無料のメールマガジンに登録

平日17時にBusiness Insider Japanのメルマガをお届け。利用規約を確認


Netflixが公開、もはやロケでもない「撮影現場のDX」…次世代スタジオ潜入

東宝スタジオ

ネットフリックスのバーチャルスタジオ技術の説明会は東京・砧にある東宝スタジオで開かれた。

撮影:西田宗千佳

スタジオに設置された4Kテレビには、あるシーンが映し出されていた。グランドキャニオンを思わせる、広大な自然の中でキャンプをする二人の男女の姿だ。

こうした映像を、コロナ禍で難しくなったロケを使わず、グリーンバックの古典的CG合成を使うわけでもなく、しかし「バーチャルなセットで作られている」と聞いて、驚く人は多いのではないだろうか。

スタジオ1

夕闇の中でキャンプをする二人の男女。雄大な景色の中での撮影に見えるが……。

撮影:西田宗千佳

実際、この映像は筆者の目の前で、「スタジオで撮影された」映像だ。言葉で書くとにわかに信じがたいが、オペレーターがちょっと操作すると、背景は夕方から昼間へと変わり、山の位置まで変化してしまった……。

スタジオ2

実は巨大なLEDディスプレイの前で演技して撮影した「バーチャルプロダクション」。

撮影:西田宗千佳

シーン撮影

背景はCGなので、同じセットで昼間のシーンも自然に撮影できる。

撮影:西田宗千佳

これが、「バーチャルプロダクション」「インカメラVFX」と呼ばれる、最新の映像制作技術だ。

ネットフリックス作品やハリウッド映画の一部で使われ始めている、まさに最新のテクノロジー。

ロケ地に行かなくても、クオリティを落とさずにリアルなシーンを撮影するためのテクニックであり、ネットフリックスは日本での実写ドラマ制作を加速しており、その武器の一つがバーチャルプロダクションのノウハウだ。

だが、今回技術公開を行った背景にあるのは、単純に「ネットフリックスのドラマを増やす」だけでない意味合いが込められていた。映像業界の働き方を積極的に技術革新で変えることで、自分たちとパートナーの関係を良いものに変える発想から生まれている。

国内映像制作者を広く集めて最新技術を解説

東宝スタジオ

説明会の会場となった東宝スタジオ。

撮影:西田宗千佳

ネットフリックスは4月12〜16日の5日間、東京・砧にある東宝スタジオの第7ステージで、映像業界関係者を集めた説明会を開催している。

集められたのは、国内の映画・ドラマ制作関係者。監督やプロデューサー、撮影監督といった人々だ。「バーチャルプロダクション」技術は、まだ関係者にも馴染みが薄い。

バーチャルプロダクションとは、

  • 背景として高解像度かつ巨大なLEDディスプレイを設置
  • その前にセットを置いた上で、俳優が演技し、撮影する

という撮影手法だ。現地に行かなくてもリアルな映像を撮影できるのが特徴だが、従来のCGを組み合わせた映像制作との違いは、「後処理によるCG合成が不要」というところだ。

色々な事情によってロケが難しいシーン、というのは少なからず存在する。アクション大作では、「背景となる実在の都市がすべてセットとCG」ということも珍しくない。

だが、CG合成には「背景をはめ込んで終わり」では済まない、補正などの後処理の問題がつきまとう。

たとえば、以下の写真のようにグリーンバックの前で撮影すると、車や窓ガラス、俳優の顔などに映り込む緑色の光まで、全部の合成と補正をしなければならない。また、「透明なグラスに入った飲み物を通して見える夜景」のようなシーンをCGで再現するのも、手間がかかる。

撮影風景1

テストのために背景をグリーンバックに。CG合成ではこうした形での撮影が多いが、照り返しなどが多いと修正に手間がかかる。

撮影:西田宗千佳

撮影風景2

バーチャルプロダクションの手法で、背景を海外の実写映像にした例。非常に自然な映像ができ上がっている。

撮影:西田宗千佳

撮影風景3

シャンパングラスを通して見える夜景。こうした映像を「合成」で作るのは大変だが、バーチャルプロダクションなら簡単だ。

撮影:西田宗千佳

しかし、バーチャルプロダクションでは話が変わる。実際の映像やCGで作った映像をLEDディスプレイに流して背景にするので、非常に自然な映像が「後からの合成処理なし」で撮影できる。

bi14

車の映像はこのように、LEDディスプレイで車を囲み、そこに周囲の映像を流して撮影している。

撮影:西田宗千佳

なにより大きいのは、俳優が演技しやすくなることだ。背景映像が見えているので、「今はどこでどんなことをしているか」を把握した上で演技ができる。グリーンバックの場合、それをすべて俳優の頭の中で補ってやる必要があり、想像力・演技力の負担が大きかった。

