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900万人以上が体験した「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」。今こそ企業研修に取り入れるべき理由

個性の異なるさまざまな人材を取り入れて 「ダイバーシティ」な環境をつくっても、生かせなければ意味がない。違いや個性をビジネスに生かし、成長につなげるにはどうしたらいいのだろうか。

2020年11月27日に開催された「MASHING UP Conference vol.4」では、「ダイバーシティとビジネス、人を生かし成長させる事業」と題したトークセッションを開催。

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登壇者は、セガサミーホールディングスのCSR・SDGs推進副室長で障がい者雇用に取り組む一木裕佳氏、自身も聴覚障がい者であり、ダイアログ・ミュージアム「対話の森®」でダイアログ・イン・サイレンスのアテンド(案内人)を務める松森果林氏、企業内のダイバーシティ研修でも活用されるダイアログ・イン・ザ・ダークの日本開催を主宰する代表の志村真介氏。Glossy Japan編集長の山岸祐加子がモデレーターとなり、D&Iとインクルージョンのあり方について語り合った。

個人差を理解して活躍の場を作る「EQUITY」

セガサミーホールディングス株式会社 CSR・SDGs 推進室 副室長 / セガサミービジネスサポート株式会社 代表取締役社長 一木 裕佳氏

セガサミーホールディングス株式会社 CSR・SDGs 推進室 副室長 / セガサミービジネスサポート株式会社 代表取締役社長 一木 裕佳氏。

一木氏はセガサミーホールディングスでCSR・SDGs推進室 副室長を務めるとともに、セガサミーグループ特例子会社のセガサミービジネスサポート株式会社の代表取締役社長を務め、障がい者雇用をグループ全体に推進する仕事に従事している。

「当グループでは、主に遊技機事業、エンタテインメントコンテンツ事業、リゾート事業を展開しており、グループ全体で約200人の障がいのある社員が活躍しています。 私が代表を務める特例子会社では、宮崎事業所と東京事業所がありますが、宮崎事業所はフェニックスシーガイアリゾートのランドリー・クリーニング事業を運営しており、リゾート運営になくてはならない存在として、社員たちによる質の高い仕事は大変好評をいただいています。

また、セガサミーグループは雇用だけではなく、障がいのある方々の活躍を積極的に支援する取り組みも進めています。パラノルディックチームの支援のほか、ゴールボールの欠端瑛子選手は当社の総務部の社員ですし、大崎本社におけるアウトサイダーアート展の開催、オンラインのバリアフリーeスポーツ大会なども実施しています。

セガサミービジネスサポートでは、毎日能力開発の時間を設けており、パソコントレーニングやeスポーツ、セガトイズの玩具を活用した創作活動やアート、作文、計算など幅広い領域に渡るメニューを揃え、障がい者社員のキャリア開発と基礎能力の向上に力を入れています 」(一木氏)

その背景には、「まず、グループのトップである里見自身が強い想いを持っているということがあります」と一木氏は強調する。

障がい者を区別も差別も特別扱いもしない。多様な人財がそれぞれの長所や得意分野を活かして活躍できる機会を提供していくという、健常者の社員に対するものと同様の考えを持って取り組んでいます」(一木氏)

社内でもよく言及されるのが、“個人的な差は鑑みず、皆にただ平等のリソースを分け与える”というEQUALITYではなく、“個人差をきちんと考慮して、それぞれに見合ったリソースの配分をする”EQUITYの考え方だ

多様な人たちが多様な場所で活躍できるように、障がいのある社員の活躍の場を作るのが私の仕事です」と一木氏は言う。

障がい者だから「こそ」できることがある

DIALOG IN THE DARK JAPAN 代表 志村 真介氏

DIALOG IN THE DARK JAPAN 代表 志村 真介氏。

多様性を受け入れ、それぞれが能力を生かして活躍する社会は、誰から見ても望ましいものに思えるだろう。それにもかかわらず、「なぜ障がい者雇用が進まないのでしょうか?」と志村氏は問題提起する。

