なぜ太古の壁画は洞窟の奥深くにあるのか…先史時代の人々が幻覚を誘発するためにしていたこと

フランスのヴァロン=ポン=ダルクにある洞窟に描かれた壁画を複製したもの。最古の洞窟壁画とされている。

フランスのヴァロン=ポン=ダルクにある洞窟に描かれた壁画を複製したもの。最古の洞窟壁画とされている。

REUTERS/Robert Pratta

  • 先史時代のヨーロッパで、洞窟に住んでいた人々は、芸術作品を作るために自ら酸欠の状態にしていたと研究者が発表した。
  • あえてそうしたのは、万物とつながるためだったと、イスラエルの研究チームは指摘している。
  • この研究では、なぜこれほど多くの古代の壁画が、洞窟の奥深くにあるのかについて説明している。

先史時代のヨーロッパで洞窟に暮らしていた人々は、壁画を描く際、幻覚を見るために自らを酸欠状態にしていたことが、3月に発表された論文によって明らかになった。

研究者たちは長年にわたり、世界の太古の壁画の多くがなぜ洞窟の入り口から遠く離れた真っ暗な場所にあるのか、疑問に思っていた。

しかし、イスラエルのテルアビブ大学の研究チームによる新たな論文で、その疑問が解き明かされた。洞窟の奥深くでは酸素が欠乏し、低酸素症という状態を引き起こすため、意図的にそのような場所で壁画を描いたというのだ。

低酸素症になると、息切れ、頭痛、錯乱、心拍数の増加などの症状が現れ、多幸感、臨死体験、体外離脱などの感覚をもたらすことがある。それが「薬物の服用時と非常によく似た感覚だったのだろう」というのが研究チームの考えだと、タイムズが報じた

CNNによると、論文には次のように記されている。

「後期旧石器時代の人々は、深い洞窟の内部を日常的な生活にはほとんど使わなかったようだ。そうした活動はもっぱら野外や岩陰、洞窟の入り口付近で行われていた」

さらに「壁画は、洞窟の深くて暗い部分だけで描かれたわけではないが、そのような場所で描かれたものには極めて印象的な側面があり、そこに焦点を当てて研究を行った」と付け加えている。

論文の共著者であるラン・バルカイ(Ran Barkai)は、洞窟内を明るく照らすために火を使うと、同時に酸素濃度も低下させることになったはずだと言う。このような状況で絵を描くことは、万物とつながるための手段として意図的に行われていたと指摘する。

壁画を描いた人々は、岩肌がこの世と豊かさや成長を象徴するあの世とつなげる入り口だと考えていたのだろうと、バルカイはCNNに語っている。さらに、壁画が一種の通過儀礼にも使われた可能性があることも示唆している。

これらのすばらしい壁画は、およそ4万年前から1万4千年前のものであり、マンモスやバイソン、アイベックスなどの動物が描かれている。

「壁画が描かれたことで洞窟が重要なものになったのではなく、その逆だ。彼らが選んだその洞窟が重要だからこそ、壁画で彩られたのだ」と論文では分析されている。

この論文は、ヨーロッパ、主にスペインとフランスにある洞窟壁画に焦点を当てており、3月31日に科学雑誌「Time and Mind : The Journal of Archaeology, Consciousness, and Culture」に掲載された。

[原文:Prehistoric cavemen starved themselves of oxygen to induce hallucinations and inspire their ancient paintings, study finds

(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)

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