画面をじっと見ているビデオ会議に疲れた……そんな人にオススメのツールが「Around」だ。
撮影:小林優多郎
在宅ワークが始まって約1年が経ち、最近あちらこちらから「Zoom疲れ」という言葉が聞こえてくるようになった。
会議の時間だけならまだしも、以前ならちょっとした立ち話や、デスク周りに集まって話せば済んだような打ち合わせまで、面と向かってやる必要があるのか……。
そんな「Zoom疲れ」の風潮に後押しされるかのように、人気急上昇中の新興ビデオ会議ツールが、アメリカのスタートアップ・Teamportが手がける「Around」だ。
現在はベータ版として無料で提供されていて、ユーザー登録すれば誰でも利用できる。macOS Mojave(10.14)以降、Windows 10用にアプリを提供するほか、機能は制限されるもののGoogle Chrome上でも動作する。
画面上にさりげなく自分や相手を表示できる
「Floating mode」では、フローティングウィンドウのように作業中のウィンドウの上に、丸く切り抜かれた参加者の顔を重ねて表示できる。さらに小さくすればアイコンサイズに。
画像:筆者によるスクリーンショット。
その最大の特徴は「Floating mode」と名付けられた、参加者の表示方法にある。顔を丸く切り抜いて作業中の画面上に重ねて表示でき、サイズの縮小も自在。まるでアイコンのようにさりげなく表示できる。
顔を認識して自動的にズームアップし、多少頭を動かしてもカメラのフレーム内であればちゃんと追随してくれる仕組み。バーチャル背景はないが、顔がアップになっているので背後はほとんど映らない上に、さまざまなフィルターで加工もできる。
顔は自動的にズームアップされる。強めのフィルターを重ねれば背景はほぼ気にならなくなる。相手の表情はわかるものの、面と向かっている感はかなり薄れる。
画像:筆者によるスクリーンショット。
表情やリアクションは分かるが、画面に占める面積の小ささとフィルターのおかげで、面と向き合っている感が少ない。さらに最近のアップデートで、自分の顔を自身の表示だけオフにできる機能も追加された。
互いの顔をしっかり見て話したいときには、参加者が円状に表示される「Campfire mode」を選択できる。
チャットや挙手、さまざまなリアクション機能もある。チャットに投稿すると顔の下に、一定時間フキダシのように表示される。
画像:筆者によるスクリーンショット。
挙手やアイコンのほか、 Instagramのストーリーなどでおなじみの「GIFスタンプ」を使ったリアクションも表示可能。チャットで書き込んだメッセージが、まるでフキダシのように自分の顔の下に表示されるのも新鮮だ。
ノイズ除去、議事録作成・共有、写真/画面共有も使える
「Campfire mode」では、画面上に参加者の顔が円状に表示される。現在は30人までのミーティングに対応。なお同じ場所にいる人は自動的に判別して、「EchoTerminator」が適用される。
画像:筆者によるスクリーンショット。
さらに特許出願中だという独自の信号処理技術「EchoTerminator」により、複数の人が近い場所から参加してもハウリングしないなど、音質にもこだわっている。
実際に同じ部屋にいる人と一緒に参加してみたが、ハウリングはもちろん、声が2重に聞こえることもなかった。ノイズもうまく処理されているのか、タイピング音などもほとんど気にならない。
クラウドドキュメントのように、複数人で編集作業が可能。誰が編集しているのか名前が出て確認できる。編集したドキュメントは、ミーティング終了時に参加者にメールで送信される。
画像:筆者によるスクリーンショット。
クラウドドキュメントやフォトアルバムのように、参加者が一緒に作業できる環境が充実しているのも、ほかにはない特徴。
「Notes」ではドキュメントを一緒に記入、編集でき、作成したドキュメントはあとからメールで受け取れる。
「Image Sharing」では写真をドラッグ&ドロップで互いにアップロードし、アルバムのように表示できるほか、ダウンロードも可能。
それぞれが写真をアップロードして、アルバムのように表示することができる。誰がアップした写真かわかるようになっているほか、ダウンロードもできる。
画像:筆者によるスクリーンショット。
さらに「Screen Sharing」では画面を共有できるだけでなく、許可すればその画面を他の参加者にも一緒に操作してもらえる。
隣の席の同僚と共同で作業をする感覚に近い
「New Meeting」ですぐにミーティングを開始したり、先々のミーティングをスケジュール設定することが可能。スケジュールはGoogleカレンダーとも連携できる。Slackにアプリを追加すると、ワークスペースのメンバー向けのルームが自動生成される。
画像:筆者によるスクリーンショット。
まだ、ベータ版とあって動作はサクサクとはいかず、不安定なところもあるが、誰かが一方的にプレゼンしてみせるような従来のビデオ会議ツールとは、明らかに異なる思想でつくられていることが分かる。
Zoomが会議室で顔をつきあわせての会議だとすれば、Aroundはチームのメンバーとデスク越しに話すような距離感でブレストをしたり、隣の席の同僚と共同で作業をする感覚に近い。
つなぎっぱなしにしていても邪魔にならないので、常にチームメンバーの存在を感じながら作業をするような使い方もできそうだ。
実際に、シンプルにルームのURLを共有するほかに、登録したメンバーがいつでも集まれるチーム用のルームを設けたり、Slackと連携して、ワークスペースのメンバーが自由にアクセスできるルームを自動生成する機能なども実装されている。
チームメンバーを登録して、メンバーがワンクリックでいつでも参加できる固定のルームを作ることもできる。ゲスト用URLも発行できるなど、使い勝手が良い。
画像:筆者によるスクリーンショット。
TeamportはシリーズAラウンドで、Slackファンドなどから1000万ドルの資金を調達。サイトには「Zoom out.」という挑発的な一文とともに「創造性を阻む疲れからの解放」が掲げられていて、実際にZoomの対抗馬として注目する向きも多い。
オフィスとリモートのハイブリッドが当たり前になれば、同じ場所からアクセスしてもハウリングしない「EchoTerminator」が大きな武器となる可能性もある。Slackとの連携強化も含めて、今後要注目のサービスであることは間違いないだろう。
太田百合子:フリーライター。パソコン、タブレット、スマートフォンからウェアラブルデバイスやスマートホームを実現するIoT機器まで、身近なデジタルガジェット、およびそれらを使って利用できるサービスを中心に取材・執筆活動を続けている。