脱炭素の切り札になるか?「核融合業界の『リーバイス』目指す」京大発スタートアップの勝ち筋

「たった1グラムの燃料から、石油8トン分のエネルギーを取り出す」

にわかには信じられないかもしれないが、太陽で起きている「核融合反応」を再現することで、二酸化炭素を出さずに膨大なエネルギーを得ることが可能だと考えられている。

「核融合」とは、原子同士が融合することで全く別の原子へと変わる反応のこと。

この反応を発電などに応用しようと、国際的な枠組みで「核融合炉」の研究開発が進められてきた。

太陽

太陽は、水素原子同士の核融合反応によって生じた熱によって燃え続けている。核融合炉は、地上に太陽を再現する技術だ。

Color4260/Shutterstock.com

その一方で、2000年頃から欧米を中心に核融合炉の開発に携わるスタートアップが続々と立ち上がり、今やその数は40〜50社にものぼっている。

ここ数年で、核融合業界への投資も拡大してきた。

中には、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が投資したGeneral Fusion社や、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が出資しているCommonwealth Fusion Systems社など、数百億円規模の資金調達を実現している企業もある。

日本国内でも2021年1月に、京都大学発の核融合スタートアップ・京都フュージョニアリングが、ベンチャーキャピタルのCoral Capitalや個人投資家らから総額約1.2億円の資金調達を発表。一部で大きな話題となった(累計調達額は3億4400万円)。京都フュージョニアリングも、2019年10月に創業したばかりのスタートアップだ。

なぜ今、世界で核融合が注目されているのか?

京都フュージョニアリングの長尾昂代表と、京都大学の教授を兼任する同社CTOの小西哲之教授に話を聞いた。

核融合技術の技術は「今までと違うステージに到達」

京都フュージョニアリングの長尾昂代表(右)と、京都大学の教授を兼任する同社CTOの小西哲之教授(左)

京都フュージョニアリングの長尾昂代表(右)と、京都大学の教授を兼任する同社CTOの小西哲之教授(左)。

撮影:三ツ村崇志

核融合によって得られたエネルギーを使って発電するという発想は、1950年代にはすでに存在していた。日本では、日本人として初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士などがその研究を推進したことが知られている。

その後、1980年代から国際的な協調が進み、2007年にヨーロッパ、アメリカ、ロシア、中国、日本、韓国、インドからなる「ITER国際核融合エネルギー機構」が設立。2010年には、フランス南部サン・ポール・レ・デュランスに技術実証用の国際熱核融合実験炉「ITER」の建設を開始した。

現在では、2025年の稼働を目指し世界各地から納品される装置の組み立て作業が進んでいる。

ITERは炉の直径が約30メートルもある巨大な装置で、総建設費は約2.5兆円と巨額だ。

一企業、それも誕生したばかりのスタートアップが建設できるような規模ではない。だからこそ、核融合炉の研究開発は国家間プロジェクトとして長い年月と莫大な投資をしながら進められてきたわけだ。

ただし、ITER計画は1980年代から議論され、2000年頃に設計された計画だ。それ以降に発展してきた科学技術は織り込まれていない。

「核融合の業界は2〜3年前とは大きく違うステージにきています。最先端の技術を使うことで、数百億規模で建造できるコンパクトな核融合炉が実現されようとしているんです」(小西教授)

これがここ数年の間に欧米で核融合スタートアップが注目されてきた理由の一つだ。

熱を取り出す技術で「唯一無二」の存在に

ITER

フランスで建設中の国際熱核融合実験炉「ITER」の現場。施設面積は180ヘクタールほど。2020年11月撮影。

画像:ITER Organization/EJF Riche

核融合炉を実現する上で重要なのは、「核融合反応を起こすための工程」「熱を取り出す工程」の2工程。

核融合反応を起こすには、燃料となる重水素や三重水素(トリチウム)を「プラズマ」(※)状態にした上で衝突させなければならない。このためには、プラズマを安定して制御する技術が必要となる。

※プラズマ:原子が、電子と原子核に分離した状態のこと。

一般的に、プラズマの制御は核融合炉が小さくなるほど難しくなる。ただし、建設費を抑えるには炉の小型化が必須条件。だからこそ、欧米の核融合スタートアップの多くは、「小さくても安定したプラズマを得られる核融合炉」の開発に力を注いでいる。

一方、京都フュージョニアリングが強みとしているのが、「熱を取り出す工程」だ。

核融合炉では、核融合反応によって生じる超高エネルギーの粒子「中性子」を利用する。

核融合反応によって生じた中性子は、核融合炉の内側の壁面を覆う「ブランケット」と呼ばれる素材に衝突。ここで、莫大な熱が発生する。

ブランケットの内部には、冷却材(水やヘリウムガスなど)が循環されており、この膨大な熱を吸収。温まった冷却剤の熱を利用して発電用のボイラーを動かし、エネルギーを得るわけだ。

