2020年2月期の決算で、ローソンの中国事業は初めて黒字となった。
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コンビニ大手のローソンは4月9日に発表した2021年2月期決算で、中国事業が初めて営業黒字を達成したと明らかにした。
1996年に日系企業として最初に中国に進出しながら長らく足踏みし、ファミリーマートやセブンイレブンの後塵を拝す状況が続いていたが、2010年代以降のてこ入れが奏功、店舗数でも2020年末にファミマを抜いて日系トップに立った。
中国政府は2022年までにコンビニの店舗数を2.5倍に増やす政策を打ち出しており、ローソンも2025年に同国の店舗数を1万店舗体制に拡大する目標を掲げた。
ダイエー傘下時代に中国進出
ローソンの中国での店舗数は2017年に1000店舗、2019年に2000店舗を突破し、2020年10月、3000店舗を達成した。2017年に掲げた「2020年に3000店舗」の目標をクリアした形だ。日本での事業とは対照的に、中国ではコロナ禍の影響も早期に脱し、進出25年にして初めて営業黒字に転換した。
とはいえ、事業が軌道に乗るまでは試行錯誤の連続だった。
ローソンの中国進出は1996年で、日系コンビニの中では最も早い。少子化に直面する日本の小売り・外食企業にとって、今でこそ中国は重要マーケットだが、1990年代後半は経済成長が始まったばかり。イトーヨーカドー、イオンも同じ時期に中国に進出しているが、いずれの企業も手探りで消費者や市場と向き合うこととなった。
ローソンの場合は、当時親会社だったダイエーの創業者、中内功氏が上海市から依頼を受け、ローソンが70%、中国企業が30%を出資して合弁会社を設立、中国初の外資系コンビニとして上海に1号店を開いた。
後発のファミマ、セブンに抜かれる
2010年代後半は、ファミリーマートが中国で快進撃を続けていた。
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中国政府は1995年にチェーン店発展を目指す政策を打ち出し、上海市がローソンを招聘したのも政策の一環だった。
だが同政策と経済の急成長は、中国企業の台頭と競争激化を招き、外資系のローソンにはむしろ重しとなった。ローソンでコンビニ経営のノウハウを身に着けた従業員が同業他社に流出し、合弁を組んだ中国企業は政府系企業に吸収されるなど、いくつもの想定外が発生した。
2003年には好立地を獲得するために中国企業に経営の主導権を任せたが、副作用として経営効率や商品・サービスの質が落ちた。戦略の修正を繰り返している間に、2004年に中国進出したセブンイレブンジャパンとファミリーマートに店舗数で抜かれた。
特にファミリーマートは、台湾系食品大手の頂新グループと合弁会社を設立し、2012年には1000店舗を出店するなど、短期間で中国市場に浸透した。ローソンの店舗数は2010年時点で300店舗強。2010年代半ばまでは業界ウォッチャーも「先行するファミマ、追うセブンイレブン」の2強構図で見ており、ローソンはほぼ置いてきぼりだった。
外資系コンビニの「空白地」照準
ローソンは2010年代後半に、中国市場で出店ペースを加速させた。
ローソン2020年2月期決算資料より
長い低迷を経て、ローソンが中国事業の本格的なてこ入れに取り組み始めたのは2010年だ。
それまで上海市のみで展開していたが、同年に重慶市、2011年に遼寧省大連市に進出した。内陸の主要都市である重慶市は人口約3000万人。インフラが急ピッチで整備され、レッドオーシャンの沿岸都市に比べると競争がそこまで激しくない。大連市は日本企業が集積し、日本流の運営やサービスが受け入れられる環境が整っている。両都市とも外資系コンビニが進出していない「空白地」でもあった。
また、上海の合弁会社の出資比率も見直した。好立地物件の獲得などのために2003年にローソン49%、中国企業51%としたのを、「日本式コンビニエンスストア」の原点に戻るため、2011年にローソンの出資比率を85%に引き上げた。新浪剛史社長(当時)が合弁会社の董事長に就き、立て直しの陣頭指揮を取る姿勢も全面に打ち出した。
ブランディングやオペレーションの改善に注力しながら重慶、大連、そして2013年に進出した北京市でノウハウを蓄積し、2014年以降導入したのが、エリアの有力企業と提携し、出店を拡大する「メガフランチャイズ契約」「エリアライセンス契約」だ。
例えば2017年には、安徽省南京市を中心にショッピングモールや食品工場を展開する南京中央商城とメガフランチャイズ契約を結び、同市に進出した。同市で業績が堅調に推移したことから、中央商城は安徽省全体を範囲とするエリアライセンスを取得、同省の店舗数は2020年7月末時点で62店舗まで拡大した。ローソンは、湖北省や湖南省などライバルが比較的少なく、市場の成長余地が大きい内陸部で、エリアライセンス契約を活用し、この1~2年の急成長の基盤をつくりあげた。
ファミマは合弁相手と関係泥沼化
外食、小売りの中国進出にあたっては、現地の事情を熟知した中国・台湾・香港企業との提携が成否の鍵を握る。うまく行けば店舗数を一気に拡大できるが、品質やサービスの低下、経営の混乱というリスクも背中合わせだ。
2000年代に中国進出し、数年で撤退した日本企業の多くは、現地企業との衝突が原因で座礁しているし、ローソンの低空飛行もその後の高成長も、現地企業との関係が大きな要因になった。
今、この壁にぶつかっているのが、中国市場で日系コンビニの勝ち組と見なされてきたファミマだ。
前述したように同社は台湾の頂新グループと組んで快進撃を続け、2011年には「2020年に中国8000店舗体制」と目標を宣言、伸び悩むローソンを横目に2012年に1000店舗を達成、2019年4月時点で約2500店舗体制に広げた。
だが2019年になって、ファミマが「合弁会社の取引内容が開示されなくなり、ブランド使用料の支払いも遅延している」として、頂新グループに保有株売却を求める訴訟を起こしたことが明らかになり、両社の関係が修復不可能なほど悪化していることが露呈した。
訴訟の審理は今も続き、ファミマの中国事業も抜本的な修正を迫られている。
中国政府、「2022年までに30万店舗体制に」
コンビニはコロナ禍によってインフラとしての価値も見直された。2020年2月、武漢市で撮影。
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コンビニ業界団体の中国連鎖経営協会(CCFA)によると、中国のコンビニ市場規模は2556億元(約4.3兆円)。前年からの成長率は13%で、それまでの数年間に比べると減速したものの、二けた成長を維持し、コロナ禍によってインフラとしての役割も認識された。
中国商務部は2020年8月、「コンビニのブランド化・チェーン化に向けた3年行動に関する通知」を公表し、2022年までに店舗数を30万店に増やす目標を掲げた。
CCFAによると2019年のコンビニ店舗数は13万2000店。うち23.5%に相当する約3万1000店舗がチェーン店だ。
中国のコンビニ市場は10年来「集中度が低い」がキーワードとなっている。有力企業の多くが特定エリアを主戦場としているため、上位10社のシェアは63%にとどまる。高成長を続けながらも、好立地の奪い合い、人件費・テナント料の高騰などの課題もあり、市場の飽和が絶えず指摘されてきたが、政府が発展目標を明確にしたことで、再び成長への期待が高まっている。
ファミマがもめている間に店舗数で追い抜き、日系ブランド首位に立ったローソンだが、シェアは2%に過ぎない。業界首位の中国企業は2万7000店舗を展開しており、「2025年までに1万店舗体制」という目標は、現地企業と伍するための最低ラインとも言えるだろう。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。