障がい者だから……というとき、我々は相手に期待していないことから自然と語尾が下がります。しかし、その視点を変える伝家の宝刀があります。それは、“こそ”の2文字を加えることです」(志村氏)

東京・竹芝にオープンした「ダイアログ・ミュージアム対話の森®」では、視覚障がい者・聴覚障がい者・後期高齢者の人たちがアテンド役(案内人)となり、体験を通してネガティブなイメージをポジティブに覆していく。

SDGsをクリアして豊かな未来をつくっていくためには、対等な関係に基づく対話が必要です。だから、ここで行っているプログラムは障がい者の擬似体験ではありません。 エンターテイメントとして楽しんでもらい、体験した一人ひとりが日常に戻った時に、社会を変えていくためのプラットホームです 」(志村氏)

対話の森®では、障がい者が健常者を助ける側となる。雇用条件は目が見えないなど「障がいを持っていること」。ここでは、障がいを障害ではなく能力として捉えている

「かつて哲学者のマルティン・ブーバーが言ったように、私たちが唯一、学ぶ方法は“遭遇”することです。どちらが強い、弱いではなく、対等な立場でお互いに影響されるモデルを作りたいと思っています」(志村氏)

光や音のないコミュニケーションで感覚を研ぎ澄ます

ダイアログ・ミュージアム「対話の森®」ダイアログ・イン・サイレンス アテンド 松森 果林氏。

ダイアログ・ミュージアム「対話の森®」ダイアログ・イン・サイレンス アテンド 松森 果林氏。ダイアログ・イン・サイレンスの日本版の企画監修およびアテンドを務めている。

ダイアログ・イン・ザ・ダークは、ドイツで1989年に生まれた、社会を変革させるためのプロジェクトだ。漆黒の暗闇の中に8人程度で入り、さまざまな体験をする。案内人は視覚障がい者だ。これまでに世界50カ国で約900万人以上が経験し、その効果を実証している。

一方、ダイアログ・イン・サイレンス、1998年にドイツで始まったもので、音を遮断するヘッドセットをつけ、無音の空間の中、表情やボディランゲージだけで90分間、さまざまな対話を楽しむ。音のない空間を導くのは、聴覚障がいのあるアテンドだ。このダイアログ・イン・サイレンスの日本版の企画監修およびアテンドを務めるのが、小学4年で右耳を失聴し、中学から高校にかけて左耳の聴力も失った中途失聴者である松森氏だ。

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Shutterstock

私の強みは聞こえないことです。聞こえる世界、聞こえにくい世界、聞こえない世界の3つを体験していることから、社会を変えるアドバイスができるのです。障がいというとマイナスのイメージがあるかもしれませんが、視点を変えると価値観が変わります。視点を増やすことで世界が広がるのです」(松森氏)

ダイアログ・イン・サイレンスに参加した山岸は「話せないと、表情や身振りなど、いろんなことでコミュニケーションを取らなければいけないということがわかったと同時に、日々とてもラクをしてしまっていたのだな、と思いました」と振り返る。

「そうですね。目を見開いたり細めたり、首を傾けたりなど、言葉以外で伝える方法は無限にあります。この会場でも、向いの席の方と目と目を合わせるだけで、ずいぶん雰囲気が和やかになりますよね。このご時世でも、伝えたいという気持ちがあれば、マスクをはみ出す想いを伝えることができるのです。ダイアログ・イン・サイレンスは、もともと感情表現が少ない日本でこそ必要なソーシャルエンターテイメントだと思います」(松森氏)

助け合いの精神が生産性向上とストレス改善につながる

「ダイバーシティとビジネス、人を生かし成長させる事業」セッション中の様子

こうした「対話」の取り組みは、企業研修にも取り入れられている。これまでに600社以上が導入したダイアログ・イン・ザ・ダークの企業研修では、チームに信頼関係が生まれ、ストレス度が下がるという医師による研究結果もあると志村氏は言う。

