電気自動車(EV)向け車載電池の原料として注目されるリチウム。その採掘現場でイノベーションが起きようとしている。
出所:Piedmont Lithium 'LITHIUM–MADE IN THE USA' (November2020)
来たるべき電気自動車(EV)シフトに備え、自動車メーカー各社が手ごろな原料の確保に動くなか、電池市場とそのサプライチェーンでの競争が激化している。
最も熱い視線を浴びているのがリチウムだ。EV向け車載電池の主原料となる金属だが、採掘には危険が伴う上に、環境にも悪影響をおよぼすなど、いろいろと問題が多い。
チリやアルゼンチン、オーストラリアなど世界のリチウム資源が集中する国々での採掘は、社会経済的にネガティブな影響をもたらす。
さらに、採掘プロセスにはきわめて大きなコストがかかる。鉱区と電池メーカーの製造拠点が海を隔てて離れている場合はなおさらだ。
そうした状況なので、既存の企業やスタートアップから、リチウムの採掘・使用・再利用に関する新たな手法が次々と生み出されていることに特段の驚きはない。
リチウム産業をカバーするコンサルタントで、米ゼネラル・モーターズ(GM)の研究開発責任者を務めたローレンス・バーンズはこう指摘する。
「採掘分野ではこれから大きなイノベーションが起こるだろう。世のなかに需要があり、エンジニアがその需要を満たす機会を見い出せば、爆発的なイノベーションは起きる。いままさにEV向けの電池需要が沸き起こり、それを満たすためにリチウム採掘の周辺でそうしたイノベーションが起きようとしている」
「採掘場から半径30キロ以内ですべてを完結させる」
この「爆発的イノベーション」の一翼を担うスタートアップが、ピードモント・リチウム(Piedmont Lithium)だ。
米ノースカロライナ州に鉱区を持つピードモント・リチウム(Piedmont Lithium)の紹介動画。キース・フィリップス最高経営責任者(CEO)も登場。
出所:RedChip Companies YouTube Official Channel via Piedmont Lithium website
ここまで1080万ドル(約11億5000万円)を調達し、すでに電気自動車大手テスラ(Tesla)と5年間にわたる販売契約を締結した同社は、アメリカ国内でリチウムを採掘することで、同国内の電池メーカーや自動車メーカーまでの輸送コストを切り詰めようとしている。
ピードモントのキース・フィリップス最高経営責任者(CEO)は、Insiderの取材に対し、アメリカでの採掘にこだわる理由をこう語った。
「結局のところ重要なのは、どこでやるかだ。当社はノースカロライナ州に採掘拠点を置くことで、他の採掘事業者よりコスト面で大きな優位性を保っている。ほかには真似できないロケーションに、高品位の鉱床を有していることで、営業面でも高い競争力を発揮できる。我々はノースカロライナ州で、しかも採掘場から半径30キロほどの範囲ですべてを完結させる」
ただし、フィリップスCEOが同社に優位をもたらすと考えているのは、国内での立地だけではない。
ピードモントは2021年の第2四半期(4〜6月)を充てて、水の使用量、土地の利用法、輸送方法の周囲への影響などを調査してカーボンフットプリント(=採掘プロセス全体を通じて排出されるすべての温室効果ガスをCO2に換算した量)を調査する計画だ。
同社はできるだけ環境に優しい形でリチウムを採掘・使用すると宣言しており、太陽光発電の導入や、ディーゼル車を使ったトラック輸送を電動式コンベアシステムに切り替えるなどしてカーボンフットプリントの削減に取り組んでいる。
「当社は世界で最も温室効果ガス排出量の少ないリチウム採掘企業を目指している。そのためには太陽光発電を最大限活用することが不可欠。我々が本拠を置くノースカロライナはカリフォルニアに次ぐ全米第2のソーラーステート(=太陽光発電の導入が進んでいる州)だ。
当社も敷地内に太陽光発電設備を設置し、リチウム濃縮プラントで使う全電力をまかなっている。現在そこまでやっている(採掘企業)は、世界でも我々だけではないか」
(翻訳・編集:川村力)