自分の好きな道を選び、チャレンジし続けている人たちは、どんなパートナーを選んでいるのでしょうか。
パートナーとしての決め手や、リスクをとる決断や心が折れそうなピンチを乗り越える時、どんな言葉が支えになったのかなど、妻と夫にあえて同じ10の質問をすることで掘り下げます。
第4回は、ランサーズの執行役員でCFO(最高財務責任者)を務める小沼志緒さんと、NPO法人クロスフィールズの代表理事である小沼大地さんご夫妻。
組織を率いる立場にあるお2人は、お互いをどのように支え合っているのでしょうか?
—— 出会いのきっかけと結婚の経緯は?
大学が一緒で、同じラクロス部に所属。男女で分かれた活動でしたが、何度か話すうちに意気投合し、大学1年生の終わりくらいから付き合うようになりました。
そのころの大地の印象は……「暑苦しい人」(笑)。部活に燃えていて、私にはない「周りの人を巻き込む力」があって、エネルギーに満ちている感じ。大地が青年海外協力隊から戻ってきてからは、社会人向けに「情熱を絶やさないためのミッション共有」を目的にした勉強会を始めて、その名も「情熱の魔法瓶」。一層暑苦しさが増しました(笑)。
でも、そんな大地に巻き込まれたことは、私にとってもよかったなと今となっては思います。
当時の私は、投資銀行に入社して土日も仕事に没頭。ほとんどプライベートがなく、友人と会う時間もなかなか取れずに、狭い世界に生きていました。大地に半ば無理やり連れ出され、いろんな業界の人と出会って「あなたは何をしたいの?」と語り合う。チャレンジする人たちを身近に感じながら、自分のやりたいことを見失わずに言語化する時間を作れたことは、その後の転職の決断にもつながったと思います。
結婚は26歳のとき。交際を始めてから年数も経った頃、友人を呼んで大地が企画したパーティーで、サプライズでプロポーズされました。張り切って準備してくれたみたいですが、私は「当事者同士でやればいいことなのに……」とあまりピンとこなくて(笑)。でも、答えはイエスでした。
—— なぜ「この人」と結婚しようと思ったのですか?
私たちは性格が正反対なんです。でも、大地は私の一番の理解者であり、親友みたいな存在でした。同級生だったこともあって、出会ったときから対等な関係で、信頼できる相談相手でした。そんな関係でこのまま夫婦になれたらいいかもなぁと漠然と思うようになりました。実際に結婚生活を振り返っても、いつもお互いがチャレンジする瞬間に、自然に相手を応援できる関係でいられたと思います。
結婚してから半年間は、大地の語学研修についていく形でサンフランシスコとニューヨークで計6カ月ほど過ごしました。自分たちで探した住居で、ジャマイカ人の起業家とルームシェアをしたりと面白い生活体験はできましたが、すぐに「私は働かないと性に合わないな」と気づいて、転職活動を始めました。
義父母が助けてくれた子育て
—— お互いの自己実現を支援するために、大切にしてきたことは?
私も彼も自分の人生に精一杯というのが正直な感覚なのですが、どちらか一方が大きなチャレンジをするときには、お互いに背中を押してサポートする関係です。
例えば、私にとっては大企業で歩んできたキャリアからスタートアップへの転職は、勇気が必要な挑戦でした。その時も、大地は私にフェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグの起業ストーリーを描いた映画『ソーシャル・ネットワーク』を勧めてくれるなど、情熱の炎に薪をくべるような後押しをしてくれましたね。
私のキャリアのチャレンジを支援することは、家庭での彼の負担を増やすことにもなるのですが、嫌な顔一つせず、いつも同じ温度で私の考えを優先してくれるのはありがたいです。イメージとしては、絶対に受け止めてもらえるクッションのような存在。私もそうありたいと思っています。
もう一つ、ありがたいのは、大地だけでなく、大地のご両親も私のキャリアを応援してくれることです。「大地にも頑張ってほしいけれど、志緒ちゃんも頑張ってね」と、コロナの感染拡大前までは、義理のお父さんがよく孫の世話をしてくれました。世の中を見渡すと、夫の夢は実現しやすいのに、妻はチャレンジする気持ちを抑制したり、周囲の応援を得られなかったりする場合も少なくないようですが、私はそれを一切感じません。
私も、大地が何か思い切り踏み出したいときには、家庭を理由に諦めることがないように、できるサポートは最大限にやりたいと思っています。マッキンゼーを辞めてNPOを立ち上げたときもそうでしたし、3年前に大地が「社会人大学院に通いたい」と言い出したときも、土日はほぼワンオペになることを覚悟して、文句を言わないように努めました。お互い様なので。
大地には仕事の相談もよくしますよ。CEOとのコミュニケーションの取り方についても、参考になるアドバイスをくれるので助かっています。
私を連れ出し、世界を広げてくれた
—— パートナーから言われて、一番嬉しかった言葉は?