「“人なんて信用できないもの”だと思っている人のほうが、ストレス度は高いのです。ダイアログ・イン・ザ・ダークでは暗闇ですから、コミュニケーションを取って協力をしなければ打開できません。助け合う機会を持つことで、個人としても、チームとしても成長することができる。それが生産性の向上やストレスの改善にも結びついていることがわかったのです」(志村氏)

さらに、ダイアログ・イン・ザ・ダークの企業研修では、伸びている組織に共通点があるという。「成長しているチームは、暗闇でのワークごとにリーダーが変わる傾向があります。一方、停滞しているチームでは、リーダーが固定されていて、当然、うまく解決できない課題も出てくのですが、誰もそれに対応することができないのです」と志村氏は指摘する。

コロナ後やAI時代の「得意を伸ばす障がい者雇用」

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(写真はイメージです)

Shutterstock

対話の森のアテンドたちは皆、何らかの障がいを持っている。その状況に対し、志村氏は「彼らを“障がい者”だと思ったことはないんですよ。私たちも年齢を重ねれば、見えにくくなったり、聞こえづらくなったりします。彼らはそれを先に経験している先達なんですよね」と指摘する。

「今のコロナ禍で、人々は動きづらくなって唖然としています。しかし、普段から動きづらさを感じている障がい者にとってはそれが当たり前だから、知恵があるのです。つまり、今、障がい者雇用をクリアしている企業は、生き残る手立てが社内にあるのです。彼らと話すことで、解決策が見い出せるはずです」(志村氏)

これには一木氏も同意し、「同質性が高い組織って、会議でも質問が出ずに終わることがいいことだと考える風潮がありますよね。しかし、異なる背景を持っている人たちが集まれば、必ず違う視点があって、質問が出てくるはずです。いろんな人がいて、異なる意見を言い出しやすい空気を作ることが重要です」と加えた。

後半の質疑応答では、「障がい者雇用は人材・部署・資金など、どこから手をつけたらいいでしょうか? 」という質問に対し、「迎え入れる職場の人にダイバーシティの考え方をしっかり理解してもらうこと。

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そして、最初に仕事ありきではなく、その人に実際に会って、できることを見た中で、仕事を作っていくことだと思います」と一木氏。「そのためにも、面接ではできないことよりも、できることを聞くべきです」。

これからの近い未来には、多くの仕事がAIに奪われていく。だからこそ、障がい者の仕事も一律ではなく、それぞれの特性を生かした仕事を作っていくべきだという。

「障がいがあるといっても、一人ひとり状態が違っていて、それは知れば知るほど面白いものです。どうすればいいのかを共に考えて、楽しめる企業が伸びていく時代だと思います」と松森氏。

ダイバーシティをビジネスに生かしたいと考えるリーダーは、まず、対話の森®でダイアログ・イン・ザ・ダークやダイアログ・イン・サイレンスを体験してもいいだろう。対話によって新しい世界を垣間見ることで、この先、どうしていくべきかを体感として理解できるのではないだろうか。

「対話の森®」存続のクラウドファンディング

対話を楽しむ体験型ミュージアム「対話の森®」。視覚障がい者や聴覚障がい者、高齢者の案内のもと、エンターテイメントを通し、人が出会い遊び、学びのある場所です。コロナ禍で分断が進むいま、この対話をとめないために、ミュージアム存続のクラウドファンディングがスタートしています。詳細はこちらから。ダイアログ・ミュージアム「対話の森®」

MASHING UPより転載(2021年02月25日公開


(文・中島理恵)

中島理恵:ライター。神戸大学国際文化学部卒業。イギリス留学中にアフリカの貧困問題についての報道記事に感銘を受け、ライターの道を目指す。出版社勤務を経て独立し、ライフスタイル、ビジネス、環境、国際問題など幅広いジャンルで執筆、編集を手がける。


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