NPO法人キッズドアが今春、大学受験を終えた高校3年生(当時)とその保護者にアンケート調査を行ったところ、経済的な理由で1校しか受験できなかった学生が7割にのぼることが分かった。中には大学入学共通テスト代が払えず受験を諦めた学生もおり、コロナ禍の大学受験はこれまでより一層、「経済力=学力」の様相を呈していた。
奨学金を大学受験料に
NPO団体の調査からは、コロナ禍の困窮家庭の大学受験の逼迫した現状が浮き彫りになった(写真はイメージです)。
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2021年4月13日、困窮家庭の教育・居場所支援を行っているNPO法人キッズドアが文部科学省(東京都千代田区)で会見を開いた。同団体は2020年10月、認定NPO法人キッズドア基金と協力し、クラウドファンディングなどで募った資金を元に、全国の生活困窮家庭の高校3年生284名に大学受験のサポート(奨学金)として5万円の現金支給を行った。
奨学金を受け取った家庭の83%はひとり親世帯で、世帯年収200万円未満の家庭が58%を占める。
NPO法人キッズドアが2021年2月から3月にかけてその対象者にアンケートを取ったところ、高校3年生(当時)119件、保護者193件から回答が得られたという。以下にその結果を紹介する。
奨学金の使い道として最も多かったのは受験料(25%)。次に参考書・テキスト代(18%)、入学金(13%)と続いた。
進学を諦めようと考えた学生は5割
出典:NPO法人キッズドア「2020 年受験サポート奨学金 生徒・保護者後追いアンケート結果」
高校卒業後の進路としては77%が進学してはいるものの、経済的な影響で「受験する大学の数を減らした」(58%)と回答する人も多く、実際、受験した学校数は「1校」が71%にのぼった。
他にも「予備校・塾に通えなかった」(51%)、「進学を諦めようと考えたことがある」(51%)人も多かった。
「受験料が用意できないので、1校1受験しかチャンスがなかった」
「授業料が安い大学を選んだ」(アンケートの学生の声より)
中には、大学入学共通テストの受験料が払えず諦めたという学生もいた。
「大学共通テスト※2万円は負担があり過ぎます。みんながみんな親が払ってくれるということではありません。子どもが払う場合も少なくありません。私には高くて、大学共通テストを諦めました」
「せめて共通テストは無償にして欲しい。受験料が払えないと受験資格すらないのは辛いです。(浪人予定)」(アンケートの学生の声より)
※大学入学共通テストは3教科以上を受験する場合は1万8000円かかる。
コロナで“課金と情報戦”にさらなる格差
家で勉強できる環境が、全ての学生に整っているわけではない(写真はイメージです)。
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キッズドアの奨学金を受け取った学生の多くは、金銭的な理由から塾や予備校に通えないことが多いが、さらにコロナによる休校に加え、図書館が閉鎖になったことで、追い込まれていた。
「勉強をする環境はとても大事で、『家があるだろう』と言われるが、すべての人が自分の部屋を持っているわけではないし、静かな環境とも言えない」
「学校が休みで授業も進まず、先生に相談したくてもできず、心配だった」
「コロナ禍でも予備校に通っている友達は『12時間以上勉強している』一方で、何もできずにいた」
「受験は『課金と情報戦』の部分もあり、(塾や予備校に通っている学生との)格差が大きく、クラスメートの話を聞いて愕然とすることもあった」(アンケートの学生の声より)
進路未定で引きこもりを心配する保護者も
出典:NPO法人キッズドア「2020 年受験サポート奨学金 生徒・保護者後追いアンケート結果」
これまでより一層、「経済力=学力」の様相を呈しているコロナ禍の大学受験。
一方、大学に進学する人だけではない。浪人(14%)、就職(6%)、未定(3%)の人もいた。
浪人、未定の学生や保護者からは悲痛な声が届いている。
「作戦を練るには、全くのひとりで戦っていくことには限界があったと痛感した。予備校や塾などのプロのアドバイスや情報が入手できた人しか合格を勝ち取れないような仕組みは、経済力がある人しか大学に進学できないことに繋がっていて、納得できない」(学生)
「全部不合格だったため、今後の進路が決まらず毎日喧嘩の日々です。浪人させる余裕もないため、大学は諦めてもらうしかありません。引きこもりになる気がして、このまま放置していてよいのかとても悩んでいます」(保護者)
就職を選んだ人の中には、コロナ不況で進学を諦めざるを得なかった人も少なくない。
「コロナで家がしんどいので就職に決めた」
「コロナ禍で就職して生計を立てることを優先した」
「経済的な理由で進学を諦めるのは辛い」(アンケートの学生の声より)
共通テストの無償化や児童手当の延長を
文部科学省で会見するNPO法人キッズドア代表の渡辺由美子さん。2021年4月13日。
出典:NPO法人キッズドア
キッズドア代表の渡辺由美子さんは、困窮しているのは同団体が奨学金を支給した約300人だけではないと言い、以下のような公的支援の必要性を訴えた。
・大学入学共通テストの無償化(または困窮家庭の高校生が利用できる受験料に使える公的支援)
・児童手当を中学卒業時から高校卒業時までに延長
・困窮子育て家庭は無料や低額でネットが使えるようにするなどオンライン環境の整備
・家庭以外の学習場所の確保(公共施設を無料で解放するなど)
これらに加えて、浪人することになった学生への支援も重要だ。
「入試制度が複雑化・多様化する中で、塾や予備校で適切な情報やアドバイスをもらえる子どもと比べ、一人で勉強と情報収集をしなければならない困窮家庭の子どもは大きな不利があります。塾や予備校に行けない浪人生を孤立させないために、出身高校がフォローをする、NPOが支援を行うなどの仕組みが必要です」 (渡辺さん)
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(文・竹下郁子)