ランサーズのCFOというオファーを受けるかどうか迷っていた私に、「なりたかったら、なればいいじゃん」と言ってくれたのは嬉しかったですね。
私はもともとCFOを目指してはいましたが、「大手企業での経験をじっくり積んでからゆくゆく」というプランで、想定よりずっと早くやってきたチャンスに足踏みをしていたんです。「たくさんのスタートアップがあって、それだけCFOのポジションもある。臆せずやってみたら」と大地が言ってくれたことで、飛び込めました。
この前段階として、大地が参加しているG1サミット(さまざまな分野のリーダーが集まるビジネス会議)に何度か連れて行ってもらったことも、私の世界を広げてくれました。一流の人たちが語る一次情報を聞くことで、感性を刺激され、「小さい組織でも責任者になることで、見える世界はずいぶん変わるんだな」とイメージを描けるようになったんです。
ランサーズのCFOはもちろん簡単な仕事とは言えませんし、理想像にはまだ近づけていませんが、あのとき思い切れたことは私の自信になりましたし、やりがいを感じています。
私はもともと自己肯定感が低いタイプなので、身近な人からの後押しがあるかないかで意思決定が左右されてしまうんです。もしも1人だったら、今、目の前に広がる風景が見える場所には辿り着けていなかったと思います。
子どもも巻き込んでの家族会議
—— 日頃の家事や育児の分担ルールは?
お互いに得意な家事をやるという分担が定着していて、ざっくりと私が料理系で掃除系は彼。彼は役職やミッションがあることで燃えるので、「掃除担当大臣」に任命しました(笑)。ちなみに、家庭では私が「首相」です(笑)。強みに合わせたミッションを与えて、進んでやりたくなるように支援する。家事も仕事も同じですね。
保育園に通っている長男の送り迎えは半々。送りは私が週に2回・大地が3回、迎えは私が3回・大地が2回と完全にイーブンです。長女の小学校生活が始まったときには、彼がPTA活動に興味を持っている様子だったので、「やってみたら?」と背中を押しました(笑)。喜んで関わろうとしてくれているようなので、よかったです。
—— 子育てで大事にしている方針は?
自己肯定感を高めること。「不確実性が高い時代を生き抜くには、“個の力”が大事になるので、自己肯定感を育てることを最優先に子育てしよう」と。この方針は大地とすぐに合意できました。
日々の具体的な行動としては、子どもたちを「褒める」こと。結果ではなくプロセスに注目して、できるだけ具体的に。習い事など何か新しいことを始めるときには、本人の意思をよく聞くように心がけています。
私たちは週に1回、ミーティングをしているのですが、子育て関係のテーマはトップイシュー。特に、コロナによる緊急事態宣言下では、子どもも巻き込みながらの家族会議を頻繁にやっていました。家族として何を一番大切にしていくかを決めて、ホワイトボードに書いて発表。最近のスローガンは「Be happy」です。家族会議の議長役はいつも大地で、楽しそうにやっています。話し合った内容は、ログをきちんととって、時々振り返っています。
毎日顔を合わせる家族でも、ちゃんと向き合って話す時間を持つことは大事ですね。特に、夫婦間で協力して子育てをしている時期には絶対やったほうがいいと思います。
うつ直前、かかったストップ
—— 夫婦にとって最もハードだった体験は? それをどう乗り越えましたか?
1人目を出産したときは大変でした。当時勤めていたリクルートのIPO準備期間と産育休が重なり、プロジェクトメンバーだった私は半年で復帰したものの、早く成果を出したい焦りでいっぱいいっぱいに。夫婦間にも緊張感があったと思います。
私はケンカが嫌いなので、爆発はしませんでしたが、子どもが夜泣きしても起きない大地を心底羨ましいと感じていました(笑)。私だけで抱え込もうとせずに、週末のご飯づくりは彼に任せたり、適度に頼っていましたけどね。
もう一つ。ランサーズがIPOに向けて準備を始めたときも、私は働き過ぎて精神的なプレッシャーから自分を追い詰めてしまいました。過覚醒で眠れない状態になり、「このままではうつになる」と心配した彼からストップがかかりました。「今週末は3連休だから、スマホを見ないで休んで」と。
彼は週末大学院生だったので、私は休むというより子育てに没頭するしかなかったのですが、仕事モードから解放されたことで、自分を取り戻すことができました。「あのときは本当に危なかったね」とよく話しています。
—— これからの夫婦の夢は?
海外移住が夢です。海外で暮らす期間は、家族関係もより濃密に築けますし、若いうちに海外でチャレンジしたい気持ちもあります。家族でバリに旅行した時には、学校探しまでしたことも。
最近は今の家族のつながりを大事に維持し続けることにより目が向くようになりましたが、いつか実現できるといいなと思っています。
週1回でも保育園のお迎え引き受けて
—— あなたにとって「夫婦」とは?
チームです。それも、夫婦双方の自己実現を応援できるチーム。この考え方は、お世話になった保育園の園長先生から教わったことで、以来、夫婦でのミーティングも私たちの習慣になりました。
—— 日本の夫婦関係がよりよくなるための提言を。
男性が働き、女性が家庭を守る夫婦のあり方が一般的だった名残りもあってか、今でも女性側が自己実現を諦めてしまうケースは少なくないと思います。
男性にお願いしたいのは、もしもあなたのパートナーが何か夢や目標を持っているとしたら、ぜひ支援をしてほしいということです。週に1回だけ、保育園のお迎えを引き受けるだけでも全然違います。寝かしつけにトライするときには、「うちの子、ママじゃないと寝ないんです」とすぐに諦めないでください。本気で念じれば、必ず寝てくれますから(笑)。
実は、私の夫の大地も、出会った頃は「結婚する女性は家庭的な人がいい」と言うタイプでした。付き合った私がバリキャリな生き方を志向したので、徐々に結婚観が変わっていったのだと思います。出会いや経験や意識によって、人は変われるのだと彼が証明してくれています。
このインタビューのように、いろんな夫婦のありかたをシェアできる機会が広がっていくといいですね。
(▼夫編はこちら)