テクノロジーの中核となるのが、カメラの位置・画角に合わせてLEDディスプレイの映像を変化させる、特殊な仕組みだ。カメラには天井に設置された、被写体の3次元空間上の位置を示す「マーカー」を認識する赤外線センサーが取り付けられ、「カメラが空間上のどこにいて、どちらを向いているのか」が把握できるようになっている。

bi15

カメラには位置を認識するためのセンサーが取り付けられ、映像と撮影者の相対位置が記録されている。

撮影:西田宗千佳

bi06

撮影を制御するシステムコンソール。撮影映像の画角調整や色合わせなど、バーチャルプロダクションに必要なリアルタイム処理はここから集中制御される。

撮影:西田宗千佳

コストも手間もかかる作業でも「コロナ以降」は必須に

とはいえ、作るのは簡単な話ではない。

ネットフリックスのプロダクション・マネジメント部門の小沢禎二氏は、「実際にはコストも時間もかかる手法で、単純な特効薬ではない」と釘を刺す。

今回使われたのは、中国・ROE Visual社のLEDディスプレイ。50cm角のものを400枚使い、5m×15mのスクリーンと4m×6mのスクリーンを中心に、複数の「LEDディスプレイの壁」を作っている。セッティングには、10日以上がかけられた。一般的な撮影向けに構築する場合でも「作業に1週間はかかる」と関係者は見積もっている。

今回のデモのためのセット構築の様子。かなり大掛かりな作業だ。

Netflix Japanの YouTube より

自動車など、乗り物の窓越しに見える「背景」として使う場合には、撮影した2Dの実写映像を、必要な方向の分だけ、組み合わせて使っている。ブレなく高解像度のものを撮り、組み合わせるにも相応のノウハウが必要だ。

先ほどのキャンプの例では、ダイナミックな表現のために背景をリアルタイムCGで作成している。2Dの映像だと大きく動かしたり、時間やライティングを変えたりはできないが、リアルタイムに生成するCGなら、その場で操作できる。一方、3Dモデル制作には相応のコストと時間がかかる。

bi07

テストのために、「撮影で写る」部分だけをグリーンバックに。ここにリアルタイム生成のCG映像が流れ、真に迫った撮影を実現する。

撮影:西田宗千佳

また、こうした形で映像を作るには、事前の検討が欠かせない。撮影前に用意が必要な「素材」が増え、その素材と撮影に合わせたライティングを考え、さらにはセットの側にも工夫が必要だからだ。

「2、3カットだけならグリーンバックのほうが早い」と小沢氏も言う。

「でも、もうこうした手法を使わないとやっていけないし、取り組んで欲しいとも思います。合成が必要なカットが20・30とあるなら、話が違ってくるからです」(小沢氏)

撮影が難しい場所はどんどん増えている。

特に日本は撮影場所に制約が多い。コロナ禍では、多くの撮影スタッフとともに移動するのも難しい。だが、バーチャルプロダクションを使うならば話は変わる。海外のシーンでも、素材さえ用意できるなら国内から動かずに作れるようになるからだ。

実際、ネットフリックスではすでに複数の作品でバーチャルプロダクションが使われている。

シリコンバレー流の「ノウハウは全公開」という発想

映画作品「ミッドナイトスカイ」のプロモ映像では、バーチャルプロダクションを実際に使って撮影している現場風景が収録されている(冒頭19秒付近)。

もう一つ、興味深い点がある。

今回公表されたこれらのノウハウは、「ネットフリックス作品のためだけのもの」ではない、ということだ。

今回のデモはネットフリックスが一部出資して作られたものではあるものの、ネットフリックス1社では構築できていない。LEDディスプレイのサプライヤーとしては「クリエイティブテクノロジーグループ」、CG関連では「デジタル・フロンティア」、撮影や照明では「特殊映材社」が協力している。

そして説明会の最後には、ネットフリックス側よりこんなコメントが出された。

「ご興味がおありの方は、自由に各社にお声がけいただいて構いません。弊社から各社の担当者もご紹介します」

ネットフリックスは積極的に「ネットフリックス以外の作品にも活用して欲しい」と考えているのだ。

ネットフリックスでアジア担当のクリエイティブ ・テクノロジーエンジニアを務める宮川遙氏は、「今回の技術は、ハリウッドを含む他国ですらまだ手探り。それが同時に日本にもやってくるところが面白い」と話す。

そのノウハウやテクノロジーが公開されていくことを、宮川氏は「どちらかというとオープンソース的というか、シリコンバレー的なやり方」と評する。これに限らず、ネットフリックスは制作技術やノウハウの公開に積極的。技術公開用のブログも開設しているほどだ。

「私も最初は戸惑いました。でも、それでいいんです。我々が制作の中で、毎回イチからノウハウの説明をするより、皆さんに広がって一緒に作業ができたほうがスムーズですし」

結果的に、日本の映像制作技術が上がり、「ネットフリックスと組む時のコストが下がる」ことになれば目的は達成、というところだろうか。

編集部より:初出時、「全裸監督・シーズン2」の夜の札幌を車で走るシーンでバーチャルプロダクション技術が使われているとしておりましたが、ネットフリックス側の説明に誤りがあることがわかったため、表現を改めました。 2021年4月15日 18:55

(文、撮影・西田宗千佳

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • LinkedIn
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …

Popular

あわせて読みたい

新着記事

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み