経営コンサルタントは、燃え尽き症候群に直面している。そのため、収入10万ドル(年収約1000万円)以上の仕事を辞める人も出てきているのだ。
コロナの影響で、コンサルタントは新しいライフスタイルへの適応を余儀なくされている。出張もなく、クライアントと現場で直接顔を合わせることもなく、毎週100時間を超える労働時間が暗黙の基準となっている。「燃え尽き症候群」と呼ばれる社員の症状(体力・気力の消耗など)を受け、大手コンサルティング会社は、より持続可能な働き方を作り出そうとしている。
例えばマッキンゼーでは、無料または割引価格で受けられるセラピーなどの福利厚生を充実させた。また、 「Mind Matters(心も大事)」という社員グループを立ち上げ、新しいメンタルヘルスのサポート体制も作った。PwCでは、会議時間を25%短縮し、金曜日の会議を中止するよう社員に呼びかけた。また、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)も、1時間の会議を50分に短縮するなど、同様の戦略をとっていると広報担当者は言う。
Insiderは、コロナによって生活がどのように変化したかを知るために、PwC、デロイト、KPMG、アーンスト&ヤング(EY)の「ビッグ4」と呼ばれる会計事務所 やMBB( マッキンゼー・アンド・カンパニー 、BCG、 ベイン・アンド・カンパニー の3社)などの現役社員や元社員6人にインタビューした。
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アソシエイトやアナリストは、経営コンサルティング会社で最も若く、通常、大学やビジネススクールを卒業後すぐに採用された社員だ。彼らはシニア・アソシエイトと一緒に、財務諸表の分析や市場調査、クライアントへプレゼンするためのスライドの作成といった業務を行う。コンサルティング会社では、プロジェクトごとにスタッフが配置されるため、若手社員は年間を通じて複数のチームや異なるマネジャーと仕事をすることが多い。
取材を受けた6人のうち1人だけが過去1年でワークライフバランスが改善されたと言っていた。4人のコンサルタントは過去3カ月の間に仕事を辞め、1人は一時的に休職をしている。Insiderの問い合わせに対し、各社からの回答はなかった。
KPMGの広報担当者によると、コンサルタントの過去1年間の平均労働時間は週50時間以下だった。
「コロナ禍では、継続的な調査やフォーカスグループからのフィードバックを受け、育児や介護者の支援プログラムの充実、子どもの教育支援、メンタルヘルスのサポートなど、より充実した福利厚生を社員に提供してきました」と広報担当者は言う。
実態はどうだろう。以下は、従業員のインタビューの一部だ。
好きだった仕事を恨むように
【PwCの元シニアアソシエイト/コロナ禍に退職】
夕食時間帯や、食後すぐから午後11時まで仕事をしていましたが、そういう日はまだマシなほうです。ひどい時は、午前2時半まで働いていました。
80時間ぐらい働くといったようなめちゃくちゃな週もあり、翌週にはすぐに休暇を取りました。そんなことを繰り返していたのですが、他の人はそれでいいと思っているようでした。でも、私はとても疲れていて、このサイクルにうんざりしていました。
コロナでボーナスは激減。最近昇進したばかりなので、あと最低2年ぐらいは昇進も望み薄。だから、やる気を起こさせることが何もない状態でなぜこんなことしているのかと思っていました。
コロナ以前は、一度に1つのクライアントを担当するのが普通でした。コロナ禍が始まったばかりの頃は仕事の数が少なかったので、いくつかのプロジェクトに人員を割いていました。それが突然、異なる仕事をいくつも担当するようになり、すべてが崩壊してしまいました。
チームメンバーを落ち込ませたくなかった。上司もみんな遅くまで働いているのに、彼らに仕事が多すぎて疲れましたとは言えなかった。あまり気にせず、周囲と同じように仕事をするよう自分に言い聞かせていましたが、好きだった仕事を恨むようになってしまいました。
私の限界は、11月頃だったと思います。あるクライアントのプロジェクトで、1週間に100時間以上も仕事をしてしまったのです。3週連続で金曜日、午前2時過ぎまで仕事をしました。友人たちと約束していた夕食も諦めました。ある週末には彼女を実家に連れていったのですが、金曜日の夜遅くまで仕事に追われ、家族と過ごす時間もありませんでした。ばかばかしいと思ったのを覚えています。
コロナ前からの長時間労働
【ビッグ4の元経営コンサルタント/コロナ禍の1カ月前に退職】
このような問題は、コロナ前からあったものです。週に40時間以上働かなければならないことは分かっていましたし、その覚悟もありました。しかし、これほどまでに競争がきつく、プロジェクトに人員を確保するのが困難になるとは思わなかったし、全員が入るほどのプロジェクトがなければないで、やはり私の責任になるだろうと思っていました。
もし、私が辞めるのが2020年3月より後だったら、仕事を見つけることはできなかったと思います。ビッグ4で働いている友人知人からは、いま在宅勤務をしたり異常な長時間労働が続いて、ひどい状況だと聞いています。
毎月1人ずつ辞めていく
【デロイトの元戦略コンサルタント/コロナ禍に退職】
コロナ前の仕事量は許容範囲内でしたが、コロナ直後から、朝2時まで働くことが日常になりました。睡眠不足になっても、どうせ私は他にやることがないだろうと言われ、会社からは同情してもらえませんでした。その後、解雇が行われ、残った社員は次の解雇の対象になるかもしれないからと、仕事を必死にやり続けるというようなパニック状態に陥りました。
