トヨタと合弁も。日本のEVバスを席巻する、中国発の電気自動車メーカー「BYD」の戦略【脱炭素とはなにか#2】

表紙

深センの町を走る電気バス。

Shutterstock/StreetVJ

深刻だった大気汚染対策に国を挙げて取り組み、今や世界トップクラスの「電気自動車(EV)大国」となった中国。

北京、上海、深センといった大都市では、充電設備などのインフラを整備し、EVの普及を促進している。

公共交通車両であるバスやタクシーのEV化も進んでおり、深センではすでに数年前から100%がEVになっている。

この車両を供給しているのが、深センに本社を置くEVメーカー、BYDだ。

日本ではまだ馴染みが薄いかもしれないが、BYDはコロナ禍の煽りを受けた2020年にも販売車数が世界で40万台を超えるなど、アメリカのテスラと世界トップを争うEVメーカー。

2020年にはトヨタ自動車と中国国内に合弁会社を設立し、2021年には、日野自動車とも商用EV開発に向けた新会社の設立を予定するなど、日本での注目度も高まっている。

特集「脱炭素とはなにか #2」では、BYDが今、なぜ注目されているのか。さらに、どのように自治体から信頼を勝ち取り、EVバスの普及を進めているのかを、日本法人への取材をもとに深堀りする。

なぜ? 中国発のEVバスが日本各地を走る理由

深センの町を走る電気バス

深センの町を走る電気バス。

Shutterstock/StreetVJ

日本法人であるBYDジャパンは2005年に設立された。

BYDはそもそも、電池メーカーを母体に急成長を遂げたEVメーカーで、完成車だけでなく、電池から半導体、モーターまでEVに必要なあらゆる製品を幅広く手掛けている。

日本国内で最初にBYD製のEVバスを導入したのは、京都議定書が採択された地である「京都」だ。

「日本は保守的な国民性もあり、いきなりコンシューマー向けに参入しても成功は難しい。まず公共交通でしっかりと信頼を獲得したいということで、温室効果ガス削減に対する世界会議のあった京都からスタートを切りました」

BYDジャパンの花田晋作副社長は、日本国内での戦略をこう語る。

花田副社長

BYDジャパンの花田副社長。

提供:BYDジャパン

バスは主に週末に利用される自家用車と違い、長ければ毎日のように100キロ以上もの距離を走行している。

過酷な使用環境で走行実績を積むことができ、さらに周辺住民の目に触れ、利用してもらうことで、EVへの信頼を高めることができる……BYDのこの戦略は見事に成功した。

2015年、一番初めに京都に大型EVバス5台を納入したのを皮切りに、沖縄、福島、岩手などへと大型・中型EVバスを導入、販売してきた。2020年からは小型EVバスも展開し、上野動物園やハウステンボスなど観光地での利用が広がっている。

2021年4月現在、日本全国で53台のBYD製のEVバスが走っている。

「まずは安心して乗っていただけるように、日本のさまざまな環境への対応とサポートにリソースを集中してきました。真夏の暑さや湿度、沖縄では塩害に対するスキルも蓄積しましたし、東北などの寒冷地では寒さだけでなく凍結防止剤への対策も研究しています。


サポートでは何よりスピードを重視し、部品の取り寄せも含めて48時間以内に対応するという姿勢で信頼を築いてきました」(花田副社長)

このスピード感も顧客からの信頼を勝ち取る大きな要因となった。

「EV特化」の価値

深センのBYD

BYDは中国では乗用車の販売も手掛けている。

Shutterstock/moonfish8

BYDの強みの1つは「EVに特化したメーカー」だということだ。

既存の自動車メーカーがEVを開発しようとした場合、「エンジンをモーターに置き換える」という発想が前提となりがちだ。最初からEVを前提に設計されたBYDの車両では、そもそも構造が大きく異なる。

「我々の大型バスは各ホイールにモーター備えた『インホイールモーター』を採用しています。そのため、走り出しがスムーズで坂道でも馬力が落ちないといったメリットがある」(花田副社長)

電化したことでエネルギー効率も変わる。車種によって差はあるものの、燃費(電費)は少なくともガソリン車に対して3割程度は安くなる見込みだ。

BYDのもう1つの強みは「ワンストップ」であること。

電池から半導体、モーターまで主要部品をすべて自社で手掛けているため、開発コストを抑えられるだけでなく、システムのアップデートなどもスムーズに行える。もし何かトラブルが生じても原因を素早く特定して対策できる。