核融合炉

核融合炉のイメージ。中央青色の空間でプラズマが発生し、核融合反応が起こる。側面にブランケットが敷き詰められ、熱を取り出すことになる。画像手前に描かれている人の大きさを見れば、そのスケール感が分かるだろう。

画像:京都フュージョニアリング

京都フュージョニアリングは小西教授の研究を元に独自の「ブランケット」を開発。冷却材に液体金属を利用することで、摂氏1000度前後の熱を安全に制御する(取り出す)ことが可能となった。

冷却剤に液体金属を利用する手法自体は、ヨーロッパでも研究されているというが、温度はまだ低い。

利用可能な温度が高ければ高いほど発電効率は良いと考えられることから、「プラズマの安定化」を目指す海外の核融合スタートアップが、こぞって京都フュージョニアリングの技術に強い興味を示しているというわけだ。

「ゴールドラッシュのリーバイスのように」

リーバイス

ゴールドラッシュで言う「リーバイス」のような会社、と今後の展望を語る。

GettyImages/ Sean Gallup

「私たちは、海外スタートアップから、『ブランケットを設計してくれ』と依頼されるような存在です。住み分けが完全にできているのでどことも競合しません」(長尾代表)

多くの核融合ベンチャーが数百億円をかけてプラズマ制御技術の開発競争を繰り広げる一方で、どういうわけか業界としてその「熱を取り出すメカニズム」にはあまり注力していなかった。

長尾代表は、

「レッドオーシャンになりつつあるプラズマ生成競争の隣に、大きなブルーオーシャンが残っているのを見ると不思議な感覚を覚えます」

と語る。

核融合炉のブランケットを1セットまるごと受注できれば、売り上げは約300億円。劣化に伴い約2年で交換が必要となる消耗品でもあるため、継続的なビジネスとしても十分に可能性がある。

長尾代表と小西教授は、

「(京都フュージョニアリングは)ゴールドラッシュで言う『リーバイス』(※)のような会社だとお伝えしています。(長尾代表)」


世界のどこが核融合に成功したとしても、そこにうちのブランケットが使われている状態になる」(小西教授)


※リーバイスは、1800年代に起きたゴールドラッシュの際に、金を採掘しに来た労働者に破れにくい作業着としてデニムを販売することで財をなした。

と今後の展望を語る。

京都フュージョニアリングでは、ブランケットの他にも核融合炉に投入する燃料(重水素など)を加熱するための装置や、核融合反応の際に生じるヘリウムなどの“燃えカス”を処理する装置などの開発も手掛けている。

欧米の核融合炉スタートアップが調達した数百億円規模の資金の大半は、実験用核融合炉の建設費用にあてられる。

ITERほど巨大ではないものの世界各国で研究炉の建設も進められているため、商用前に一定のマーケットが存在している点も、他の核融合スタートアップとは異なる点だ。

長尾代表によると、すでに海外から加熱用装置などの引き合いが来ている状況だという。一台あたりの売り上げ金額は数億円規模。ビジネスがうまくいけば、売り上げは十億円を上回ることになる。

「仮説の証明」のために加速する核融合炉開発

核融合炉(ドーナツ型)と水素精製プラント(四角の建物)のイメージ

核融合炉(ドーナツ型)と水素精製プラント(四角の建物)のイメージ。核融合炉が実現できれば、発生する超高温の熱を利用した水素製造など、発電以外にも様々な可能性が開かれる。

画像:京都フュージョニアリング

ITER計画では、プラズマの発生を2025年、核融合反応を2035年頃に実現しようとしている。発電の実証は、2040年代に稼働を目指している原型炉「DEMO」の建設を待たなければならない。

いくら「ディープテックは実証までに時間がかかる」といっても、20年以上先まで実証できるか分からない技術に対して、多額の資金提供を募ることは難しい。

ベンチャーキャピタルや投資家から核融合業界に投じられた資金総額は、すでに数千億円を超えている以上、多くの投資家達が「核融合炉で発電する」というコンセプトの証明(Proof of Concept)を早晩期待していることは間違いない。

実際、欧米の核融合ベンチャーの中には、2025年に実験炉を構築し2030年頃に発電を目指す企業も出てきている。

またアメリカでは、エネルギー省からの資金提供を受けてパイロットタイプの核融合炉の開発を民間企業に競わせる取り組みも発表された。

これはかつてNASAが資金を提供し、宇宙への輸送技術を民間に競わせながら開発した 「商業軌道輸送計画(COTS)」を模したものだ。この取り組みで躍進したのが、他ならぬスペースX社である。

この先、核融合炉の実証競争が、欧米のスタートアップを中心に加速してくフェーズにあることは確実だろう。

核融合炉が本当実現可能な技術となるか否か、ここから先の数年間が勝負となりそうだ。

小西教授は、2025年の実証炉の構築や2030年の電力供給が予定通り進むかどうかは分からないとしながらも

2020年代後半には、実際にどこかのスタートアップが核融合炉に短時間であれプラズマを灯すことに成功するのではないでしょうか。そこに当社の技術が使われるはずです」

と期待を語った。

(文・三ツ村崇志

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