあります。
先ほども触れたとおり、転職エージェントは成功報酬形式。つまり、相談に乗った相手が転職しなければ、いわゆる「売上」につながりません。
それを理解していて、相談することを遠慮している人も多いと思います。「タダ働きをさせてしまうのは申し訳ない」と。
しかし、当の転職エージェントにとって、時間をかけてサポートした相手が結局転職しない、あるいは他のエージェントや自主応募で転職を決めた……なんてことは日常茶飯事であり、慣れっこです。
「今すぐではなくても、いずれ転職をサポートできる機会があれば」と捉えているものですから、そこは気兼ねなく相談してもいいと思います。
ちなみに、「親身に相談に乗ってもらえたので恩返しをしたい」と考えるなら、友人・知人で転職を考えている人を紹介すると喜ばれるでしょう。
なお、転職エージェントは、「総合型」「ブティック型」などの種類があり、それぞれに特徴があります。この連載の第27回も参考にしてください。
フリーランスや専門企業の有料サービスを活用する
フリーランスのキャリアカウンセラー・キャリアコンサルタント・キャリアコーチや、キャリアコーチング専門企業などは、ウェブで検索すればホームページやSNSなどが複数ヒットするので、探しやすいと思います。
どんな理念・方針で取り組んでいるか、メッセージを読んでみて、「信頼できそう」「自分のニーズに合っていそう」と思えば、アプローチしてみてはいかがでしょうか。
キャリアコーチング専門企業のサービスとしては、アクシスの「マジキャリ」、ポジウィルの「POSIWILL CAREER」などがあります。
こうした人や企業は、「転職ありき」ではなく、個人の「自己実現」を支援することを目的に相談対応、サービス設計しています。
相談者のニーズに応じて、「自己分析」「キャリアプランニング」「転職活動支援(職務経歴書のプラッシュアップや面接対策など)」などのサービスを提供していますので、コースを選んで利用してみてはいかがでしょうか。
いずれにしても、相談相手として自分にしっくりくる人に会えるかどうかは運次第とも言えます。
しかし、幅広く情報収集したり、多くの人と会ってみたりすることで、「この人」と思える人に出会える確率は高まります。
アメリカでは、多くのビジネスパーソンが、いわば「主治医」のような感覚で、特定のキャリアコンサルタントと何十年にもわたってお付き合いしています。定期的に、あるいはターニングポイントにさしかかった時、対話によって自分の考えや方向性を整理する、いわば「壁打ち」の相手を持っているのです。
そんな「パートナー」「伴走者」となってくれるプロを見つけられると、心強いと思います。
相談相手としてふさわしいかどうかを見極めるポイント
キャリアの相談相手やコーチを選ぶにあたり、どんなポイントに注目すればいいか。
まず、最初に対話してみて、次のような傾向が見られる人は避けたほうがいいと思います。
- 「そんな考え方ではダメだ」など、否定から入る
- 自分自身の考えを押し付ける
- 先入観にとらわれている
ベテランのアドバイザーやコンサルタントほど、多くの転職事例やキャリアアップ事例を見てきているので、「この経歴の人なら、こんな業界や職種に転職できる」など、過去のケースに当てはめて判断することもあります。
その情報はとても役に立つ一方、「先入観」に捉われて他の選択肢を見過ごしてしまう恐れもあります。
「あなたの経験・スキルなら、この道を進むのがいい」と決めつけたりせず、個人の価値観や志向にしっかりと向き合ってくれるかどうか、かつ時代の変化もふまえてアドバイスをしてくれるかどうかを見極めてください。
また、話を聴いていて心地よく感じるだけでなく、時には耳の痛い話もしてくれて、新たな気づきを与えてくれる人を選ぶといいと思います。
多くの人は、誰かに相談をしたいと思っていても、ある程度、自分の中に答えを持っているもの。
対話し終わった後、悩みの解決までは至っていなくても、「自分の考えが整理できた」「自分が何を大切にしているかに気づいた」などと思えれば、相談する価値があるのではないでしょうか。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第50回は、4月26日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。