トラブルが発生した際に「48時間以内のスピード対応」を実現できたのも、ワンストップのなせる技と言える。

バッテリーなどの部品はモジュール化されているため、たとえ劣化したとしてもまるごと交換することなくメンテナンスが可能だ。

「日本でEVが走らないのは逆に不思議」

久喜市内を走るBYDのEVバス

埼玉県久喜市内を走るBYDのEVバス。

撮影:三ツ村崇志

EVの普及において課題となっている「充電器」についても、BYDはEUで採択されている「タイプ2」規格の製品を手掛けているほか、多くの知見がある。

「自社製の充電器設置だけでなく、地域の電力会社や新電力会社を紹介させていただくなど、さまざまなアドバイスやコンサルティングをさせていただいています」(花田副社長)

充電器などの設備や管理システムをパッケージ化してバス会社の初期投資を軽減し、EV化を推進するための実証実験もスタートしている。

国内では電気自動車の充電設備不足が課題となっている中、同社ではこうしたメリットを丁寧に説明するとともに、日本の環境に対応するノウハウやスキルの蓄積と走行実績を積み重ねて、国内市場を開拓してきた。

そんな中、2020年10月には菅義偉首相が所信表明演説で「2050年までにカーボンニュートラル」と宣言し、潮目が大きく変わった。

花田副社長は具体的な数は言えないとしながらも、地方公共交通などからBYD製のEVバスの導入についての相談件数が増加しているという。

「そもそも日本には世界最高クラスの電気供給網があります。これだけのインフラが整っているのに、EVが走らないのは逆に不思議なこと。


EVバスにはCO2の削減効果だけでなく、災害時に冷暖房の整った休憩場所を提供したり、避難所などに電力を供給するなど地域貢献ができるというメリットもあります」(花田副社長)

BYDに先行許す、国内自動車メーカーの立ち位置

三社連携

2021年3月24日、日野自動車、トヨタ自動車、いすゞ自動車3社が、小型トラック領域を中心に商用事業で協業に取り組むことを発表した。写真は左から日野の下義生代表、トヨタの豊田章男代表、いすゞの片山正則代表。

提供:日野自動車

中国にとどまらず、日本でもEVバスで存在感を発揮しているBYDだが、今後特に注目となるのは日本国内での他社メーカーとの関係性だ。

3月24日には、トヨタ、日野、いすゞの3社で小型トラックを中心に自動運転や電動化技術を導入する新たな取り組みを発表。とりわけ日野自動車はBYD本社とも提携しており、もともとBYDの技術を使ってバスやトラックといった大型商用車の電化を進める方針を示していた

日野自動車の広報は、BYD本社との提携とトヨタらとの連携の枠組みの関係について、

「BYDとは、EVの普及促進に向け、まずは商用EVの開発協業を皮切りに、個別のEV開発を中心に協力していきます。

CJPT(トヨタ、いすゞとの連携)では、小型トラックにおけるEV/FCV(燃料電池自動車)、自動運転技術、電子プラットフォームの共同開発、共通のコネクティッド基盤の構築、商用車ソリューションの検討などに取り組みます。CJPTの技術をBYDの協業の中で活用していくことが、お客様・社会へのより大きな価値提供に繋がるのであれば、前向きに検討していきます

と語った。

なお、BYDと連携して開発する商業車の車種や発売時期、地域などについては「詳細は控えさせていただきますが、お客様のニーズに応じ最適な製品を開発し、可能な限り早く市場に導入していきます」と回答。BYDジャパンとの関係性についても、「お客様のメリットを最優先に」という表現に留めた。

進化するEVで、公共交通が変わるか

自動車のEV化はカーボンニュートラルの実現とともに、自動運転など未来のモビリティを考える上でも欠かせないものになりつつある。電気モーターはエンジンよりも制御がしやすいこともあり、EVと自動運転は、互いの進化を推し進めあう関係性となっている。

BYDはソフトバンク子会社のSBドライブと提携し、ANAが羽田空港で試験運用する自動運転バスに車両を提供するなど、すでに自動運転についても日本国内での取り組みを進めている。

バス運転手の高齢化や、過疎地で高齢者の足の確保問題。地方が抱える課題に対する解決方法の提示も、今後国内の公共交通機関においてEV化を推し進める際のポイントになるかもしれない。

(取材・文、太田百合子、取材・三ツ村崇志


太田百合子:フリーライター。パソコン、タブレット、スマートフォンからウェアラブルデバイスやスマートホームを実現するIoT機器まで、身近なデジタルガジェット、およびそれらを使って利用できるサービスを中心に取材・執筆活動を続けている。

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