私は毎日のように偏頭痛に悩まされ、毎朝、痛みを和らげるためにアドビルを飲んでいました。でも、効果がありませんでした。全身に痛みを感じるようになり、長時間の仕事で肩が凝るようになりました。1週間のうち、何度も腹痛に悩まされました。
それに白髪も増えてきました。まだ28歳なのに。
クリスマス休暇の間、会社は社員に1週間の休みをとるよう勧めました。その頃はすでにかなり疲弊していたので、休むことにしました。しかし私が仕事に復帰すると、上司やクライアントチームの同僚からなぜ休んだのかと言われました。若いアナリストたちが休みを申請すると、コロナでどうせどこにも行けないのだから休暇をとるに値しないなどという話が、経営会議ではされていました。
なぜこんなことをしているのか? 私は毎日自問し続け、これ以上我慢ができなくなったところで、会社を辞めました。
一時は、あまりにも状況が悪く、チームのメンバーが毎月1人ずつ辞めていく状態でした。会社を辞めていった人のことを考えると彼らのためには嬉しかったのですが、彼らが辞める前に抱えていた仕事が残った私たちに降りかかり、とても大変でした。
私のチームはコロナ前に20人程度でスタートしましたが、私が辞める頃には1桁になっていました。
間違いなく、私は代替可能な人間だった
【PwCの元アドバイザリー・アソシエイト/コロナ禍に退職】
毎朝6時に起きて、前日に終わらなかったことをまとめてやろうとしました。
通勤や移動の時間を節約しても、私の仕事はずっと残っていました。朝起きて、仕事をして、寝ると、まだもっとやるべきことがある。仕事に終わりがないのです。
コロナ禍では、Zoom会議疲れで本当に時間を無駄にしました。しまいには、1日9時間の勤務時間でも仕事を終えることができなくなりました。なぜなら、ずっと会議に参加しているからです。そうなると、自分の仕事をする時間がなくなってしまい、結局、夜遅くまで仕事をすることになってしまいました。
最終的には、自分のメンタルヘルスを優先する必要があることに気づきましたが、良い状態に持っていくためどうすればよいのか分かっていたわけではありません。燃え尽き症候群は、私のメンタルヘルスに悪影響を与えました。
もし、私が目標を達成しなければ、クビになるか、あまりやりたくないプロジェクトの担当になるかどちらかでしょう。
私が疲弊していたことを上司に伝えなかったのは、注目されたり、否定されたくなかったし、意図しない結果を招きたくなかったからです。コミュニケーションが重要であることは分かっていましたが、皆が私と同じように仕事をしていたのです。皆が長時間労働をしている中で、自分だけ弱音を吐くことはできませんでした。
コロナ禍で仕事上の特典もなくなり、そんな中、コンサルタントとしてやっていくのは大変でした。私は旅行が好きで、いろいろな人と交流するのが好きなのですが、それができなくなりました。それどころか、狂ったように働くことになりました。コロナの結果、収益が上がったのは事実ですが、誰の給料も上がっていません。
間違いなく、私は代替可能な存在でした。誰も私のことなど気にしていません。
仲間意識なんてない
【KPMGのアドバイザリーアソシエイツ】
パンデミックが起こる前は、もっと疲弊していました。私は、今の方がバランスが取れているという社内では少ない部類に入る人間だと思います。今は在宅勤務をしていますが、人の目もなく、細かく管理されることもなく、自宅で仕事をしているときの方が自由です。
1年ほど前は、週に90時間働いていました。今では週に40〜60時間程度です。他の人と比べて私の労働時間が減っているのは、昨年はもっと忙しいプロジェクトに参加していたからです。在宅勤務に移行してからは、もっと楽なプロジェクト担当になりました。
ただ、私の仕事は給与面でもチーム面でも評価されないまま終わってしまうので、年内には辞めようと思っています。
2年間働いたことで私の給料は上がりましたが、過去1年間、毎週のように週90時間働き続けたにもかかわらず、昇給は3000ドルのみ。会社が得た成果に比べると低賃金で懸命に働く価値はないと思います。
仲間意識もまったく感じられません。今は、仕事以上のものは何もなく、楽しいことはまったくなくなってしまいました。
毎週のレビューが負担に
【MBBのコンサルタント/燃え尽き症候群のためコロナ禍で4カ月休職】
高級な食事や旅行、無料航空券を使った休暇など、コロナの前に得られた特典の多くは、日々の仕事が本当に大変なので、それに耐えるためのものでした。コロナ禍であろうとなかろうと、仕事は大変なのです。以前も疲れ切ってはいましたが、それでも、少なくとも代わりに何かを得ていると感じるものがありました。
週末は過去のものとなりました。4カ月連続で毎日朝8時から夜中の12時まで働いていましたが、それは週末も含めてです。
仕事の成績が良ければ、さらに仕事が増えて自分が休めなくなると感じていました。自分の担当している仕事は好きで辞めたくなかったので、4カ月間休職しました。
私たちは、継続的に毎週レビューを受けています。私は毎週、上司とフィードバックセッションを行っていました。私が燃え尽きてしまったのは、「燃え尽きた」と感じている時に、毎週レビューされて気分の悪い週を過ごす余裕がなかったからだと思います。
同じ時間帯に働いているチームの同僚たちを見ていると、自分の長期的なキャリアに疑問を感じてしまうのです。彼らは朝5時に私にメールを送ってくるので、彼らの睡眠時間が3時間程度であることは分かります。私は、なぜ自分がこのような生活を目指しているのだろうと思いました。
頭がおかしくなりそうで、仕事中に泣いていました。眠れないし、疲れているから運動する気力もない。ちょうど休暇を取る必要があると判断した時、彼らはとても協力的でした。
(翻訳、編集・大門小百合)